再び厨房へ

 その後、慧とアスカも野菜収穫をし、どっさりと野菜が収穫できた。


「みんなありがとうね。助かったよ」


 津軽は朗らかに笑う。


「じゃあ、津軽さん。私たちは野菜持っていきますね!」


 慧とアスカは採れた野菜を分けて持っていく。


「いっぱい取れたね~。今日は夏野菜尽くしのメニューかな。慧君は何か食べたもの

ある?」


「そうですね、こんなにあるから・・・、カレーとかどうでしょう」


「いいね~。夏野菜のカレーは美味しいよねぇ。私はね、ナスが入ってるのが好き」


「俺はセロリが入ってるのが好きですね。あのクセのある香りが入るとコクになる気

がして」


「へぇ、入れたことないわ~。あーカレー食べたくなってきた!」


 旅館裏口に到着した。


「慧君、ここで手とか洗っていこう」


 慧もアスカも手に土がついていたり、汗もかいていた。


 二人は外にある水道で手を洗った。


「冷たい!」


「この水は湧き水なんだよ。冷たくて気持ちいいよね! うちの旅館の蛇口から出る

お水は全部湧き水なんだよ」



 アスカは手拭いを濡らし、良く絞って首や耳、顔にあてた。

「はぁ! 気持ちいい」


 その姿は少し艶っぽかった。




 二人が洗い終えると、ター坊がポテポテと歩いてきて蛇口をひねり手足を洗い始めた。


「タヌキが自分で手足洗ってるよ・・・!」


 どこからか取り出した手拭いで額を拭いた。


「額の汗を拭っている・・・」


 慧は驚きをつぶやく。




 中に入って女将に採れた野菜を見せる。


「良い野菜が育ってるね」


「おいしいお夕食が出来そうですよね!」


「二人とも汗かいたでしょう。着替えてらっしゃいな」

 女将は二人に新しい従業員の着物を渡す。


「慧君、覗いちゃだめだよ~!」

 アスカは女子更衣室スペースのカーテンを閉めながらお茶目に言う。


「覗かないですよ・・・」

 慧は誰もいないのでそのまま従業員休憩室で着替えた、


 二人が着替え終えると、女将が声をかけた。

「アスカちゃん、慧君。この野菜持って行ってくれるかい?」


「はーい! じゃあ慧君。厨房にもって行こっか!」




 慧は本日二回目の厨房に足を踏み入れた。

「この厨房・・・」


 やはり静かだった。


 誰もいない。


 まるで誰にも使われたことがないかのよう。


「誰もいないんですかね。野菜はどこかに置いておきますか?」


「いや、そんなことないと思うけど」


 アスカは適当なところに野菜の入った籠を置き、厨房内をうろうろし始めた。


「何か、探してるんですか?」


「ん? おーい! 出てきてー!」

 アスカがそこかしこをキョロキョロ観察する。



「そこか!」



 すると、


「!」


 物陰から「何か」が動いた。


 何かというのは「どんなものなのかよく見えなかったから」ではない、慧には「何も見えなかった」のだ。


 何かがいる場所には、もやもやと空気が揺らめいている。


 まさに陽炎のように見える。


「ほらほら、姿を見せて!」



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