第3話 明かされる事件内容!

 山小屋へ入るとモワッと温かい空気と異臭がお出迎えに来た。

 アドラは少し顔を顰め、ノナは「うっ」と言うと手で口を押さえる。

 ヨウスケも鼻が曲がりそうな異臭で吐きそうになりながらもアドラの後ろへ続く。

 リビングに入り、辺りを見渡すものの山小屋を利用した荷物や食料が散乱しているだけで死体は見当たらなかった。


「被害者はどこに?」


 アドラがそう訊ねるとヨウスケは指を上に指すと吹き抜けからドアの一部が見えていた。

 梯子のように急な階段を登ると部屋が二つあり奥の部屋に入ると喉にナイフが刺さった男性の遺体があった。

 一撃で仕留められたのか周りには争った痕跡はなく、時計やカレンダー、写真盾を置くようなちょっとした台の上にリンゴが置いてあった。

 男性のカバンからはカラフルな布や大量のコップ、トランプがあった。

 ほどほどに観察するとアドラは部屋から出て隣の部屋へ入る。

 そこには頭から大量の血を流している丸めな女性の遺体があった。

 周りには争った形跡はなく、バナナが好きなのか大量のバナナを机の上に置いていた。

 大雑把な性格なのかゴミ箱周辺にはバナナの皮が散乱していた。

 ほどほどに見てアドラは一階へ戻り、風呂場に行く。

 そして脱衣室から浴室裏へ行く扉を開けると、男性がうつ伏せで倒れていた。

 時間が経っているので泡を吹いているのは確認できなかったが、唇が黒くなっていることから呼吸ができなくなって死亡してしまったことが伺える。

 湯を沸かすための薪とかまどがあり、換気設備も整っていた。

 部屋の中の遺体を全て確認するとアドラは外へ出る。

 二人はそれに着いて行くとアドラは山小屋のアプローチの真ん中でクンッとニオイを嗅ぐ。

 そして、顎に手を当てて状況を整理するとノナとヨウスケの方を向き口を開く。


「結論から言うと全ては不運な事故だ。最後の人と殺人鬼と思われた人も近くで死んでいる。」


「な、なんでそんなことが言えるんだ!?」


「状況はノナ君の方がよくわかっている筈だね。」


 ノナは頷くとヨウスケを見る。


「殺人鬼と言われた人は『自分が死ぬくらいなら殺人犯を殺してやる!』と言っていましたが、ヨウスケさんは覚えていますか?」


「あ、ああ……それが、何か……?」


「彼は自己防衛で山小屋の包丁を持ったのは確実みたいです。でも、殺人鬼であればその場のあるか分からない包丁なんかアテにせず、自分で包丁など持ってくる筈です。彼のカバンにはペンとメモ帳、そしてこの山小屋のオーナーの特集が書かれた記事の切れ端だけありました。彼は計画的に殺人をしに来たヒトではありません。」


 ノナがそう言うと半分納得したようでそれでも不満に思っていた。

 

「じ、じゃあ……なんで殺そうとしたんだよ!」


「自分の身を守るためです。先ほども言いましたが彼はただ死にたくなかった、それだけなんです。」


「ほ、他の殺人はどうなってるんだよ……。」


「まずは二階の男性は投げナイフの練習でたまたまナイフが跳ね返って喉に刺さって死亡した。彼はおそらくオーナーだろう。おもてなしが好きで彼のマジックなんか見てきたんじゃないか?」


「た、確かに……トランプを使ったヤツとか口から延々と布を引っ張り出したりしてたな……。」


「一休みの間に予行演習したんだろう。その時に死亡した。なぜそう言い切れるかと言うと、棚に置いてあったリンゴと争った形跡のない部屋だったからだ。」


 淡々と推理を述べるアドラに少しずつヨウスケは落ち着きを取り戻す。

 それを見たアドラは推理を再び語っていく。


「次に隣の部屋、彼女は転倒したことによる衝撃でベッドの角に頭をぶつけて頭蓋骨骨折と裂傷によって死亡。原因なのだが、彼女はバナナの皮で転んだみたいだ。ズボラな性格なのか自分が投げ捨てたバナナの皮で滑ったようだ。足と床に皮の汁が付いていたのが証拠だ。」


「おいおい……そんな漫画みたいな死に方……。かまどで死んでたのは一体?あそこは上に排気の窓があっただろ?毒でも盛られたんじゃないのか?」


 ヨウスケはアドラに浴室裏のかまどで死亡していた男の事を話題に出す。

 アドラは残念そうな顔をする。

 

「彼は残念なことに事故なのだよ。煙は上に登るんだが、この気温だ。一酸化炭素は重たく、また外気で冷やされ事で下に溜まっていく。足元の換気口を開けなかった事で一酸化炭素中毒で苦しんで死んだんだ。一酸化炭素の毒性はかなり強い。」


「換気不足で死んだのかよ……。じゃ、じゃあ……もしかして溝に落ちた奴って……。」


「その通り。積雪の影響で溝はパウダースノーの中に落ちて淵に頭を強打したことによる脳震盪で動けず、そのまま低体温症で死亡。証拠としては出血量がそこまでないことと、あの溝はもともと一メートル程の深さがある。普通の状態なら抜け出せただろうが……。」


 アドラの推理を聞いてヨウスケは殺人鬼に追いかけられたと思っているのが馬鹿馬鹿しくなったが、アプローチの真ん中で氷イチゴを作っている切り裂かれた女性の死体を見て、終わっていないことに気がつく。


「じゃあ……あれも事故?」


「うん。ノナさん近くにクマはいるかい?」


「はい。洞穴で寒さを凌いでいるみたいです。ですが……どうして食べようと思わなかったのでしょうか?」


「ヨウスケ。このヒト、薬をたくさん飲んでたでしょ?」


「なんでわかんだよ……。もともと病弱で薬で症状を抑えていたらしいんだよ。」


「犬だからね……。彼女の薬漬けの身体からニオイを発してクマは食べなかった……と言うのが結論かもしれないね。とりあえず、ここまでは良いかな?」


 ヨウスケは殺人鬼だと思われた男の容疑が晴れていき、自分は何のために逃げていたのか分からなくなった。

 

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