収穫した野菜の味
「慧君。どうかした?」
「いえ、なんでもないです」
「収穫した野菜は持ち帰ることもできるし、漬物とかサラダとか自分が食べる食事に使ってもらうこともできるんだよ」
「へぇ、それ凄いですね。おいしいものを作ってもらえそうだなぁ」
朝食の凝った献立を見るにきっと、おいしいものを出してもらえるんだろう。
「そ、うちの料理人は優秀なんだぁ」
アスカはふふふと不敵に笑う。
「お姉ちゃん見て! 真っ赤なミニトマト!」
少年はアスカに取り立ての赤いミニトマトを見せた。
ミニトマトながら小さな少年の手にあると、すごく大きく見えた。
「わぁ! 良いのが採れたね!」
アスカは屈んで少年と同じ目線になって話す。
「はい、上げる! アーン!」
少年がミニトマトをアスカの口の近くへ差し出す。
「えぇ! いいの⁉」
アスカはミニトマトを食べた。
「う~ん! 甘くておいしい! ありがと~!」
アスカはほっぺに両手をあてて笑顔を見せる。
少年はえへへと笑った。
「お兄ちゃんも上げる」
少年はミニトマトを慧にも差し出した。
「! いいの?」
慧は手を出して受け取ろうとした。
「待って! お兄さんにもアーンってしてあげて!」
アスカが少年に伝える。
「うん! アーン」
(恥ずかしいって!)
「ほれほれ、慧君、早く!」
アスカが急かす。
慧は屈み、口を開けた。
「アーン、あひはと(ありがと)」
慧はミニトマトを食べた。
「おいしい?」
「おいしいよ、ありがとう」
確かにミニトマトはみずみずしく、甘かった。
(スーパーで買うのとは違うなぁ)
「よく食べたねっていい子いい子してあげて!」
アスカが少年に慧の頭をなでさせる。
「俺犬じゃないって!」
アスカと少年がニヒヒと笑った。
そこでノソノソと大男「ダイ」が現れた。
「あ、ダイさん! 今日もお出かけ? 気を付けてね!」
アスカはダイに手を振った。
ダイは首を縦に振った。
(彼なりの挨拶なんだろうか。言葉で言えばいいのに)
ダイは背中に様々な道具を背負っていた。長い棒みたいなものも見える。
「ダイさん、釣りにでも行くんですか?」
「うーん、そうね。いつも釣りとか、森の中歩いたりしてるね。夕飯の時間には帰ってくるよ」
自然がよほど好きなんだろうか、と慧は思った。
確かに自然好きな者にとってこの環境は楽園のようなものだろう。
「!」
慧は畑の隅でのそのそと動く「何か」を発見した。
「タヌキ? タヌキが畑で野菜を収穫してる!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます