コロちゃんズ

「おかえり、みんな」


 アスカが小人たちに手を振る。


 小人たちもアスカに手を振った。


「あ、さっきの」


 小人たちは慧を見て、慧にも手を振った。


 彼らには指がなく、まん丸のボールみたいなものがある、手のひらや指の代わりであろうか。


「あ、あぁ」


 慧も釣られて手を小さく振る。


 小人たちはまたトコトコとどこかに走っていった。


「あの子たちね、女将さんが作り出した小人なんだよ」


「女将さんが? すごい!」


 慧がそう言うと、女将はホホホと口元に手を添えて上品に笑った。


「ここって従業員が少ないんだけど、やっていけてるのは女将さんが頑張って作ったあの子たちがいるからなんだよ。あの子たちがよく働いてくれるから、大丈夫なんだよネ。それでも夏は繁忙期だから私達みたいな人の手も必要になるんだけど。まぁそれはまたの機会に!」


 アスカは人差し指をビシッと立てる。


「あとね、命を作り出すっていうのはね、大変なんだよ! 維持しないといけないし、常に女将さんはエネルギーを使ってるんだよ」


「へー、すごい! 大変ですね」


 慧は女将の働きぶりに驚く。小人のみんなは日々メンテナンスが必要ということだ。


「まぁまぁ、私は女将だからね、この旅館で一番働かないとね」

 女将がニヤリと笑う。


「よ! 上司の鑑! 責任者の鑑! 女将の鑑!」


「アタシはあの子たちを『コロちゃんズ』って呼んでる! コロコロしててかわいいでしょ」


 慧はこくりと頷く。


 確かに彼らはかわいい。


 あんなにかわいい見た目をして、凄い働きぶりだった。チームワークもぴったりなのだろう。


「見た目は色以外はほとんど同じなんだけど、それぞれみんな性格が少し違ってね。一緒にいると癒されるんだ~。お客さんにもファンになる人が多いんだよ!」


 確かに、と、慧は思った。旅館のアイドル的な存在になっているのだろう。


 その時、慧はふと思ったことを口にしてみた。


「あの子たちは性別はあるんですか?」


「うーん、性別はないねぇ。必要ないしね」


 女将はコロちゃんズ達をみて首を傾げた。


 慧は何気なく「彼ら」としていたが、よく見るとやはり「少年と少女」の両方がいるような気がした。やはり個体差があるということか。


 性別は関わらず彼らから無邪気さ、無垢さを感じる。


「女将さんは小人を作る以外にも何かできるんですか」


「さぁ、それはどうだろうねぇ」


 女将はヒヒヒと笑った。


「運が良ければ他にも見られるかもしれないネェ」


 アスカはまたいたずらっ娘の顔をした。


 結局女将についてはあまりわからなかったなと慧は思った。


(むしろ、謎が増えたような感じ?)


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