野菜を育てるコツ?


 津軽の手のかごには夏野菜がどっさりと収穫されている。


「すごーい!」

 アスカがはしゃぎながら拍手する。


「津軽さんはね、上手においしい野菜を作ってくれるんだよ~!」


 確かに収穫された野菜たちは色艶、形がよく素晴らしい出来となっている。


(うちの庭でとれる野菜とは全然違うなぁ)



 育てるのにどんなコツがあるのか興味を持った。


「うちの祖父母も家庭菜園してるんですけど、何が大切なんですか?」



「そうだねぇ・・・、植物、一苗ごとの個性をしっかり把握してあげることかな」


「?」



「例えばナスの苗を二つ植えたとして、同じ種類だとしても個性が違うんだよ。同じ土に植えても、一つはよく採れたり、採れなかったり。育ち方とかも全然違う。『ナス』だから『こう育てる』っていうのは間違ってはいないけど、正しくはないと思うの」


「なるほど」


「それって人にも通じるよね。同じ教室、同じ先生で教わっても伸び方って人それぞれだし」


「良い例えだね。育てる方はしっかりと見てあげる。伸びたい方へしっかりと伸びていけるように環境を整えるっていうのが大切なんじゃないかな」


「植物も、人も同じ・・・、関わり方次第で変わる、か」



 慧は昔のことを思い出した。様々な教師に出会ったて来た。自分に合った教師、合わなかった教師がいた、それぞれの顔を思い出す。ほとんど全ての教師が合わなかったと思っていたが。



「思いやりって大事ですよね。特に育てる方、導いく立場にあるほうこそ繊細でないといけないですよね」


「そうだねぇ。ひとつ間違えればそのものの個性の芽を見つけてあげられない、最悪摘んでしまうことになりかねないからね」


 津軽は穏やかに笑う。その目線の先には、ぷっくりと膨らんだ大玉の赤いトマト。それを愛おしく見つめている。


 トマトも赤く輝き、津軽を見つめているように見える。


 自然に愛を持って向き合う、さすれば自然も応えてくれる。そういうことを津軽と野菜の様子から慧は読み取った。


野菜の収穫とは、まさしく自然からの恵み。


「ありがとうございます。伝えてみます」


「そう? あまりアドバイスにならないかもしれないけどね」


 津軽はオホホと笑った。




「あ! お姉ちゃん!」


 宿泊している少年が駆けてきた。


「すみません。野菜の収穫したいんですけど」


 少年の父親が津軽へ声をかける。


「あぁ、はいはい。じゃあこれを持ってくださいな」


 津軽は少年と父親と母親に籠を渡した。


「野菜の収穫ができるんですか?」


「そう、たくさん育ててるんだけど、余ることもあるからね。収穫してもらったらいいじゃないってことで、やってるの。子供たちにとっては自分で収穫した野菜は食べたいってなるから食育になるし、大人には自然に触れることでリフレッシュになるしね」



 家族は楽しそうに野菜を収穫していく。


 楽しそうな雰囲気、弾む会話、そして、


「幸せな笑顔・・・。いいですね、親子のためになるし」


 そう言って慧はふと止まった。


 自分の小さかった頃を思い出した。


(あの子よりも小さかったんだよな・・・)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る