幽霊⁉ と 小人⁉

「え? 幽霊・・・⁉」


 そう呟いてしまった。


 それにも彼女はこっくりと頷いた。


 慧は彼女の頭から足まで観察してしまった。


 彼女は幽霊と言いながら「足があった」。


 慧がまじまじと見るので彼女は恥ずかしそうにもじもじとした。


「あぁ、すみません!」


 慧がそう言うと、彼女は面白そうに笑い、そして廊下の奥へ歩いて行ってしまった。。


 廊下に一人になった慧。


(何が、あったんだ?)


 頭の中で理解しようとした。


 頭をフル回転させる。


 必死に頭の引き出しを開け続ける。


 これはどういうことなんだと問い続ける。


 経験から答えを導きだそうとする。


 しかし何も出てこない。




 すると、


 さらに廊下のにある扉が開いた。


 そこはレクリエーション室、卓球台や子供用のおもちゃ、映画観賞用のプロジェク

ターとスクリーンがある大きな部屋である。


 その扉が開いた。


「?」


 慧はモップをかけながらその扉へ近づいていく。


 ドタドタと中から音がする。


「!」


 覗いた先の光景に驚愕した。


 小人がいた。


 およそ二頭身のコロコロとしたかわいらしい見た目の小人たちが、雑巾を手にもって床、窓、おもちゃなど、せっせとレクリエーション室を片付けて働いているのだ。


 小人は慧のひざ下くらいの大きさで、赤色、青色、緑色など様々な色をしている。


 彼らは扉の外から覗く慧には全く気が付いていない。


 慧はそっと扉から離れた。


 自分は何も見ていない、と自分に言い聞かせるように廊下の掃除を続けた。


 同時に頭で何かを考え続けていた。


 しかし頭はなぜか働いてくれない。


 何も思いつかないのだ。




 そして慧は無心でモップをかけ続けた。


 不意に、


「!」

 ほっぺに冷たさを感じて我に返った。


 アスカがペットボトルを手に持っている。


「慧君お疲れさま! 休憩しよ!」


 アスカが笑った。


 休憩中、慧の頭は先ほどの彼女でいっぱいだった。


 彼女だけじゃない、大きすぎる宿泊客、誰もいない厨房、この旅館のことが全て気になる。


 頭で理解できないこと、しかし感じていることはきっと正しい。


 認めたくないのに、それしかないと思っている矛盾。


 聞きたくないのに、知りたい知るべきだという矛盾。


 アスカに訊いてよいのか、と何度も考える。


「アスカさん!」


「何?」


 アスカは慧に向き合う。


 聞きたくない事実がきっとある。


 慧自身は何かと関りを持つのが好きではない。


 昔から深い付き合いは避けてきた。


 何かひっかかりを感じることがあっても、「まぁ、そんなものだろう」と思って無

視、見ないふりをしてきた。


 関わりを持てば何かと問題が起きる、悩む。悲しんだり、悲しませたりすることになる。


 知らなければ、見なければ、関わらなければそんなことは起こらない。


 これならば幸福は得ないが、不幸になることは無い。


 だから今回もこのまま知らないほうが良いに決まっている、そう思った。


 しかし訊かずにはいられなかった。


「ここ、なんか変ですよね。どういうところなんですか?」

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