第42話 ラピーネ将軍
カルローネ公爵領を更に進むと、公爵軍が籠城して中央軍に包囲されているビシャジャ砦のところまで来た。
「あの砦に籠城しているのはラピーネ将軍であり、包囲しているのはアナキン大将か」
一応斥候と砦への使者は出したが、戦闘フェーズとなりシステムが情報を教えてくれた。
籠城しているラピーネ将軍の方が1万、包囲しているアナキン大将が3万という状況だ。そこに我々が2万の援軍となる。なお、前回の戦いで降参した兵士を吸収したので、兵士数は補充出来ている。
このビシャジャ砦を敵に落とされると、カルローネ公爵領の公都カルローニが危険にさらされる。よくここを守り切っているなと思ったが、そのために他の地域へリソースを割けなかったのかもしれないな。
「さて、どうしようか」
敵味方のステータスを確認する。
アナキン大将
武力96/S
知力93/S
政治90/S
魅力92/S
健康99/S
ラピーネ将軍
武力94/S
知力71/A
政治73/A
魅力81/A
健康97/S
敵はやはり優秀であるが、ラピーネ将軍もかなりのステータスだ。これなら籠城している有利さも加わって、簡単には落とされなかったのもわかる。
「中央軍の主力はここにいる部隊で間違いありません。これを殲滅出来れば南部から中央軍を追い出すことは可能でしょう」
カサンドラが地図を見ながら作戦を考える。時々こちらをチラチラとみてくるのは、FAXで吹っ飛ばすのはどうかと訴えているのだと思う。それもあるのだが、それだとカルローネ公爵にとっては偶然の爆発とうつるだろう。そうなると、恩を着せてクリストファーを一緒に攻めるというのが出来なくなりそうなのだ。
「ここまでくれば時間をかけても大丈夫だろう。敵の補給路を断ち、飢えさせよう」
「わかりました」
カサンドラが承知してくれたので、軍を敵の補給路の方に動かす。中央と南部を結ぶ主要街道上に主力を置き、迂回路にはカミルを巡回させることにした。
敵の補給部隊にも護衛は付いているが、こちらの部隊と戦えるほどの戦力を護衛につけてはおらず、相手の糧秣や武器の補充を妨害することに成功する。2日程敵の補給部隊を攻撃していた所で、敵も対策をとって来た。1万の兵士でこちらに圧力をかけてくる。
カーニー軍
指揮官 アシュリー大佐
副官 キャンベル中佐
兵士数 5,000人
歩兵 4,000人
弓兵 1,000人
訓練度 90
士気 89
指揮官 シートン大佐
副官 コーエン中佐
兵士数 5,000人
歩兵 4,000人
弓兵 1,000人
訓練度 90
士気 89
中々に手ごわそうな訓練度と士気であるが、人数はこちらの方が多い。相手も馬鹿じゃないので真っ正面から戦おうとはせずに、遠くから矢を放って牽制をしてくるくらいだ。
「相手は補給が出来ません。矢を好きなだけ撃たせてしまいなさい」
カサンドラが防御に徹するように指示を出した。こちらは陣地から出ずに相手の攻撃を受けるだけ。ただし、山なりで降り注ぐ矢は、動かずに上に盾を構えればそこまで脅威ではない。むしろ、相手の矢が尽きるのが早まるだけだ。
「無策だな」
ユディットが状況を見てそう言うと、カサンドラが首を振る。
「おそらくこの攻撃は囮でしょう。自軍の被害が出ないように動いておりますので」
「ならばその狙いは何か?」
「私が敵であれば退却します。その準備をするための時間を稼ぐのに、我々をこの場に釘付けにしているのではないでしょうか。補給路を断たれて戦うことは出来ませんので。ただし、絶対に砦を落とせという命令が出ているならばそれも出来ないでしょうが。それでも、カーニー将軍のいままでの戦いを見ているとそういう命令は出ていないと思います」
カサンドラの意見を聞いたユディットが腕組みをして考える。
「では、中央への街道に我々が居座っている今、敵の退路はここを大きく迂回することになるな。それを叩くとして待ち伏せすべき個所はあるか?」
「我々の目的はカルローネ公爵の救援ですから、無理に叩く必要は無いと思います。が、どうしてもというのであれば、道が狭くて木々に囲まれた場所が良いでしょう。風向き次第とはなりますが、火計を使い敵を焼くことが出来ます。南部は平坦な土地ばかりですので、崖の上で待ち伏せして岩を落とすような計略は使えませんし、正面切っての戦いでは数でこちらの方が不利です」
「なるほど。火を使うのであればこちらの被害は無いか。陛下が居れば敵の動きはわかるから、火を放つ場所も決定しやすい。雑兵はよいが、優秀な武将は減らしておきたいな」
ということで、俺と知力担当のカサンドラに護衛のカミルとローゼマリーを加えて、敵の撤退路に先回りして火計をすることになった。ただし、敵が本当に撤退するのであればだが。
そうして敵の動きをみていると、カサンドラの読み通りに砦の包囲を解いて、少しずつ遠ざかっていくのがわかった。こちらに対応している部隊は、その撤退が完了すると直ぐに味方を追う。
残したユディットは部隊に追撃しないように命じて、その場にとどまっている。
俺は敵の動きをカサンドラに伝えながら移動していた。カサンドラは地図を見ながら俺の情報と照らし合わせて、その撤退先を予測して先回り出来るように指示を出す。
そうして上手く先回り出来たところで、風向きも運よくこちらから敵に向かって強い風が吹いてきた。
「カミル、ちょうどいいわ。手あたり次第火をつけてきて」
「わかったよ」
周囲には気を使う相手がいないこともあり、カサンドラは久々にくだけた言い方でカミルに指示を出し、カミルは部下たちと一緒に周囲に火を放ちに向かう。直ぐに火は大きくなり、風に乗って敵に向かっていく。ここはカサンドラの知力に依存したダメージになるはずであり、相手のアナキン大将との知力の差がボーナス値として計算されるはずだ。アナキン大将の知力が高いので、相手の被害は期待したほどではないのかもしれないな。
そう思っていたが、俯瞰して見られる炎の動きはアナキン大将を包み逃げ場を無くした。
―― 敵指揮官、アナキン大将が焼死しました ――
システムがアナキン大将の死亡を告げる。敵軍の兵士も多数焼死してその数は半減した。
「アナキン大将が焼死したぞ」
カサンドラに伝えると彼女は非常に喜んだ。
「優秀な敵将と戦わなくて済みますね」
「まあ、あちらにはまだまだ優秀な武将が掃いて捨てるほどいるんだけどな」
どこまで本当かわからないが、キャラクターの命名に困った作者が、海外から電話帳を取り寄せたなんていう話があったくらい、小説の登場人物は多い。
敵は後から撤退していったアシュリー大佐が指揮を引き継ぎ、生き残った兵士達を連れて更に別の道へと逃げていった。
「これ以上追う必要もないか」
俺がカサンドラに確認すると、彼女も頷いた。
「十分な打撃を与えられたので良いのではないでしょうか」
こうして俺たちはユディットと合流して、ビシャジャ砦へと入った。そこでラピーネ将軍に挨拶する。ラピーネ将軍はジークフリートに引けを取らない大男で、丸太みたいな腕をしていた。そんな将軍をみたユディットやカミルにジークフリートまでもが、力比べをしたいなんて俺にお願いしてきたが、俺には脳筋たちの気持ちがわからないので止めさせた。
ラピーネ将軍は俺に握手を求めてくる。
「救援ありがとうございます。まあ、もう少しでこちらから攻める予定でしたがな。奴らの裏をかいてやる計画が流れてしまいました」
俺はその言い方に違和感を感じるが、とりあえず差し出されたラピーネ将軍の手を取る。
「将軍の指揮があれば可能だったでしょう。やはり将軍のような名将を抱えているとは、公爵は南部一の名家ですね」
「アーベライン殿こそ、多くの名将を抱えて東部を歴史に見ない早さで統一されたではありませんか。それに、ゴルドーニ伯爵家を助けた話はここまで聞こえております。また、あのアナキンを火計で葬った手口は鮮やか。まあ、私の手で討ちたかったですがな」
アーベライン殿という呼び方にカチンとくる。公王を名乗っているのでそれに準じた呼び方があるだろうにと言ってやりたかったが、わざわざここまで喧嘩をしに来たわけではないので我慢した。
隣でユディットとカサンドラが爆発しそうになっていたが、ふたりも俺が我慢しているのを見て我慢してくれた。
特に歓待されることもなく、挨拶が終わるとすることもないので自陣に帰ってきたところで、ふたりがラピーネ将軍への不満を口にする。
「あの態度、社長を馬鹿にしてますよ!」
カサンドラが口吻を尖らせると、ユディットも頷いた。
「助けてもらったという感謝の気持ちが感じられぬ。旦那様も東方公国も見下しておったな。あの場で斬ってやろうかと思ったぞ」
「それをしたら公爵と戦争だよ。まあ、いずれは戦わなきゃならいかもしれないけど」
帝国を統一するためには、従わない者とは戦うしかない。南部はゴルドーニという足掛かりも出来たし、クリストファーを倒したらカルローネ公爵は用済みだ。
そう考えた時、それはカルローネ公爵からしたら、俺たちも同じではないかと気づいた。
「狡兎死して走狗烹らる。アナキン大将を討ちビシャジャ砦陥落の危機が去ったとなれば、カルローネ公爵はもう我らの救援は必要ないよな。むしろ、領内に他国の軍がいることを疎ましく思うだろう。将軍にしてあの態度となれば、公爵に歓迎されないと思っていた方がよいだろう」
俺の考えに一同が頷く。
「義理ははたしたし、このまま戻るのもよいか。掎角の勢を狙うのに公爵を説得する必要があるが、将軍の態度からしてこちらに協力させるのは難しそうだ」
ユディットがカサンドラの方を見る。元々カサンドラの考えた作戦だったので、カサンドラの意思を確認する。
「仕方ありませんね。戻ってブリギッタと合流しましょう」
カサンドラもカルローネ公爵との提携をあきらめた。イヴァーノは申し訳なさそうに
「南部の人間は受けた恩を忘れるようなことはありません。ラピーネ将軍の態度は一般的なものではなく、ひどく礼を欠いたものですので、私の方からも公爵に抗議をしておきます」
「大丈夫だ。南部の人間がみなああだとは思ってない。ただ、こんな奴のために命を落とした兵士には申し訳がないな」
貴重な鉄騎兵を減らしたことに腹が立つ。まあ、兵士たちは討ち取った相手から剥ぎ取った戦利品でウハウハなので、ここで帰国するのを選択しても不満は出ないだろう。
国内的にもゴルドーニ伯爵家を支配下に置いたことで、戦果は無かったと言われることもない。
では戻ろうかという時にカルローネ公爵からの使者がやってきた。俺たちへの感謝を述べたいというのだ。しかし、こちらの兵士を公都カルローニへ受け入れるのは難しいので、俺と少数の護衛だけにしたいのだという。
たしかに、同盟も組んでいない俺たちの兵士が2万で公都に入るとなると、万が一を考えるのもわからなくもない。ラピーネ将軍は領内に残った中央軍の掃討に赴くというので、戦力的にも心許ないのであろう。
まあ、その申し出にユディットが腹を立てたのだが、彼女の姉のビアンカも、是非一度会いたいと言っているというので、渋々なから公都行きを了承した。
「で、行くメンバーと護衛だけどどうしようか」
俺が訊ねるとカサンドラは
「陛下と瑠璃将軍は確定てすね。私も交渉に備えて同行いたします。護衛にはカミルと近衛隊をつけましょう。あとは、ゴルドーニ伯爵と後見人であるアイーダ殿。そうなれば義兄のイェーガー卿も行くでしょうね。そのメンバーであればその場にカーニー将軍が攻めてきても問題はありません」
「そうだな。どこに陰謀詭計が潜んでいるかわからんし、常に最高の戦力で備えるべきであるな」
と俺がいうと、ユディットが苦笑いをする。
「我が家は身内で殺しあいをするのでな。姉上がそうしないという保証はない。むしろ、あるべきであると身構えておくべきだろうな」
キルンベルガー侯爵家の歴史を振り替えれば、ここ2年だけではなく、過去にも身内の権力争いで死者が出ている。
「さて、鬼が出るか蛇が出るか」
準備をして、カルローニへと向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます