第二話 赤狼の娘  

目が覚めると見知らぬ天井が広がっていてふかふかのベットで仰向けになっていた。

記憶が曖昧で夢を見ていた様な気もするがはっきり思い出せない。


身体を起こすと衣服が見慣れないモノに変わっている事に気が付く。


どことなくだがこの衣服といい部屋に置いてある物といい高級そうな印象を受ける。


うむ……俺って貴族の坊ちゃんだったのかもしれない。


意識がはっきりしてきた!!俺はいつの間にか貴族の坊ちゃんになったんだ。


「だからもうすぐメイドさんのモーニングコールが!!!」


「メイドじゃなくて悪かったな人間」


「ハヒャーーーッ!!!」


いつの間にかドアの前には俺の買い取り主で失神させた張本人である赤毛の獣人が立っており、俺は咄嗟にファイティングポーズを取る


「フォオオオ~~!!!アチョー―!!!」


「なにがしたいんだ それは」


「狼に食べられる前に一矢報いようと」


獣人は大きくため息をついてから近くに置いてあるソファーに座って話を続ける。


「食うつもりならわざわざ綺麗なおべべ着せて綺麗なベットで寝かせたりしないさ 私自らな?」


「え……それはそれで恥ずかしい」ポッ


「頬を赤く染めるな!!!」


「んもぅ大事な所見られたからお婿にいけない。」モジモジ


「モジモジもするな!!話が進まんだろ早くそこに座れ」


彼女はツッコミ適性がかなり高い様だ。

ツッコミ適性の高い奴に悪い奴はいないし、事実として小鬼達から救ってくれた様だし信頼出来ない相手ではないだろう。


「それでここはどこなんだ?」


「ここは魔王国にある私の屋敷さ 正確には私の一族のな」


「そもそも丸呑みにするって言ってたのになんで助けた? 心変わりか?」


「魔王国周辺が故に誰が聞いてるかもわからない状況で助けると言えなかっただけだ。 それにそもそも人間なんてわざわざ食うのは余程の恨みを持つ奴か趣向が捻じ曲がってる奴だけだけだしな」


「それでも買い取ってまで助けたりしないと思う」


彼女は少し考えこむ様子をしてから答える。


「そうだな 強いて言えば気の毒だと思ったからだ こちらの世界へやってきたばかりなのに……と」


異世界に関して俺彼女と話したか?

いや話していない 寝言も言っていないと思う

ということは他の転生者を知っている?


他の転生者の知り合いとなれば転生者の恩恵を奪う存在である俺は敵になる可能性が無きにしもあらずだ


ここは慎重に聞いてみよう



「えっと……なぜそれを……?」


「簡単な話だ 着ていた衣服を見れば直ぐにわかる たまにアレと似たモノを着た奴が攻めてくるのでな」


そう言って彼女はクローゼットの上に畳まれた俺のジャージと靴を指さす。


「攻めてくる? 他の世界から来た人間が? なぜそんな必要がある?」


「人間は魔王様や民達を殺すだけでは飽き足らず、広大な魔王国領や潤沢な資源を巡って未だに異世界人を勇者として使わせ侵略を続けている。」



なるほど……話が見えてきたぞ。

ジジイの言っていた光と闇の均衡がってのはきっとこれの事だ。

恩恵を与えた人間達が未だに必要以上の働きしている事それとジジイのやらかしが相まって均衡が崩れて来ているのだとすればなんとなく説明はつく


「待てよ? いやいやそれこそ助ける方がおかしい 俺が勇者の可能性だって……」


そう言いかけたところで彼女は話を遮って笑いを堪えながら答える。


「無いなww 小鬼達如きにあの様な姿で引きずられる勇者なんてwww 魔王国周辺だというのにww プププww」


このワンコロッ!!! 馬鹿にしやがって!!


・・・ただ俺が勇者に見えていれば今頃小鬼のお腹の中だった訳でその辺はあまり強く言えないってのが事実だ。


礼を言っておくのが筋ってものだろう


「助けてくれてありがとう。 ワンコロ」


「フフンッ 素直じゃないか ん?いや待てお前ワンコロって」



突然まるでタイミングを見計らったかの様にサイレンがけたたましく鳴り響いた。すると直ぐに赤毛の獣人は立ち上がり部屋を出て行こうとする。


「ちょっと待ってくれ!!一体何が」


「勇者が魔王国に入ってきた。 お前はこの屋敷を出るなよ 町の奴らは人間に優しくないのでな」



【勇者警報ッ!!! 勇者警報ッ!!!  非戦闘要員は直ちに魔王城まで退避を戦闘要員は東門にて迎撃準備を行なって下さい!!!繰り返します! 勇者警報!!勇者警報!!非戦闘員は直ちに魔王城まで退避を戦闘要員は東門にて迎撃準備を行なって下さい!!!】



「勇者が人間を殺す事は無いだろう。最悪の場合は助けを求めると良い…… 勇者にな……では行ってくる」


そう言って彼女はそそくさと部屋を後にし、再び俺は一人になった。


この世界は俺の知るファンタジーモノと立場が完全に逆転している、そら調停者の筈であるジジイが転生者を送り込んだ本人であるジジイが俺みたいな存在を送り出すだけはある


ただだからといって転生者の恩恵を片っ端から消していけばそれこそ均衡が崩れかねない。重要なのは大いなる力には大いなる責任が伴うと波及させる事。


スパイダーマンも言ってたし


なら今俺のすべき事はこの部屋で隠れている事ではない。

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