初日が終わって
午後からはチェックアウトした宿泊客の部屋の片づけ、清掃をして、次の宿泊受け入れられるように作業した。
客室は和室である。
日本人だからかやはり和室は落ち着くと慧は思った。自分の部屋は洋室だが。
浴衣のたたみ方、シーツのたたみ方を教わる。
コロちゃんズもせっせと手伝ってくれるので進みが早い。
「このたたみ方はお家でもできるからね」
洗面所などの水回りの掃除も欠かせない。
水垢にならないようにしっかりと水気を拭きとり、磨いていく。
鏡もしっかりと汚れを拭きとる。
その後もトイレ掃除、トイレットペーパーの補充、部屋のティッシュペーパーの補充をして、迎え入れる準備を整えていく。
シーツ、浴衣などを洗濯して干していく。
そうしてあっという間にバイトの時間が過ぎていった。
「慧君、今日はお疲れ様。疲れたでしょう。ありがとうね。良く休むんだよ。明日も早いからね」
女将は微笑む。
「じゃあまた明日ね、慧君!」
アスカは手を振る。
「はい、お疲れさまでした」
慧は着替えを済ませると早々に旅館を出る。
陽はすでに西の方へ傾き始めているが、まだ気温は高い。
自転車で感じる風も生ぬるいが、さわやかでもある。
トンネルを抜ける。
慧の町に戻ってきた。
風は熱気を帯び、ムワリと慧の体にまとわりつく。
旅館近くで感じる風とは違う。
自然の中にいると、気温は同じでも風の感じ方が全然違った。
自然の中で感じる風は格別だった。
しかしこちらで感じる風を落ち着くと慧は感じた。
「ただいまー」
「おかえり」
祖父母に迎え入れられる。
「お風呂沸いてるけど、先に入る?」
お腹もすいているが、今お風呂に入っておかなければ満腹になったら動きたくなくなってしまうだろうと思った。
「うん、そうする」
「バイトはどうだった?」
祖父が訊いてくる。
まさか妖怪や幽霊がいたよとも言えないので当たり障りないように答える。
「まぁ、フツーの旅館だったよ」
慧はお風呂に入り、夕食を食べ、歯を磨き終えると早々に自室に戻った。
明日もバイトがあるのだ。なるべく早く休みたい。
ベッドに寝転ぶ。
携帯にメッセージが入っていた。
『今度、そっちに帰る』
慧は「了解」と返し、枕元に携帯を置いた。
「しかし長い一日だったな」
朝自転車をこいで旅館に向かった時とは、あまりにも世界が違う。
ありえないことをたった数時間で経験してしまった。
いろいろなことがありすぎた。
いろいろな人に会いすぎた。
どっと疲れが出てきた。
しかし疲れてる割に頭は冴えている。
今日あったことを思い返してみる。
今思い返してみれば、妙なことは多かった。
あの世界の登場人物たちはいろいろ不思議すぎる。
しかし、妙ではあるが、不気味ではない。
「あ~・・・」
あそこでやっていけるだろうか。
アスカには「面白そうだから」と言ってしまった。
しかし働く彼らの超常的な力を目にすると、不安になる。
人間だというアスカもあの性格で活躍している。
自分には何か強みがあるだろうか。
彼らの個性を上回る何か・・・。
旅館の仕事に活かせる何か・・・。
ない。
「あー、一週間で終わりになっちゃうかも」
ひとり呟く。
別にバイトはしなくてもよいが、なぜかあの旅館は一週間で終わりにされたくない
と思う。
せっかく見つけたバイトでもある。
そんな思いとは別の、何か。
「まずはこの一週間、頑張らないとな」
そうして気が付かないうちに眠りについてしまった。
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