第2話 依頼人と探偵!

「マスター。コイツのご飯もツケといてくれるかい?大事な依頼人なんでね。」


「ああ、いいですよ。お支払いはまた納品してくれたらで構いません。」


 手を振って合図すると依頼人の男に体を向ける。

 ジイッと眺めてポケットの中から白い棒を取り出してそれを咥えると少し考えていた。


「アンタらオレの依頼、受けてくれんのか?」


「受けてもいいけど、支払いはどうすんのさ?流石にタダでは動かないよ?」


「正義の味方じゃないのかよ……。」


「ごめんなさい。ヒーローではないので料金がかかります。」


「まあ、相談は無料だし、話くらいは聞いてあげるよ?」


 探偵の男がそう告げると男は怪しいと思いながらも話す事にした。

 

「……紙の通り、雪山の山小屋で殺人事件が起きたんだよ。中に殺人鬼が居てオレ以外の六人を殺したんだよ。」


「そりゃ物騒だ。ご馳走でも独り占めしたかったのかねぇ……。」


「知らねぇよ。アイツご飯は一口も食べなかったんだから……。そんで、一昨日の夜山小屋のオーナーが死んで、それから次々と……。」


「ノナさん、彼は嘘ついてる?」


「いえ、本当の事を言ってます。アドラさんの力が必要だと思いますね。」


「んじゃ、行ってみるか!」


「お、おい!まだほとんど話してないんだが!」


 男がアドラというヒトを留めようと腕を引っ張ろうとするとうまく掴めず転倒する。


「だ、大丈夫?」


「お、おう……。お前腕は……?」


「無くなった。でも、彼女がいるから問題ない。さあ、事件は引き受けたんだから場所を教えてもらおうかね?」


 こうしてアドラとノナは依頼人の男について行く事にした。

 雪山にあるという山小屋へ向かう途中、アドラは男に質問をする。


「なあ、名前はなんて言うんだ?」


「あ、名前言ってなかったな……。オレはヨウスケ。アンタらは?」

 

「俺はアドラ。こうしたらわかるかな?」


「いや、獣人だってすぐ分かるさ。」


「え……変装できてたと思ったのに……!」


「隣のウサギさんならともかく、アンタは鼻が高いから無理だろ!」


「もう、変装するのやめようかな……。」


「アドラさんのソレは変装だったの?あ、わたしはノナ。アドラさんの助手です。」


 落ち込んでいるアドラを慰めながらお互いの自己紹介は終わる。

 ヨウスケは事件のことを話そうか迷っているとノナが話題を振る。


「ヨウスケさん。あなたはどうして生き残ったのですか?殺人鬼なら全員殺すまで諦めない筈ですが。」


「俺は二人で外に出て……じゃないな。三人で外に出て一人一人バラバラに逃げたんだ。それでたまたま俺のところへ来なかったんだと思う……。」


「そうですか……。犯人の特徴はわかりますか?」


「ええっと……何か物書きをしているヒョロ長い男だったな……。包丁を二振り持って追いかけてくるやつで、あんまり高くないコートを着ていた気がする。」


「では、他の方々の死に方を教えてくれますか?」


 ヨウスケはノナの質問に疑問に思った。

 それは自分から話す内容であって聞き出すことではないものだと感じていた。

 それを察したアドラが横槍を入れにくる。


「ヨウスケ、アンタが全部話そうとしているのを敢えて聴いているのは主観をなくす為なんだ。理解してくれると助かる。」


「そういうもん……なんだな……。」


 自身の感情を簡単に読んでくる二人に探偵としての理解を深めると同時に敵に回してはならない雰囲気を感じ取っていた。

 そして、ノナの質問に答える。


「最初の人の死に方はナイフが喉に刺さって死んでいたんだ。」


「……では次の人は?」


「何か鈍器のようで殴られたような感じで頭から血を流していた。」


「では次の人。」


「風呂を沸かすかまどで泡を吹いて倒れていた。」


「次。」


「タバコを吸いに外に出て玄関の溝に血だらけで投げられていた。」


「残りはバラバラに逃げたから分からない……でよろしいですね?」


 ヨウスケは頷くとそれを全てメモをしてアドラに見せる。

 アドラは顎に手を当てて少し考えるとノナに質問する。


「どう思う?」


「……わたしは事件の可能性が六割がただと思います。彼は嘘をついていませんし、死因もかなり殺害寄りのものが多いです。」


「ふむ、俺はね……全部事故だと思うよ。でも、それは着いてから現場検証してみないと分からないから断定はできないけれど、八……九割かな?」


「じゃ、じゃあ、殺人鬼はどう説明するんだよ!」


「まあまあ、答えは急がないように。俺だって予想を外す事あるんだから。」


 アドラののらりくらりと躱していくスタイルにヨウスケは鬱憤が溜まっていった。

 ノナはアドラが事故である可能性が高い理由をブツブツと呟きながら考えていた。


 幸い吹雪も起きず、すんなりと山小屋へ着いた三人。

 いや、ヨウスケは息も絶え絶えであった。

 犬とウサギであるアドラとノナにはこの程度の積雪は平気でありなかなか着いてこないヨウスケをソリの要領で引き上げていたのだ。

 山小屋へ到着すると玄関前の広場に血溜まりと女性ものの衣類が落ちており、無惨に切り刻まれた女性と思われる人間の死体が転がっていた。

 アドラとノナは手袋をつけて切り口や傷の酷さを確認し、後にする。

 そして近くの溝へ向かうとヨウスケの証言の通り溝に嵌って死んでいる男性がいた。頭から血を流し、だらんと首を上げていた。

 出血量はそこまでない。

 ほどほどに観察すると三人は山小屋へと入っていった。

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