ケイコ
「さっき女将さんを紹介した後、こっちに来ればよかったね」
厨房でカレー作りを手伝った後、二人は受付のほうへ戻ってきた。
ラウンジの奥の扉を開けた。
「ここは夜しか開けないって・・・」
「うん、昼間にお酒を飲みたいお客様は受付に言ってもらって対応するんだ。もちろんお酒以外のメニューもあるよ」
「じゃあ、なんで開けるんです?」
アスカはエへへと笑う。
「慧君に会ってほしい人がいるんだよ!」
バーの室内に日光が差し込む。明るい室内は普段とは異なる姿をしているだろう。
カウンター奥に飾られている酒瓶がキラキラと光を反射している。
「ケイコちゃーん! ちょっといいですかー?」
アスカがまた誰かを探す。
今回はカウンターの奥からすぐに表れた。
現れた彼女は青白く光っていた。髪の毛をおさげにした上品そうな顔立ちの女性。
慧が先ほど廊下で見た女性だった。
髪型が変わっただけだが、先ほどより幼く見えた。
「この人がケイコちゃん、さっき慧君が会った幽霊って言ってたのはこのひとじゃない?」
「そうです。なんで知ってるんですか?」
「彼女もこの旅館で働いているからだよ」
そうだよな、と慧は納得した。
まだこの環境に慣れない。少し気を抜くとこの妙な旅館に関していちいち驚いてしまう。
「ケイコちゃんには、夜の時間に活動してもらうことが多いんだ。夜は私たちは基本シフト無いからね。バーの仕事とか、受付とか。いろいろやってもらうんだよ!」
「ケイコさんは苗字はなんていうんですか?」
「苗字はないんだよね。ケイコっていうのもここに来てからついた名前だし」
慧は名前の由来が気になった。それにどうしてここに来てから名前が付いたのだろう。彼女はなぜこの旅館に来たのだろうか。
「なんでケイコなんですか?」
「暗くなると姿がよく見えるようになるから、蛍光みたいだねってことでケイコになったんだよね」
カゲロウの時とは違うようだ。
「それは蛍光から来てるんですね」
慧は彼女について、一番気になることを訊く。
「幽霊なんですか?」
「幽霊だよね」
ケイコはウンウンと首を縦に振った。
「まぁ、幽霊というか・・・、うん幽霊ってことでいいと思う!」
何か歯切れの悪い説明を受けたが、幽霊だろう。
「ケイ君とケイコちゃん、似た名前の二人ってことで仲良くしてね! 慧君はケイコちゃんが美人だからって惚れちゃだめだよ!」
「・・・はい」
「じゃあケイコちゃん、私達また別のところに行くから!」
「ケイコさん、よろしくお願いします」
ケイコは二人に手を振った。
「よろしくね。慧君」
「喋った⁉ 話せるんですか?」
ケイコはウフフと上品に笑った。
彼女もアスカ同様なかなか悪戯好きのようである。
「慧君、せっかくだからいろいろ紹介しちゃうね!」
アスカは旅館の中を改めて案内し始めた。
「そうだ! 旅館だからお風呂紹介しなきゃね!」
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