#2

 その後、私はいろんなところに行って調べました。

 町の図書館から、ネットでの目撃情報、目撃された場所にも行って、どうすればあの悪魔に会えるのか考えました。

 手がかりは全くと言っていいほどなかったし、もはやおとぎ話と化している天使や悪魔のことなんて、デマばかりでした。だから、この目で見たことを信じるしかなかったんです。

 そうやって考えていたときに、おかしなことに気づきました。

 ネットや新聞の記事、本などに載っている悪魔には、必ず角と翼が生えていました。人間たちが勝手に付け加えた捏造かもしれません。でも、どれか一つくらいは本当の情報があったはずだし、あまりに一致しすぎていました。

 そして、私があの日見た悪魔には、角と翼がありませんでした。

 あれが悪魔じゃなかった可能性だって大いにあります。誰かがそう言っていたわけでも、あれが教えてくれたわけでもありませんでしたし。でも、でも、あれがこの世のものじゃないような気がしてならなかったのです。仮に悪魔じゃなかったとしても、私の求めるような物語がそこにはあると信じていました。

 そして、祖母と母が私に残した謎も。

 そのためなら私はなんでもやります。絶対にあれをころしてやります。

 だから、お願いします。私を天使にさせてください。

 

「…そう。」

「つまりキミは、同じ悪魔に2回会った、ということかな。」

「いえ、会ってはいません。ただ、あの時、あそこに残された気配というか匂いというか…。それが同じように感じられただけです。」

「んー…。それは、悪魔だから、ということもあるだろうけど、悪魔は自分を目撃した人間を殺す習性があるの。だから最初にキミが見てしまった悪魔が、キミの家族もろとも殺しにかかった可能性は十分にあるよ。」

 花笑は、とある団地のような、学校のような場所にいた。いや、一見するとホテルのようにも見えるのだが、全てが白い石膏で作られているため、収容所のようにも見えた。

 そこの一室、小さな机と三つの椅子。机の上には少しの茶菓子と冷えたお茶。

 花笑の前には、花笑より少し年上に見える女子が二人、座っていた。高めのツインテールできつい印象を受ける目の子と、高めの二つお団子から毛を垂らしている丸眉の子。きつめの子は、花笑の話に相槌をうったきり黙り込んでしまったが、丸眉の子は、気にもしていないように淡々と話を続けた。

「あれは、悪魔だったんでしょうか。」

「キミの話を聞く限りは、そうで間違いないね。この世界に人間の形をしたものは、人間と悪魔しか存在しないはずだから。」

「でも…。」

「そうだね、角と翼の無い悪魔なんて」

「角と翼が無い悪魔は、存在するよ。」

 いままで黙り込んでいたきつめの子が、丸眉の子の言葉を遮るように口を開いた。丸眉の子が目を見開いて固まったために、部屋がしん、と静まりかえって、高い耳鳴りのような音が聞こえた気がした。

「花笑ちゃんならきっと、その悪魔の居場所を突き止められる。一緒に頑張ろう。強い『天使』となって、その憎い悪魔を倒そう。私たちが協力するから。」

 その子の強い口調に合わせて、丸眉の子の眉間にシワが寄った。その表情は、沸々と湧き上がる怒りのようにも、悔しさのようにも、はたまた悲しみにも見えた。

「…そうそう、ボクらがキミを“教育”して、キミを立派な天使にするからさ!」

 

 部屋を出た花笑は、まず二人に指示された場所を目指して歩き出した。

 天使になるには、まず「天使園」というところに入学しなければならない。ごくまれに独学で悪魔を倒す人がいるそうだが、きちんと過程を経て、認められた天使となった方が得なことが多いらしい。その学校に通うための手続きなどを行うために、中継地点の施設に行ってくれと言われたのだ。

 ここはまだ人のいる「人界」という世界だ。悪魔や天使たちが生活している「魔界」という場所に天使園はある。その魔界と人界を繋ぐ場所にひっそりと佇んでいるらしい。

 振り返ると、さっきまでいたはずの建物が消えてなくなっていた。

「とりあえず、誰かに聞く…こともできないのか。どうやって行けばいいの…。いや、多分ここに辿り着けないくらいじゃ天使になんてなれっこないってことだよね。…よし、行ってやる…!」

 先ほど花笑は目が覚めると、白い建物の一室にいた。目の前には、二人の女子が座っていた。きっと、自分の思いが通じたのだと、花笑は妙に落ち着いていたものだから、二人の天使は少し驚いていただろう。

 目が覚めると、突然知らない場所、知らない人。神様は自分を認めてくれたのだ。自分のこの、大切な人のために燃える復讐心を、使ってみろと言ってくださったのだ。今ならなんでもしてやれる気がしていた。

 花笑は一呼吸ついてから、一歩ずつ歩き出した。

 

  

「…さくら。」

「なに?」

「どうして、花笑ちゃんに嘘なんかついたの。」

「そうね、あの子にホントのことをそのまま伝えても、今のあの子には理解できなかっただろうから、が表向きの理由。」

「…裏向きは?」

「見ちゃいけないものを見ちゃったから。」

「そうなの?実際、ああいう悪魔はいないでしょ?花笑ちゃんが見たのは悪魔じゃなかったってこと?」

「悪魔の皮をかぶった化け物よ。悪魔の方が何十倍もマシ。」

「でも、花笑ちゃんが言ってたのって。」

「…あれに間違い無いと思う。あまりにも容姿が一致しすぎている。」

「えー?どういうことー!?」

「ふっ、そうムキにならないで、三日みか。向こうに帰ったら、ゆっくり教えてあげるから。」

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After the cherry blossom ハルノユウレイ @haruno_yuurei

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