遊戯篇-入学式
無事に席に着いた天城は軽く装いを整えると周囲を観察する。やはり優秀な者が多いようにみえる。それもそうだろう。アルライン学園は教育機関でありながら国の一機関である。その入学試験は難関と呼ばれるに相応しい厳しさであった。
「強そうなのがいっぱいだなぁ。」
隣の和我がキラキラと目の奥を光らせながら呟いた。ちょこちょこと動く頭に天城は羞恥を覚えて、赤の他人であるという雰囲気を精一杯に出す。しかし、そんな彼の努力は虚しく周囲からは、心の幼い少年と虚空を見つめる不思議くんという評価を受けているようだった。
「静粛にお願いします。」
女性の声が大きく響いた。先程までざわついていた会場は一瞬にして静寂に包まれた。
「これより第十四回入学式を始めます。」
式はいたって普通で淡々と進み、祝辞が始まった。
「学園長、
登壇したのは着物に身を包んだ老人であった。深く刻まれた皺に鋭い眼はまるで老師のような貫禄があった。よく見ると二本の刀を腰に差している。
「君達は人を殺したことがあるかね。」
その雷堂の一言で会場に冷たい空気が伝う。冷や汗が首筋を撫で、気配に敏感になる。一部の者はこの異様な圧力に身に覚えがあった。そう殺気である。あの老師はたった一言で会場にいる新入生全員に大きなプレッシャーを与えたのである。
「儂はある。それも一人二人じゃあない。儂は若い頃、先の戦争で徴兵され、戦地へと向かった。人を殺さなきゃ生き残れない。そんな場所だったのだ。しかしのぉ、戦地で死んだ者の殆どは、味方の砲撃に巻き込まれたのだ。当時の魔法技術はつぎはぎのものばっかりだ。安全性は二の次で、その殺戮性のみで優劣を測っていた。儂はそれが悲しくて堪らないのだ。
さて、最初の質問に戻ろう。君達は人を殺したことがあるかね。殆どの人は、いいえと答えるだろう。しかし、それでいい。今は平和の時代だ。人を殺さずに済む時代だ。子供らが笑顔で過ごせる時代だ。
だが、いつの時代もそれを脅かす輩が現れる。だから、誰かが貧乏くじを引かなきゃならない。それが我々だ。我々が守るのだ。
君達には、そんな覚悟を持って、ここで学んで欲しい。以上である。」
彼が話し終えるその時まで、誰一人言葉を発することはなかった。それもそうだろう。彼、雷堂
では、どうやって魔導師になるのか。それは簡単明瞭である。新たな魔法を生み出すのだ。たったそれだけが出来れば、誰でも魔導師になれる。しかし、それが成せないから彼等は偉大なのである。故に魔導師は最強なのである。
「ありがとう御座いました。続いて生徒会長、
次に出てきたのは小さな女の子だった。その笑みはまるで嘲笑っているように見え、その瞳は全てを見透かしているようだった。
「心地良い日差しが包み、優しい春風が頬を撫でるこの季節。新入生を迎えることができてとても嬉しく思います。ご入学おめでとう御座います。」
普通だ。
その場にいた新入生が全員そう思ったに違いない。先程の衝撃的な祝辞を受けた為か安心感がした。しかし、彼女を知る者らは全員冷や汗が止まらないのであった。そして、彼等の心配は現実のものとなる。彼女は突如黙り俯いた。その様子に会場が少しざわつき始めると彼女は満面の笑みで顔を上げた。
「れっつぷれ〜い!ゲームの時間だ!」
先程の真面目な雰囲気と打って変わって、まるで子供のようにはしゃぐ彼女に新入生らは呆気に取られてしまう。
「新入生の君達に楽しい楽しいゲームを用意したよ♡その名も『秘宝を手に入れろ!宝探しゲーム!』ルールは簡単!君達はこの学園に隠された秘宝を僕が渡すヒントから探すだけ。期間は二週間。そして見事その宝を見つけた生徒は…生徒会への入会を許可します!」
アルライン学園生徒会。それは単なる生徒会とは異なり軍事的な権限を有する組織である。その強大な権力を説明するには、まずアルライン学園について語る必要がある。
アルライン学園は世界連合が合同で創った教育機関兼軍事機関であり、その目的は世界各地で繁殖している魔物の討伐、テロ犯罪の対処などである。学園はローマを本拠地にアメリカ支部、中国支部、日本支部、アフリカ連合支部、海上支部の六つがある。学園にはその機能から完全独立性を保っており、その運営は全て各生徒会と教員らに一任されている。つまり、生徒会は一国以上の権力を有しているのである。
そんな重要ポストの生徒会役員を生徒会長はゲームで決めようと述ているのである。新入生はもちろん教員までもが騒ついていることから生徒会長の独断なのであろう。彼女は満足気な表情を見せると軽い足取りで壇上から降りた。
波瀾万丈な入学式はそんなこんなで終了し、各自教室へと向かった。
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