朝食の時間

 慧にとっては初めてこの旅館で客と会うことになる。


 アスカと共に食堂入り口で客を迎え入れる。


「おはようございまーす!」

 三人家族が入ってきた。


「おはようございます」

 若い夫婦が二人に挨拶を返す。


「お姉さん、おはようございます」

 その夫婦の息子がアスカに挨拶する。


 アスカに随分と懐いているようで、アスカとハイタッチした。


「おはよう!」


「・・・! お兄さんもおはようございます」

 少年は慧にも気づき、小さく挨拶した。初めて会う慧に人見知りをしているようである。


「おはようございます」

 慧は屈み少年に挨拶を返した。


 アスカはクスリと笑った。




 それから老夫婦、若い女性などが順に食堂に入り、各々朝食を済ませていく。


 家族の話声、笑い、茶碗の音、様々な音で広い食堂はいっぱいになった。


 賑やかになった。


 部屋の温度は変わらないが、暖かくなった様な気が、慧にはした。




 すると、また食堂の戸が開き、そこから慧が見たこともない大きな人物が現れた。


(大男・・・⁉)


 大男といっても慧は下半身だけを見ただけなので、そこから「男っぽい骨格」だと思い、大男だと判断した。


 なぜならその人物の体は食堂入り口の戸よりも大きく、中にいる慧には顔が見えなかった。


「!」


 慧が驚き固まっているのも気にせず、大男は少々屈み、頭が戸にぶつからないようにして、ゆっくりと戸をくぐった。


「あ! ダイさん、おはようございます!」


 アスカは何ともないように挨拶をする。


 大男はアスカをちらりと見て、コクリと頷いた。


 大男なりの挨拶らしい。


「おはようございます」


 慧も挨拶をする。


 するとアスカにしたのと同じように頷き返された。


 その時慧は初めてちゃんと大男の顔を見た。


 顎から頬に掛けて髭が生えているのが目に入った。


 やはり男であった。



 大男は他の客と同じように自分の部屋のしるしの付いたテーブルへ向かい、他の客同様に皆と同じサイズの椅子に座り、皆と全く異なるサイズの手のひら同士を合わせ「いただきます」の動作をして、皆と同じサイズの箸、茶碗で食事を始めた。



 誰もそれを気に留める者もいないことに、慧は大きく動揺した。


(・・・あんなに大きい人見たことないよ。しかも俺だけ? こんなに不思議がってるの)


「あの人ね、ダイさんっていうんだけどね、ホントに「大」って感じだよネェ! 大きい!」


 固まっている慧にアスカは笑いながら話しかける。


(いやいや「大きい」の枠飛び越えていませんか?)


 朝食の時間を終えると食堂は一気に静かになった。

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