遊戯篇-教室
学籍番号を頼りに教室へと辿り着くと、すでに十名ほどの姿があった。集まって挨拶を交わす者、携帯端末でゲームをする者、腕を枕に寝る者、各々が自由にしていた。
天城は電子黒板に提示された自身の席へと腰を下ろし、先日買ったばかりの携帯端末を取り出す。SNSのアプリケーションを起動して、連絡先に追加された『和我オスカー』の文字を見る。彼はその文字を親指で押すと、躊躇なく『馬鹿』と書き換える。
「っふ。」
思わず鼻で笑ってしまう。久しぶりに出来た新しい友人。第一印象は悪かったが、なんとなく良い奴な気がする。その時『なあなあ、可愛い子いたら教えてな』というメッセージが来る。やはり、馬鹿なのかもしれない。
ふと連絡先に『雪風』と書かれているのを見る。形容し難い感情が奥底から湧き出る。
「…秘宝ってなんだろうな?」
談笑する男子生徒の声が彼の耳まで届いた。
「何って、生徒会への入会券とかじゃないのか?」
「そんなわけないだろ?だってここはかの有名なアルライン学園。古代の魔道具が幾つも保管されているって噂だ。」
「ってことは強力な魔道具とかか?」
「その可能性もあるな。いずれにしろ金銭価値が高い物で間違いないな。」
宝探し。いきなりのイベントではあるがオリエンテーションとしては面白そうではある。如何にも学生っぽくて良いがどうするか。
そんなことを考えていると、視界に耳をパタパタさせて慌てている少女がいた。パタパタというのは比喩ではなく、頭の上にあるケモミミが本当に動いているのである。獣人の一種であろうか。注視すると局部から狐のような尻尾が生えている。
暫く彼女を観察してみると、どうやら自席近くで男子が談笑していて座れないようだ。
しょうがない。助け舟を出すとしよう。決してケモミミ美少女に興味があるという訳ではない。
彼は彼女に向かって手を振ってみた。それに気付いた彼女は、自分ではないと思い周囲を見渡すが当然いない。私?と自身を指差す彼女に彼はうんうんと頷いた。
「えっと、私に何か御用でしょうか。」
「俺は天城音甲。よろしく。」
「あ、え、ライラ・リリーです。宜しくお願いします。」
「して君は宝探しに興味は?」
「た、宝探し…面白そうですよね。」
「ごめんごめん。急に親しくし過ぎたか。でも俺に敬語なんていらないから。」
「分かりま…あ、分かった。」
すると彼女の席が空くのが見えた。
「あ、未だ席着いてなかった?邪魔しちゃったね。ごめん。俺の事は気にしなくていいから。」
クリっとした瞳をパチパチさせ、席が空いた事に気が付いた彼女は、軽く頭を下げると荷物を持って席へ向かった。
小動物のようで可愛かったな。
天城がそんな事を考えていると前方の戸から先生らしき人物が入って来た。
二十代ほどの若い男性で、長い髪を後ろに束ねて一回り大きな白衣を着ていた。眠そうなその瞳は優しい印象を与え、白い肌は儚く思えた。彼の姿を簡単にまとめるなら格好いいのに可愛いかった。その矛盾する光景に老若男女、見惚れてしまいそうだ。
「皆さんこんにちは。このクラスを担当することになった
矛盾だらけの、この世界で。 燈芯草 @tousinsou
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