第四話 魔勇者

無事魔王城地下の牢屋にぶち込まれた俺と元勇者。素っ裸で尊厳とか色々なものを失いかけてる俺は壁に向かって歌を歌い正気を保っていた


「なんだっもぅ朝かと〜♪……ひとりごつ〜♪……焼けたパンにバターぬりぬり……」


「アンタ……大丈夫か?……」


大丈夫なわけがないだろう。

こいつに勝つ事と恩恵を奪う事だけしか考えずに動いたせいでせっかく助かった命をまた失いかけているんだ。その上素っ裸のまま牢屋にぶち込まれて……やっぱ逃げれば良かったかなぁ……


「ずっと気になってたんだが何で裸なんだ?おっさ…じゃなくてお兄さん」



結構踏み込んでくるなー!もうほっといてほしいんだけれど


「お前と魔物達のクールダウンをと思って……」

嘘です。本当は油断させて恩恵チートを使わせない為です。でも仕方なかったんです。捕まってた人を演じる為にはセルフ身ぐるみ剥ぎしか


「そっか。じゃあまぁこの上着貸してやるよ。アンタさっき魔物達から庇ってくれたしな」


何この子めっちゃいい子……!

ただその優しさが既に地に落ちた俺のプライドを更に傷つけているんだ。

年下に気を使われる年上程情けないものは無い……


俺は勇者から受け取った上着を腰に巻いてとりあえず裸ん坊は卒業した。


「……ありがとう……でも俺はアンタの恩恵を奪った奴なわけで〜〜」


「それは許さない」


おぉ……ちゃんと分別もはっきりされている様で……


「まぁでも……敵陣で気を抜いた俺の負けは負けで本来ならあそこで死んでいただろうしな。 こっちも多少のリスク背負ってこの国に攻め入ってる訳だしお互い様だ。」



こいつオトコだッ!!主人公みてぇな奴だな!!! 

若くて優しくてイケメンで強くて一人で魔王国に攻め入る度胸もある

完全に主人公であるはずの俺の立場を食いに来てやがる!! 



いや……違うな……そもそもいつから俺が主人公だと錯覚していた!?

こいつはそもそも魔王を倒す勇者として転生してきて俺はその転生してきた勇者の恩恵を消す存在だ……誰が聞いても主人公じゃない!!



しかも助けてと泣きついてからの騙し討ち……やる前からわかっていたけど……やっぱりみじめだねぇ……


ただ思う所があるとすれば……そんな主人公な奴すらもなぜろくに復興も進んでいない様なこの国を必要以上に襲撃するのかという点だ。



「なあ勇者……あんた転生者なんだろ?」


「という事はお兄さんもなのか?」


「あぁ……俺はなにせまだこの世界に来たばかりで何も知らないんだ……けどどうもアンタが無闇に殺しをする奴には思えない」


しばらく沈黙が続いた後勇者は答える。


「俺の仕えてた国に何人転生しゃ……勇者がいると思う?」


「いっぱい」


「ハァ……答えは0だ」


「いや少なくともお前は勇者として入るんだから0って事は……」


「0なんだよ……きっと俺の仕えてた国以外もそうしているだろう 魔族は俺達の事を勇者なんて呼んじゃくれたが実際はそうじゃない。 」


「じゃあお前らは一体何なんだ?」


その答えを聞こうとした時、魔物兵達が数名鍵を開けて牢の中に入ってきた。


「ちょっ……なんなんですか。 まだ話してる途中でしょうが」


「裸ん坊の人間 王がお呼びだ ついて来い」


もう腰に上着巻いてるから裸ん坊ではない!!ってそんな事はどうでもいい

俺がこの世界にやってきた理由として彼の話は聞いておかなければいけない気がする


なのにッ!!


「いけよ。 また会った時にゆっくり話してやるよ」

「勇者ぁぁ~~!! 絶対だぞぉぉぉ~!!!」



俺は抵抗虚しくあっさりと魔物兵に再び手枷と足枷を付けられ担がれて連れて行かれた。


抵抗しても無駄なので魔物兵の肩の上でなるがままにしていると数十mはあろう高さの穴の空いた天井に割れたステンドグラス、所々にヒビが入った壁のとても大きな部屋連れて行かれた。


そこには数十にも及ぶ魔物兵達に加え赤毛の獣人が中央に立っており奥の玉座の隣には首なし騎士、玉座には白い髪に立派なツノそして黒のドレスが良く映える少女が座っていた。


俺が赤毛の獣人の手前で魔物兵に丁寧に降ろされると赤毛の獣人は少女に向かって話し始めた。


「この者が勇者の桁外れの力……恩恵チート?を奪った転生者でございます。」


少女は裸の俺をまじまじと見ているので咄嗟に俺は手で乳首を隠す。

日本なら完全に事案だからな。一応隠しておかねば


しばらく少女は俺を見つめた後、口を開く。


「歪じゃな……実に歪じゃ……」


えぇ。俺の乳首そんなに変だったかな……


王と呼ばれる少女の言葉に静粛が広がり、赤毛の獣人は耐えきれずか尋ねた。


「えっと……王よ……何が歪なんでしょうか?」


少女は無表情で淡々と答え話す。


「魂じゃよ……あまりにも歪すぎる。 人間……口を開くことを許す故に答えよ……記憶が無いのではないか? 」


何を言ってんだこののじゃロリは俺の記憶が無いだって?


いやいやそんなわけないじゃ無いかだって俺は日本で元々暮らしてて死んで神の爺さんと出会って転生者の恩恵を天に返す神命を受けてこの世界に飛ばされてゴブリンに捕まって助けてもらってこの魔王国に連れてこられて勇者と呼ばれる転生者の恩恵を返して牢屋にぶち込まれて今に至る 


ほら全部覚えている


「全部覚えていますが……思い過ごしでは?」


少女は足を組み直し頬杖をついてからフッと笑って更に尋ねた。


「その割には縫い跡が目立つな……まるで覚えているという事を縫い付けられた様な、欠片を一部抜かれているかの様な……いやその両方か  ロザンヌから聞いておるそなた小鬼に捕まっていたそうじゃな?」


……赤毛の獣人はロザンヌさんというのか


「えぇ そうです。 ロザンヌ?さんに助けて頂きました」


「では小鬼に捕まった時の事を詳しく話してみよ お前がこの世界に降り立って直ぐの事を」


そんなもの余裕で話せるわ!!昨日一昨日の出来事だし!!賢い方ではないがそこまでボケてもないぞ。


この世界に来て直ぐ俺は………俺は………アレッおかしいな……


小鬼に捕まった時も……俺抵抗したんだよ……それで多分……負けて捕まってロザンヌさんが助けてくれて……


白髭面のジジイが俺に恩恵の説明やこの世界についても……いや本当に……面と向かって説明して……いや……されてない?……俺はいつの間にかそれを知っていたじゃあ白髭のジジイは?……見た目を覚えているなんて会ったとしか……でも説明されてない


俺はドンドン自分自身という存在がわからなくなっていき冷や汗がポタポタと床に垂れた。その様子を見てか少女は続ける


「今までこの魔王国領近域に転生者が現れる事例など無かった 魔王が死に魔の者が日々数を減らしている中で歪な魂を持った人間が魔王領に降り立つ……しかもその者は転生者の持つ恩恵チートを消してしまう恩恵持ちと来た。 実に出来すぎていて歪じゃと思わぬか? 」


それを聞いたロザンヌが血相を変えて王に尋ねた。


「では魔王様が死の間際、予言しておられた魔の者を真の平和へ導く魔勇者とは!?」


「さしずめ……この人間の事であろうな」

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なろう滅却 ーいい加減ヨイショする側の気持ちになってくださいー @seisansan

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