第1章

第1話 なんてことない日常(虚)

朝起きるのは早いほうだ。なぜなら毎朝の日課のランニングを彼女と、

「って、もう別れたんだっけか」と俺はため息をつく。


あれから1週間が経った。大型連休に入る前の日の出来事であったから、精神を落ちつかせるために学校を休まないといけない、なんてことはなかった。もっともそんなことをすると皆勤賞が途切れてしまうのでできればしたくはないが。

家族にはこのことをまだ伝えていない。それは向こうも同じなのだろうか。まぁうちと陽真莉の家は家族ぐるみで仲がいいのだから、もし言っていれば家族会議で済む話ではないだろう。


彼女のいない生活はどうなるのだろうか。と考えながら朝食を食べているとインターホンが鳴った。そうそう、毎朝彼女がうちに来て俺と一緒に学校へと登校するのが、

って待て、そんなはずはない、だって俺は彼女ともう別れて


「陽真莉ちゃん来てるから早くしなさいよー」

「…何かの見間違いじゃないのか、母さん」

「あんた、何言ってんの、いつも通りのことでしょうが」

いや、そう、そうなんだ、間違ってはいないけど、間違っている。

俺は確かに自らの手で彼女との関係を切ったはずだ。

「おはよう、将馬」

思わずその場に崩れ落ちそうになった。


**


「〜でさー、久しぶりにそのプロデューサーさんに会ったからさー」


どうして普通に話しかけてくるのだろうか。なぜまるで何もなかったかのように振る舞うのか。


「…なぁ」

「ん?」

「もうやめないか」

「何を?」…何をって「こういうの全部」だよ。

「じゃあ聞くけどさ、私のこと嫌い?」

「そりゃ嫌いではないよ」

嘘だ、好きだ。当たり前だ。


「じゃあなんで」


「俺が、お前の邪魔になるわけにはいかない、からだ。お前には、アイドルとしての夢もあるし将来性もある。それは俺1人のせいで潰えていいものじゃないんだよ」


…返事がない。

いや、違う。彼女は、陽真莉は、怒っていた。なぜだ。俺は間違ったことをしただろうか。彼女の将来のためならば、彼女の名声が少しでも遠くに届けば、それならばそこに俺は不要なはずだ。なぜ彼女は怒っているんだ。


「将馬はもう、アイドルとしての私しか見てくれないんだね」


気づけばもう、俺の隣に彼女はいなかった。


**


「うぃーっす、将馬。どないしたんやそんなシケた面して」

教室に入るとすぐに、俺のもう1人の幼馴染である島田一平が話しかけてきた。

「生粋の関東人が関西語を使おうとすんな」

どうせ某探偵モノの漫画に出てくる名探偵の西の方に影響されたのだろう。


「それよりも、聞いたでー、朝、陽真莉とお前が喧嘩しとるのを見たーって噂」

見られていたのか。周りに誰もいなかったような気はするのだが…?

まあ、正直隠せそうにもないしこいつに話しておけばすぐに広まることだろう。

「あぁ、昨日別れようって言ったんだ。」

「…おま、それまじで言ってんのか」

おい関西弁どこいったよ。設定はちゃんと守れよ、そこは。

「ついに振られるとはなぁ、陽真莉も現実的になったんかぁ」


ウーン、アー、フッタノ、オレナンデスヨネー

誤解を解くためにも、昨日俺が陽真莉を振ったこと、今朝喧嘩をして実質絶交となったことを伝えると、

「…頭でも打ったんか?」

「いや、俺は至って真面目だ」

「んなわけないだろ!お前あんだけベタベタしてて振ったの自分の方からですって、どんな精神してんだよっ」

それは俺も覚悟の上だ。周囲から多少の批判は受けるだろう、少なからず覚悟はしていた。そのうえで決めたことだ。今更日和るワケにはいかない。

「あいつの今後のことを考えたら俺は邪魔だと俺自身が思った結果だ、受け止めてくれ、相棒」

「…そうか、いや、でもこれをあんまりいうと…」一平はなにかいいたげではあったが、顔をこちらに向けると

「とりあえず何があったのか理解はした。だがそれを俺が肯定するかはまた別の話だまあまずは、水を差すようで悪いが、周りをご覧くださいな」

…うん?なんだか嫌な予感が

「「「俺達が」」」クラス中の男どもが急に立ち上がったかと思うと、

「「「天宮のこと狙ってもいいんだなぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」

「そうはならんだろぉ」いや、そうなるのか。

腐っても陽真莉はアイドル(恋愛禁止)だぞ。それでもなお、俺というストッパーが消えた今、こうなることは当然なのか…

「一平、俺から1つ、お願いをしても?」

「言いたいことはわかってる、見返りは?」

「月額2000円」高校生にはちときついが、もしものために貯めておいた金がある。

これで一平に、陽真莉の護衛をさせようというわけだ。問題はこれでコイツがなびくかという問題だが…

「確かに頂戴、と言いたいがタダでいい、俺もお前以外の男とつるんでるのはあんまし見たくはねえからな」

…こいつと幼馴染で良かったわ、まじで。

そうこうしているうちにHRとなり、一旦この騒ぎは落ち着いたのであった。

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