第2話 勘違い
(side:陽真莉)
「…おい、みてみろよ、あれ」「あぁ?っておいまじか」「天宮だ」
「天宮だけど、佐藤がいない…だと?」「まさかついに破きょk」
「んなわけねーだろ」「流石にかー、ちっ、もしかしてフリーになったのかと」
「どうせ夫婦喧嘩でもしたんじゃねーの」「うわありそー」
皆感づくの早すぎるよねぇ。
そう、ついさっき私は彼の元を離れたのだ。自分の意志で。
彼が私のことを見てくれていないと感じたから。
思い返せば最近、彼の行動が変だったようにも感じる。いつもレッスンの後してくれていたマッサージも自分でするようにと言われたり、一緒に遊びに行くことが極端に減ったり。よくよく考えてみれば彼が離れようとしていることは明白だった。
私はアイドルを辞めるべきなのではないか?
教室について自分の席についた瞬間、ふとそんな考えが頭をよぎった。
そもそもどうしてアイドルを始めたのか。スカウトの誘いを断らなかった理由も彼だった。あの頃にはもう彼に恋心を抱いていたことは自覚していた。だからアイドルになれば、彼が私に魅力を持ってくれえるかもしれないと思った。
「最悪の結果になったけどね」
そうつぶやいてみる。
「どうしたの陽真莉」
…っ!やはりさっきのは嘘で帰ってきてくれt
顔を上げるとそこには親友の井上神奈の顔。
「…はぁ、神奈か」
「そんなにがっかりされるとあまりいい気しないんですが」
「そりゃ申し訳」
「ってかほんまになんかあったん?さとち隣りにいないし」
なにかあったよ。まったく。
ありすぎてシリアス感を出そうとしているのがわからぬか。
一応説明しておけば、親友の井上神奈(2回目)。陽キャ。それ以上の情報はまたいずれ。
「ね〜なんかいいなよ〜」
「別れた、以上」
「あ~別れたんねぇ、別れた、ぇ?ま、マ?」
こんな嘘ついてどうしろと?
「え〜だってあんなラブラブなお二人さんの破局ともなると学校の掲示板に載せれるレベルだぜぇ?それを軽々と言われちまうと神奈ちゃんおったまげですわ」
「例え方のクセが強くないですかねぇ」
「はいはい、まぁそれはそれとしてそのへんに置いといて」置くな不法投棄で捕まるぞ。いや彼女の場合一回捕まったほうが今後の人間関係のためにも
「おい話を聞けい」「あっはい」
そこからの尋問はこんな感じだった。
Q.彼氏とはなんで別れたの?
A.彼が女の子としての私を見なくなったから。
Q.別れたのはいつ?
A.昨日彼から別れ話を。本日朝をもって関係解消。
Q.今後どう接していくつもりなのか?
A.未定
Q.親に話すタイミングについては?
A.未定
Q.今後他の男と付き合う可能性については?
A.うち恋愛NGなんで(形式上)
実際男のいないメンバーのほうが少ないまである。
けど新しい男を作るとなると、
「いまはまだ難しいかもなぁ」「難しそうだねぇ」
そりゃ別れ方こそ最悪ではあるけれど、客観的に見てもやりすぎじゃね?ってくらいベタベタしてたのは認めざるを得ないし、実際恋人から幼馴染に戻ったとはいえ、幼馴染って十分関係性としては近いものだから何かと一緒にされがちにはなるだろうし。
「てか」
「何だね」
「もし佐藤が新しい女の子連れてたらどうするわけさ」
「いやまさかそんなすぐに新しい彼女作るほど彼も常識を知らないわけは」
その時隣のクラスから飛び込んできた男子が叫んだのは
「佐藤、破局!」
男共「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」
「今佐藤を胴上げしてるからお前らも来いよー」「まじで?行く行く」
「どこ情報だよ、滝◯ガ◯ソか?」「ついに俺等にも春が…っ」「お前には来ねーよ」
うん、お前らには来ねーよ?
というか、私が必死に隠そうとした意味とは?
こうなるなら普通に宣言すればよかったかなー?
「ねぇねぇ陽真莉ちゃん、今の話本当?」クラスの女の子が聞いてくる。
「あー、まぁ、本当、デス」
「え、本当なんだっ、意外」
「そ、そうかな?」
「うん、一番ないって思ってた。え、てかさ、別れたってことは」
うん?まさかとは思うが、『佐藤くんを狙ってもいいんだよね?(キラキラ)』とか言い出さないだろうな、この子。
「佐藤君を狙ってもいいのかn」
「駄目です」
「そうだよね、別れt、ってん?え?許可降りないことあるの?」
あれ、なんでだめって言ったんだろ。もう別れてるし関係ないのに。
そう思っている間にも口は勝手に動く。
「私の将馬だから誰にも渡したくはない」「ずっと私の」「ほかの子に渡せるような存在じゃない」
「えーと、なんで別れたの?」
…なんでだっけ?
彼と私の価値観に相違があったから?でもそれくらいなら話し合えばよかったはず。
もしかして、
「…将馬はもう私に興味がない?」
そう仮定すると色々つながってくる。私のサポートをしてくれなくなったのも、急に別れようと言ったのも、理由がそうならばすべて辻褄が合う。でもそうなると私はどうすればいいのだ?
彼に棄てられることなど考えたこともなかった。だが現実問題としてそれは起こってしまった。なら私が成すべきことはなにか?
ふっと1つ、考えが浮かんだ。
「…復讐?」
「えっと、さっきから何をブツブツ言ってるんすか陽真莉さんや」
「神奈」「はいな」
「私に協力してくれないかな?」
「へ?」
いいことがないのでアイドル彼女と別れてみた。 叢雨 @murasame_0404
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