いいことがないのでアイドル彼女と別れてみた。

叢雨

エピローグ

エピローグ 別れの言葉って絶妙なものがないよね

 いきなりだが、俺、佐藤将馬には彼女がいる。めっちゃかわいい彼女がいる。

あぁ、別に自慢をしているわけではない。なぜなら、俺はこれから


そんな最高の彼女に「別れたい」と告げるのだから。


うん、おかしいだろう。なぜ愛があるのに別れるのかと。

逆だ。愛ゆえにだ。

順を追って説明しよう。俺の彼女の名前は天宮陽真莉。生まれたときからずっとひっついている幼馴染でもある。そして何より、彼女はアイドルだ。そう、学校のアイドルとかそういうのを超えた、バリバリのアイドル業の方でだ。ここまで言えば感のいいヤツはわかるのかもしれない。そう、彼女が属している事務所は恋愛NGなのだ。

彼女の夢の邪魔をこれ以上するわけにもいかない。だから俺は…


「陽真莉、俺達別れよう」

彼女の顔は見れない。そらそうだ。

1年前、彼女が業界の厳しさに打ちのめされたとき、俺の前では泣かせない的なきざなことを言ったのは俺だ。辛いときは電話してこいと言ったのも俺だ。

これ以上の裏切りがあって良いものだろうか。殴られてもいいと思った。学校中に悪評が広まろうと構わないと思った。

結局彼女は何もしなかった。ただ一言「そっか」と発しただけだった。


**


(side:陽真莉)

私には彼氏がいる。彼とは生まれたときからずっと一緒。中学生のとき、彼から告白されて私達は付き合い始めた。その半年後、私は街でスカウトされ、アイドル業を始めた。辛いときもあったけれど、そんなときいつも支えてくらえたのが彼だった。

このままいけば、高校卒業と同時に結婚もあるかも、なんて頭の片隅に浮かんだ事もあった。

「陽真莉、俺達別れよう」








…嘘だ。




嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だそんなわけない彼がそんな事言うわけがない言ってほしくない私がなにかしたのだろうかきらわれたのいやだそんなのいやだはなれてほしくないずっとそばにいてもらはないとわたしはいきていけないなのにどうすればいいどうしればかれがわたしのことをはなさないでいてくれるどうすればどうすればどうすれば


頭の中が負の感情で埋め尽くされていく。


絞り出した言葉は何だったろうか。

理由を聞くべきだったのか。

もはや別れたというこ以外何も覚えていない。次に意識を取り戻したとき最初に見えたのは、彼の姿ではなく、家の天井だった。

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