第4話 事件の解決!

 アドラはクンッと鼻をひくつかせると山道を歩いていく。

 ノナは何も言わずにそれに着いていく。


「お、おい!どこへいくんだよ!」

 

「残り二人の事故者の元だよ。キミが殺人鬼と言ったヒトと逸れた仲間のところ。」


 山道を歩いていくと立看板が立てられてあったが、何も書いていなかった。

 アドラはそれをひっくり返すと「この先ガケ!注意!」と書かれてあった。


「……なあ、何となく展開が読めたんだが、二人とも落ちたのか?」


「あんまり想像はしたくないけどそれっぽいね。この先から血のニオイがするんだよね……。」


 三人は歩いて進み、緩やかな登り坂を登ろうとするとノナに止められる。

 二人は首を傾げるとノナは説明する。


「この上から先は崖です。雪のせいで見えませんが、音で分かります。回り道を探して行きましょう。」


「さすがノナ君。それじゃあ回り道して行こう。」


 ヨウスケは二人が獣人である能力を目の当たりにし羨ましい思い始めた。

 普通の人間とは違う特殊な能力というのは男の中ではロマンのようなものだ。

 昔ならともかく今のこの国は旧人類も獣人も差別が無くなりつつある。

 崖下まで到着すると首が変な方向に曲がり、直視するのも難しいほど痛ましい姿のニンゲンと、両手に持っていたであろう包丁を近くに落として頭から雪に突き刺さって亡くなっている人間がいた。

 アドラは手袋を付け直し、包丁を持ってニオイを嗅ぐ。

 確信したようにアドラはヨウスケに告げる。


「アプローチで亡くなっていた人のニオイはしないね。というよりも誰一人刺していないし、威嚇のつもりで木に打ちつけた跡もない。彼は自衛が目的だったかもしれないね……。」


「それではわたしの出番ですね。」


 ノナが前に出て耳に力を集中する。

 彼女の頬に赤い紋様が浮かび上がり、目の色が鮮血のように紅くなる。

 異様な光景とノナから発せられる威圧感でヨウスケは腰を抜かす。

 普通の人間が魔力に触れてしまうと錯乱してしまうほどの痛みと幻聴が症状として現れる。

 ヨウスケは直接触らずとも腰を抜かすので触れてしまうと不味いのがわかる。

 五秒ほど経つとノナは「ふう……」と深く息を吐く。

 ノナと初めて出会った時の頃より肉体が能力に適合しているのか痛みも無く、山小屋から離れたこの場所でも過去の音を探れるようになっていた。


「結論から言いますと、このヒトはアドラさんの言う通り自分の身を守るために暴れたようです。どんどん殺人事件が起きていつか自分のところにも来ると思うと錯乱していたみたいですが、アプローチの真ん中で亡くなった彼女を見て貴方かもう一人が犯人だと思って追いかけたそうです。そして、看板が表裏が逆になっていたのでそのまま……。」


「……マジかよ……。じゃあ、オレはとんでもない勘違いで逃げ回っていたのか……。」


「いや、正しい選択だったよ。」


 アドラがそう言うとヨウスケはその言葉に『意外』と思う。

 アドラはヨウスケがわかっていないような気がして説明することにした。


「お前が逃げてこなければ事件は解決に導かれず、彼らを弔うことは出来ずにクマに捕食されてただろうし。」


 そう言われ、ヨウスケは後ろ頭をぽりぽりと掻く。

 ヨウスケは頭が突き刺さった男性を引き抜こうとするとノナに止められる。


「アドラさん、ヨウスケさんをお守りしてください。クマがこちらへ向かっていて、すぐそこまで来てます。」


「おいおい!に、逃げようぜ!」


「まあまあ、ここはノナ君に任せて。」


 枯れた雪の山林から熊の姿が現れる。

 片目が潰され、至る所の毛が毟られていた。

 直感だが、アプローチで倒れていた人が交戦して痛手を負わせたのだろうと予測する。

 ノナはアドラをチラッと見る。


「……仕留めてクインに献上でもするか。」


「分かりました。損傷しないように出来るだけ一撃で仕留めます……!」


「え……。おい……!女の子だぞ?しかもウサギだろ?お前も行かなくていいのかよ?犬なら……ほら!猟犬だし……!」


「そりゃあイヌ違いだな。ボーダーコリーは狩猟犬としては良くてもポインターか良いところ回収係だぞ?ポインターならダックスの方が良いし、回収ならレトリバーの方が向いてる。」


「そんな事聞いてねぇよ!ウサギがクマに勝て――」


 ――ズウゥン……。


 重々しい音が山に響いたと思い、音の先を見るとノナが立って、クマが倒れていた。

 アドラはクマに近づき確認すると、やはり毛は無理やり引っ張ったもので左眼は無理やり指を突っ込んで眼球ごと引き抜いたような傷であった。

 クマとしては毛は毟られ片目を潰された上に獲物の肉は薬漬けで食べられないと踏んだり蹴ったりだっただろう。

 口を開けたまま倒れているので顎を触ると完全に骨が砕けており、ノナの蹴りは顎を砕き、威力を殺さずに脳髄まで衝撃が伝わって、注文通り一撃で仕留めていた。

 包丁は犯行に使われていないので拝借し、アドラはその場で肉を捌き始めた。

 とは言っても警察組織自体が壊滅しているので鑑識や検察官もおらず実質的に調査をするのはアドラである。


「早く警察が復旧してくれないかねぇ……。」


「そうだね。ほとんどのイザコザはわたしたちが解決してるもんね。」


「アンタらやっぱりすげえ奴らだったんだな……。そういえば、報酬は何を支払ったら良いんだ?」


「報酬はクイン……国王から貰うからいらないよ。この事件は報告して現地調査隊が送られるし、きちんと解決させるから心配するな。」


「そうなんだ……な。」


(国王と知り合いってとんでもない奴と出会ってしまったぞ!こりゃ、しばらく自慢話として使えるな……!)


 ヨウスケはそう企んでいると、アドラは「うーん」と背伸びを始めて、ラムネ棒を咥える。

 ノナが側に寄り、頭をポンポンと撫でると鹿撃帽を直す。


「事件は無事に解決!それじゃあ帰りますかね。」


「はい!帰ったら温かいもの出しますね。」


 獣人探偵のアドラとノナは無事に事件を解決し、再び街の困り事を解決するのであった。


 

 ケモノの探偵屋〜雪山の怪事件〜  終

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ケモノの探偵屋〜雪山の怪事件〜 わんころ餅 @pochikun48

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