初日の朝
次の日、慧は早朝、黄昏館へ向かった。
今日がバイト初日である。
朝の町はいつもと違う。
太陽が昇りきる前、白く照らされる空。
さわやかな空気。
人も、車もほとんどいない。
町がまだ寝ている静けさ。
そんな中を一人自転車で進む。
緊張がペダルをこぐ足にも表れている。
いつもよりペダルが重く感じた。
自転車を昨日と同じように止めた。
すでにアスカの自転車が置かれている。
どきどきとする胸の鼓動を抑えつつ、戸を開く。
ガラガラと音を立てて開く戸。
その音に、受付にいるアスカが顔を上げる。
慧よりも早くここにきているということは、アスカは最早夜中に来ているような時間から仕事をしているのだ。
それなのにアスカは元気いっぱいに慧を迎えた。
「あ! いらっしゃいませ~、慧君こっちこっち!」
アスカが嬉しそうに手招きする。
早朝でもアスカは変わらないようだ。
「はい。よろしくお願いします」
「まず、これ着替えて。奥に荷物とか置けるから」
アスカは制服を手渡した。
アスカ来ている赤い着物とは違い、青い着物。
触り心地が柔らかく着心地が良さそうだ。
慧は受け取ると受付の後ろにある暖簾をくぐる。
奥は従業員のための部屋となっていたが、広さに慧は驚いた。
少々暗いが、何をするにも問題はない。
慧はササっと着替えを済まし、表に出る。
「わぉ! 似合ってるよ!」
いつの間にか来ていた女将とアスカはまじまじと見つめ、にこりと笑うので、慧は恥ずかしかった。
「仕事はそうだね、朝ごはんの準備を手伝ってもらおうかな。アスカちゃん、食堂へ連れて行ってもらえるかい?」
「はーい! 慧君こっちだよ」
アスカに連れられて、旅館の奥へ進むと、「食堂」と書かれた札が貼ってあるとの前に着く。
障子を開くと、床はきれいな緑色の畳に、壁は木目調を基調としたデザインがなされており、それに合ったテーブル、椅子が配置されている。
一目見て、落ち着くと慧は思った。
何よりも目を引くのが大きな窓から見える山であった。
「山の景色が見られるんですね」
「そ、四季折々で景色が変わってきれいなんだよー」
「私が厨房から料理持ってくるから、この紙に書かれたところにお料理並べてくれる?」
アスカが手渡した紙には食堂の図、テーブルの位置が記載されており、部屋番号も書かれている。
「この部屋番号が書かれている場所と同じ位置に料理を運べばいいんですか?」
「そう! お料理の並べ方はこれで!」
アスカは新たな紙を手渡す。そこには料理の置き方、皿の柄の見え方まで丁寧に記されていた。
「はい」
「今日はまだお客さん少ないからゆっくりでいいよ」
配置通りに料理を置き終えると、スピーカーから女将の声が流れ出した。
「おはようございます。お食事の用意ができましたので、どうぞ食堂へおいで下さい」
ガラリと食堂の戸が開き、宿泊客が入ってくる。
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