掃除中の出来事

「女将さーん! 朝食終わりました」


「はいはい、ご苦労様。次はラウンジと廊下のお掃除頼めるかな?」


「はーい!」


 アスカは掃除用具を両手に抱え、慧を連れていく。


 ラウンジは広く、天井も高いので、掃除は二人のできる範囲でやるとのこと。


 壁の駆けられた絵や写真の額縁に乗ったほこりを丁寧に落とし、床をほうきがけしていく。


 壁に着けられているおしゃれな照明の電球もほこりを取り除く。


 置いてあるソファやテーブルの位置を戻し、これらも丁寧にお手入れをする。


「ララララ~」

 アスカは歌を口ずさみながら掃除をしていく。


 歌は小さいが、静かなラウンジによく響いた。


 歌を歌いながらでもアスカの作業は繊細で丁寧、そしてテキパキと奇麗にしていく。


「オーケー! こんなもんでしょ!」


「あの、あそこは何ですか?」


 慧はラウンジの奥にある扉について尋ねた。


「あそこはね、バーみたいなものかな。お酒があってね、夜になるとあの扉を開けてお客様がお酒を飲めるの」


「へぇ~」


 旅館にバーがあるのかと慧は思った。


「珍しいよね、バーがある旅館って。バーっていうにはちょっと違うかもしれないけど。私も初めて来たときは驚いた」


 慧の考えていることを察したのかアスカは述べた。


「ここは掃除しなくていいんですか?」


 そう慧が言うと、アスカはしばし考えて、

「うん、とりあえずここはいいや! 次は廊下に行ってみよー」

 そう言い、廊下の方へ小走りで向かった。


「は、はい!」

 慧もついていく。




 アスカと慧は客室へ続く廊下の掃除を始めた。


「フンフンフーン!」

 アスカは先ほどと同じように鼻歌を歌いながらほうきをかけている。

 

 慧も廊下をモップ掛けする。


 長い廊下、大きな窓から朝日が差し込み明るく照らされている。


 光の抜け具合が美しい造りだ。


 慧は窓の外をのぞいた。


 窓から見える庭の花も奇麗に咲いている。


 窓から見ても花の正面がこちらを向いている。


 しっかりと計算されて植えられ、手入れされているのがわかる。



「確かに鼻歌も歌いたくなる気持ち、わかるな」

 慧の口角が上がる。



 すると、


「?」


 慧の視線の先、廊下の奥に何かを感じた。


 窓から差し込む日光で何かが反射して光っているのだろうか。


 慧は近づく。


 近づくにつれ「それ」は鮮明になっていく。


 上は黒い何か、下は白くひらひらとした何か。


 しかし全体的に青白さを感じる。


 目の前に着て慧は気が付いた。


 それは「女性」だった。


「!」


 黒いと思っていたものは髪の毛で、白いと思ったものはワンピースだった。


 そして、顔がある。


 若い女性だ。


 慧とアスカよりは歳が上に感じる。二十代前半といったところだろうか。


 青白いと思っていたものは、体が透けていたからだった。


 女性は慧を見て微笑んでいた。


「え? 幽霊・・・⁉」

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