こさめとはるかぜ
menou
冷え切った街
もうじき春が来るというのに、街はひどく冷たく、ただ寒い。
地元にもどこにも居場所がなかった私は逃げるように東京に出て、まるで自分が幽霊になったかのように日々を過ごしてた。
夜の電車は冷たい眼差しの人々を乗せてどこかへと運んでゆく。
駅はただくたびれた人々を吸い込んで都会の雑踏を溶かして行く。
鋭利な雨垂れはただただわたしのからだをさしてはきずつけていくばかりだった。
雑踏の中に紛れながらゆっくりと駅のホームへ向かう。
みんなのようにいそいそと歩く元気は微塵もないの。
比較的人の少ないホームの端っこでベンチに座りながら物思いに耽っている唯一無二の時間は私がいずれ人々に溶け込めずに今より孤立してしまうことに警鐘を鳴らすかのような車輪の轟音によって引き裂かれ、もう考えることも無駄なのだとすら感じた。
柱に貼り付けてある『こころの電話』のポスターに目をやるけれど、向こうに人がいるということを考えると己がどれほど間違ったことをしているかが咎められるように感じられてどうしても気が乗らなかった。
今日昼休みに職場で記した私の最期の叫びをベンチに置くと、今まで取っておいた薬瓶やら何やらをその辺に置いてしまった。
度数が強く悪酔いしやすい酒で最後の咳止めを押し流し、ふらつく足でなんとかホームの付近までたどり着いた。
『ねえ、まって。 あなた、名前は?』
誰かの声がする
衝動的に振り向くと、腕を掴まれてベンチの側へ引っ張り込まれた。
こさめとはるかぜ menou @benzene0211
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