第三話 初勇者戦

俺は獣人の屋敷を飛び出して警報にあった魔物や魔族達が迎撃準備をしているという東門を探す。


初めての街ではあるものの魔王城と思しきボロボロの大きな城はこの街のどこからでも確認できるので城を中心に考えてひたすら走った。


街の状態も酷いもので勇者襲撃が日常化しているのか修繕に手が回っていない様に伺える。


獣人が言っていた通り領土と資源だけが目的ならこの半壊状態の国に攻め込まずとも良いだろう……きっと理由は他にあるに違いない


色々な憶測が頭の中で飛び交いながら走っていると地面が揺れる程の轟音と砂煙が瓦礫と共に空に舞い上がるのが見えた。



転生者との戦闘が始まってしまった様だ。


俺の恩恵チート使用には二つの行程が必要で一つは対象に触れる事 そしてもう一つが相手が恩恵を使用していないタイミングで『滅却』と唱える事だ



ジジイの話を要約すれば触れる事で恩恵を解析する。滅却の効果は対象の魂と紐付けされた恩恵の繋がりが薄弱状態 いわば恩恵を使用していない状態であれば断ち切る事が出来るみたいな感じ











いやこれでどうしろって言うねん。


今説明してて思ったけどこの恩恵使いにくすぎるでしょ


こんなの寝込み襲ったりしないと無理だよね?


魔物の国総出で迎え撃つ勇者?転生者? どっちでもいいけどそんな化物の身体に小鬼に捕まってたクソ雑魚ナメクジの俺がまず触れる事が出来ますかね?




仮に触れられたとして恩恵を使用していないタイミングっていつなのよ!!



既に戦闘は始まってるしさー


俺は立ち止まって何度も力量未知数な勇者改め転生者との戦闘シミュレーションを行うが全く以って意味を成さない


そらそうだよね!前いた世界じゃ恩恵自体存在しないし!!



もうダメだ 今回は運が悪かったと思って逃げてしまおうかとそう考えた時、獣人の去り際に言った言葉が頭をよぎった




『勇者が人間を殺す事は無いだろう。最悪の場合は助けを求めると良い…… 勇者にな……では行ってくる』



助けを求める……同じ人間……


しかし……これはいくらでなんでも……


俺にだってプライドが……


でも……プライド一つで全て収まるのなら安いもんだよな


そうだ……フフフ…ククククッ


「アハハハハッ!! 正面から挑むのやーめた!!絶対勝てないし!!ただこんな簡単な事思いついちゃうなんて俺最高に格好悪いな!!」




俺はおもむろに服を脱ぎ全裸となって髪をボサボサに掻き上げ、自分の目を指で突いた。

両目から涙が溢れ出してきたタイミングで再び俺は走り出して砂煙の上がった方向へ叫びながら向かっていく


「あああぁぁあああッ!!!!助けてくれええええええ!!!!」



何度も何度も叫んで喉をカスカスにさせながら助けを求めて駆けていく。

あぁー何て情けない姿だろうと何度も思った。



息を切らしながらしばらく走ると大きな門と広場、そして倒れた魔物達の姿があり、広場の中央では俺を助けてくれた赤毛の獣人と数名の魔物がマントと鎧を身につけたいかにも勇者姿な一人の男と激しい攻防を繰り広げているのが見え、金属の鈍い音が大きく響いていた。


俺はその響き渡る鈍い金属音に負けじと腹から叫び声を出して勇者姿の男に駆け寄っていく。



「勇者様ああああああああ!!!助けてくだせえええええ!!」



すると攻防を繰り広げていたのが嘘の様に止まって魔物も勇者姿の男も一人の全裸の情けない男に視線が釘付けとなった。勿論俺なんだけども


「おい……誰だこの全裸の人間は?」

「わ、わたしは知らない……こんな無様な奴」

「こんな奴この国にいたか?」



案の定赤毛の獣人は目を逸らし知らない人として装われ俺は少し傷付いたが今はむしろその方が都合いいのでそのまま勇者に泣きつこうと近づく


「今日は人間シチューだって攫われてえええ!  気が付いたら魔王国でええええ!! もう終わりやと思ってええええ!! そしたら強い勇者様が現れてええええ!! こんな魔物達やっちゃてくださいよおおおお!!」


「おい近づくなよおっさん! 気持ち悪りぃ」


おっさんという言葉に少し苛立ちを覚えながら俺は四つん這いになりながら動揺している勇者の身体についに触れて身につけていたマントで鼻をかんだ。


「うわぁああぁ!!!きったねえええ!!」


その瞬間[恩恵解析完了 恩恵:剣技 滅却可能状態です]と無機質な声が頭の中で鳴り響く。



俺は内から込み上げる勝利の確信で笑みを溢しながら唱えた。


「滅却」


するとたちまち握力を失ったかの様に勇者の男は握っていた剣を落とし、俺はぐちゃぐちゃになった顔を手で拭いながら何事も無かったかの様に立ち上がった。


「あれ? おかしい……手に力が……いやそれだけじゃない……思った様に身体が動かない……何で」


動揺を隠せない様子の元恩恵持ちの男勇者と呼ばれていた男に俺はピースサインをして答える。


「君の俺TUEEEも無双も今日で終わり。君の恩恵……奪っちゃったからね」


「な、何言って……それにあんた人間だろ? 何でそんなことする必要が」


「俺の事おっさんて言ったから!!!26歳はおっさんじゃなくてお兄さんだ!!!俺と俺以上の年齢の人に謝れ!!!じゃないとぶん殴るぞ!!!」


「悪かった……あ…謝ったんだから返してくれよ 頼む」


ごめん謝らせてなんだけど……正直返し方は知らないし多分返せないんだ


「なにがなんだかよくわからないが勇者を討ち取るなら今だッ!!!」


「お……おおぉぉッ!!!」


そう言って元勇者に対して剣を構える魔物達に咄嗟に俺は勇者の前に立って剣を収めるよう説得を試みる。


「ちょちょちょっ……ちょっと待って!!!俺はアンタらを助ける為にコイツの力を奪ったわけじゃないんだよ」


「どけ裸ん坊!!」


裸ん坊でなにも間違ってないんだけれど……いやそうじゃなくて


「どかないよ!! こいつは力を失ってもう勇者でもなんでもない 」


「そうはいかない コイツは侵略者で仲間の命を奪った 」


命には同じ命で償わせる……魔物側の考えは間違ってはいないだろうし理解できるがそれだけは絶対に嫌だ。争いは争いを生むとか恨みは連鎖するとかそういう大層な考えでも無い。ただただ格好付かないが俺は命の責任を負いたくないだけだ。


それだけの理由の為に転生者である俺を助けてくれた赤毛の獣人に目を合わせて再度説得を続ける。



「お願いだ……コイツの為じゃなくて俺の為に納めてくれよ……力を奪ったから死んでしまったなんて寝覚めが悪い。」



赤毛の獣人は周りの魔物達の目を伺いつつも腕を組んで悩みに悩んで数分後、頭を搔きながら大きなため息をついて命じた。


「ハァ~ッ……副団長権限により勇者の身柄は捕虜として拘束を命じる……雇い主や他の勇者に関しても有益な情報が得られるだろうしな……それと全裸のコイツも拘束して牢にぶち込んでおけ」


「「ハッ!!!」」


「ありがとう!!これで夜も安眠でき……え?」


俺は素っ裸のまま手錠と足枷を付けられ前を満足に隠せないまま元勇者の男と共に牢へと連れていかれるのだった。

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