第25話 ツァーベル伯爵戦決着

 ツァーベル伯爵との合戦は予定どおり、こちらが陣地を構築した平原で行われることとなった。既に敵も目で見える範囲に到達している。

 ツァーベル伯爵の軍は途中で無理に徴兵するかと思ったが、兵糧が足りていないせいなのか、確認すると兵士の数は増えていなかった。


ツァーベル伯爵軍

総大将 ツァーベル伯爵

兵士数 1,006人

歩兵  1,006人

騎兵  483人

訓練度 39

士気  29


ツァーベル伯爵軍

指揮官  オーレンドルフ男爵

兵士数 483人

騎兵  483人

訓練度 62

士気  29


 訓練度はそれなりであるが、士気はかなり低い。騎兵の方が訓練度が高いのは馬に乗るためには技術が必要だからだろうか。


アーベライン子爵軍

総指揮官 マクシミリアン・アーベライン

副官  ジークフリート・イェーガー

軍師  カサンドラ

兵士数 1,034人

歩兵  734人

工兵  300人

訓練度 93

士気  94


アーベライン子爵軍

指揮官 ユディット・キルンベルガー

兵士数 500人

弓兵  500人

訓練度 93

士気  94


アーベライン子爵軍

指揮官 エルマー

副官  ブリギッタ

兵士数 500人

歩兵  500人

訓練度 93

士気  94



 それに対してこちらは訓練度も士気も90を超えている。構築した陣地には俺の部隊とユディットの部隊が配置されており、エルマー達の部隊は平原を大きく迂回して敵の背後に回り込むのを目的として、平原の外に配置をした。

 エルマーとブリギッタが移動している辺りを眺めながら、隣居にいるカサンドラに話しかける。


――― 戦闘フェーズに移行します ――


 システムが戦闘開始を告げる。

 こちらは守備側なので動かないが、ツァーベル伯爵の軍は騎兵が突撃してきた。こちらの陣地には木製の拒馬が設置されている。しかし、それを見ても突破できるとふんでのことだろう。

 騎兵がこちらの弓兵の射程に入ったことで、ユディットの部隊が攻撃を開始した。しかし、馬が駆ける速さが早く、弓なりに飛ぶ矢が落ちる頃にはその地点を抜けてしまっている。ゲームでも弓兵は騎兵と相性が悪かったな。

 矢をかいくぐった敵兵はあとは拒馬を超えれば攻撃が可能とおもったのだろうか。先頭を走る者達が剣を抜いて振りかぶるのが見える。だが、こちらの騎兵対策は拒馬だけではない。


――― 敵が落とし穴の上を通過しました。罠が発動します ――


 システムが落とし穴の罠発動を告げる。

 そう、このゲームでは軍師の知力に比例して設置できる罠の数が決められているのである。カサンドラの知力では4個の罠が設置できる。罠の種類は落とし穴、落石、火、水などフィールドによって変わってくるが、設置したヘックスに敵が乗ると発動するのは共通である。

 ゲームでは設置は一瞬で完了するが、ここではそういうわけにはいかず、ジークフリートを先に派遣して工兵に落とし穴を掘らせていたというわけだ。

 こうして、先頭の騎兵たちが全ての落とし穴に落ちてくれた。そして、それを見て後続の騎兵の足が止まる。それを好機と見たユディットの部隊が再び矢を放った。


「敵の足が止まったぞ!もう一度矢を放て!」


 ユディットの声が戦場に響く。それは死を告げる女神のようであった。戦乙女よりも確実な死を運ぶからな。

 そして、足の止まった騎兵に次々と矢が襲いかかる。


「ぎゃあ」


「戻れ!戻れ!」


「どいてくれー」


「穴に落ちた仲間を救い出せー」


 悲鳴と混乱した命令が聞こえてくる。しかし、そこに次々と矢が降り注ぎ、そんな声が聞こえなくなったとき、敵の騎兵で動くものはいなくなっていた。正直、馬は勿体なかったな。何頭かでも鹵獲できれば良かったのに。そんなことを思えるくらいに余裕がある。

 味方の騎兵が全滅するのを目の当たりにして、敵軍の士気は更に下がる。その結果前に出ようとする者はなく、弓の射程外で足が止まってしまった。

 それを見て、横のカサンドラに笑顔で話しかける。


「敵の足は止まってしまったな。これでは手柄を全てエルマーとブリギッタに持って行かれてしまうぞ」


「そうですね。こうもうまく落とし穴にはまってくれたのは嬉しいのですが、このまま陣地に引きこもっていては、ジークフリート殿とユディット殿は不満が残るでしょう。こちらからも打って出ましょうか」


 その言葉を聞いたジークフリートが白い歯を見せて笑う。


「待っておりました。ユディット様はそれなりに敵を討ちとっておりますが、私は穴を掘る以外に何もしておりませんからな。これではヨーゼフに笑われてしまいます」


「決まりだな。突撃の合図をユディットの部隊にも出せ。陣地から打って出る。ツァーベル伯爵を討ち取った者には特別な報酬をだすからな」


 俺の指示で突撃が開始される。ユディットの部隊が前に出ると敵は矢を警戒して後退を始めてしまい、攻撃の機会はなくなってしまった。ひとり、ユディットだけがジークフリートと一緒になって先頭を走っていく。ゲームのシステムの都合上、ユディットは弓以外の武器に持ち替えることが出来ないのだが、どうするつもりだろうか?混戦になってしまえば、フレンドリーファイアの危険が有るので弓は使えないと思うが。

 そんな心配をしていたら、敵に追いつく前に立ち止まって弓に矢をつがえた。


「ふんっ!」


 そして気合一閃、矢を放つとその矢が馬上の人物を射抜いた。


―― ユディットがツァーベル伯爵を討ち取りました ――

―― 戦闘に勝利しました ――


「あ……」


 呆気に取られて間抜けな声を出してしまった。

 事態を把握できていないカサンドラが俺に訊ねてくる。


「どうされましたか?」


「ユディットが射抜いた人物が、どうやらツァーベル伯爵だったらしい。敵の総大将を討ち取ったようだ。やれやれ、エルマーとブリギッタには無駄足を踏ませてしまったな」


 それを聞いたカサンドラはフフフと笑った。


「圧勝という言葉しかありませんね」


「そうだな。こんなところで躓いているわけにはいかない。さて、この後は五守聖の二人を迎えにいかないとな」


「そうですね」


 東部地域をアドルフが支配した時に、その中核を担った五守聖のうちジークフリートとヨーゼフは既にこちらの配下に加わってくれている。そして、残りの三人のうちの二人はツァーベル伯爵の部下なのだ。小説通りであれば、彼等は伯爵の居城で留守を守っていることになっている。

 有能な二人を何故留守に残したのかといえば、一人は文官としての才能があるが、武力が低いので戦場では役に立たない。もう一人は、伯爵が戦争に前のめりになりすぎるのを諫めて、それが伯爵の気に障って今回の戦争への参加を許されなかったというわけだ。

 カサンドラと話をしていると、ユディットが自分が射抜いたのがツァーベル伯爵であったと確認したらしく、声高らかに勝利を宣言した。


「敵将、ツァーベル伯爵をユディット・キルンベルガーが討ち取ったぞ!」


「おー!」

「おー!」

「おー!」

「おー!」


 勝どきをあげて我が軍の勝利を祝う。

 戻ってきたユディットをねぎらうと、彼女は嬉しそうに微笑む。


「今度こそ本当の手柄でしょうか」


「ああ。歴史上初の戦場で伯爵位を討ち取った女武将で間違いないな。千年先の歴史書にも名が残る偉業だよ」


 笑顔のユディットとは対照的に、エルマーとジークフリートの顔は渋い。


「槍が届く位置まで辿り着ければ」


 悔しがるジークフリートにエルマーが声をかける。


「俺なんて一合もせずに終わってましたよ」


 そんなエルマーをブリギッタが慰める。


「ここで戦いが終わった訳ではないのだから、この先も手柄を立てる機会はあるでしょ」


「そうは言うけどなあ。カミルなんてどれだけ敵を討ちとったと思ってる。水を大きくあけられたよなぁ」


「功を焦ればそれだけ隙が生まれるものよ。別に社長も今回敵の大将を討ち取れなかったからって、エルマーの評価を下げるわけじゃないんだから、焦らない焦らない」


「うん……」


 そんなやり取りをみて、微笑ましくなる。エルマーは相変わらず俺に必要以上に良いところを見せようとする傾向があるな。後々これが悪い方向に行かなければよいが。

 エルマーとブリギッタに気を取られていた俺に、カサンドラが話しかけてくる。


「社長、そろそろツァーベル伯爵の居城へ向かいませんか?」


「そうだったな。陣地を引き払ってツァーベル伯爵の居城に向かおう。伯爵の死体を持って行くには遠くて腐ってしまうだろうから、討ち取ったとわかる遺品を持って行こうか。それに捕虜の証言が加われば相手も諦めて開城するだろう」


 結局ツァーベル伯爵の鎧をはぎ取り、死体は他の兵士の死体と一緒に落とし穴に入れて埋めた。ゲームだと気にならなかったが、このままにしておくと疫病の原因になったりするらしいので、燃やすか埋めるかをするそうだ。

 相手を丁寧に埋葬するほどの敬意もないので、これで十分だろう。


 ツァーベル伯爵の居城に到着し、降伏勧告と共に伯爵の鎧を見せると、直ぐに城門が開かれて降伏することを伝えてきた。

 その中に俺の待ち望んでいた武将が二人いる。

 鑑定の結果、期待したほどではなかったが、今の俺にはありがたい人材だ。


エッカルト・ドナウアー 30歳

武力48/B

知力82/A

政治81/A

魅力61/A

健康99/A

忠誠51

アドルフ・ミュラー五守聖のひとり。


クラウス・アインハルト 30歳

武力83/A

知力62/A

政治53/B

魅力66/A

健康99/A

忠誠56

アドルフ・ミュラー五守聖のひとり。


 支配地域が広がったお陰で、内政にしても軍事にしてもやる事が増えた。それに対応するためにはこの二人は不可欠。それにしても、このステータスだとクリストファーに敗北しても当然か。なにせ、この二人がアドルフ軍の中心的人物として抜擢されるくらいに、能力の高い人材がいないのだから。

 それと、支配地域が広がったことで、部下たちに爵位と領地を与える事にした。カミルは今も戦地にいるため、事後報告になるが、ジークフリート、ヨーゼフ、カミル、エルマー、ブリギッタ、それにカサンドラには男爵位を与えた。

 皇帝が機能していないので、勝手に男爵と名乗っているだけだが、立派に領地を持っているので貴族というには十分だ。

 なお、ユディットはこの後重要な役割があるので、今回は除外してある。それは彼女も納得しているのだが、周囲は女に爵位を与えないのかという噂が出ていると教えてくれた。ユディットが俺の事を心配してくれたが、気にするなと言っておいた。

 エルマー、ブリギッタ、カサンドラには姓を考えておくように指示を出す。


「貴族になれば姓を名乗る必要が出てくる。好きなのを考えておくように」


「6年前まで路上生活していた俺が貴族か――」


 エルマーはいまだ実感がわかずにふわふわした感じであるが、それとは対照的にブリギッタはこちらに確認をしてくる。


「他の貴族の姓と同じものでも良いのでしょうか?」


「んー、詳しいルールは知らないけど、同じにすると紛らわしいっていうのはあるにしても、絶対に駄目っていうわけでもないんじゃないかな。文句を言われたら滅ぼせばいいし」


「流石に滅ぼすのはどうかと思いますが」


 俺の回答はカサンドラに突っ込まれた。そんなやり取りを見てブリギッタは苦笑いしている。そして、さらに質問をしてきた。


「例えば社長と同じにするのは?」


「分家扱いとしてならありだよね。アーベラインの姓を下賜したっていう理屈でね。アントニオだってアーベラインを名乗っていたわけだし。まあ、血のつながりが無いから、知らない人からしたら結婚したって思われそうな気もするけど」


「紛らわしいっていうのはありますね。アーベラインではなく、他の姓を考える事にします。わかったわね、エルマー」


「はい……」


 母親に怒られた子供のようなエルマーに思わず笑ってしまった。そして、ブリギッタはエルマーからカサンドラの方に向きを変える。


「カサンドラはどうするの?社長の側室に迎え入れてもらうならアーベラインでもいいんじゃない?」


「なっ、なにを言ってるのよブリギッタ!」


 カサンドラが顔を真っ赤にしてブリギッタに抗議する。女三人寄れば姦しいというが、二人でも十分に姦しいな。

 そんなやり取りを割って、ジークフリートは領地について訊いてきた。


「いただける領地はどの場所になりますか?」


「それなんだけど、ツァーベル伯爵の領地で好きなところを持って行ってくれ。カミルについても合流してから意見を聞いてやってほしい」


 そんな俺の返事をカサンドラが聞いて、ブリギッタとのやり取りを止めて会話に入ってくる。


「一応、今回の戦争で領主が死亡した場所にしてくださいね。こちらに下った領主の土地を取り上げると、後々に禍根を残しそうなので」


 それを聞いてエルナが難しい顔をする。


「それでは生き残った領主が力をつけて反抗する可能性もあるのではないか?」


「そのため、領地の監視をする役人をつけさせてもらいます。軍備を強化出来るような蓄財を監視していけば、大規模な反抗反乱は防げるのではないでしょうか。ゆくゆくは領主から軍事に関する権限を取り上げて、子爵様のもとで集中管理するようにしていきますが、今はまだそれをすると混乱を招くだけなのでやりませんけど」


 カサンドラが考えているのは中央集権国家の樹立。今みたいにそれぞれの領主に強い権限が有ると、皇帝といっても豪族の代表くらいの位置付けしかない。だが、中央集権化が出来れば真の頂点となるわけだ。そして、地球の歴史を見ても近代国家として強くなるためには中央集権化は避けられない。

 その過渡期で権力を取り上げられる側は、強く反発する事だろうけど。小説ではクリストファーも中央集権国家を目指していく。もっとも、彼は領地を持たない軍人たちだけが部下であり、既得権益全てが敵なので、反発するような家臣はいないのでそんな心配はないのが羨ましい。


「我が主殿はそんな未来の絵図まで描いているとはな。これではルドルフだろうがディートリッヒだろうがかなうはずもない。身内なので庇いたいが、二人とも侯爵家を守る事のみしか考えておらず、この乱世においても上を目指そうとしておらんからの」


「エレナ様に褒めていただけるとは光栄の極み」


 エレナに褒められてこそばゆい。俺は地球の歴史と小説の歴史を知っているからそうしているに過ぎない。アドルフは東部地域を支配したが、優秀な人材が足りておらずに、結局地方豪族の既得権益を保証するかたちでの国家運営となった。

 そのため、強力なクリストファーの軍団に対抗する力を持てなかったのである。結果は滅亡。二の轍を踏むつもりはない。



帝国暦516年3月、各キャラクターステータス

マクシミリアン・アーベライン 16歳

武力23/C

知力35(+45)/C

政治36(+44)/C

魅力61/B

健康91/C


ユディット・キルンベルガー 21歳

武力96/S

知力78/S

政治75/S

魅力90/S

健康95/S

忠誠100


ジークフリート・イェーガー 25歳

武力99/S

知力74/A

政治73/A

魅力97/S

健康95/S

忠誠100


ヨーゼフ・シュプリンガー 22歳

武力98/S

知力55/B

政治42/C

魅力74/B

健康95/S

忠誠100


エルマー 18歳

武力83/A

知力58/B

政治41/B

魅力65/A

健康92/B

忠誠100


カミル 18歳

武力94/S

知力54/C

政治44/C

魅力82/A

健康90/A

忠誠100


カサンドラ 16歳

武力52/B

知力98/S

政治96/S

魅力95/S

健康94/A

忠誠100


ブリギッタ 15歳

武力20/C

知力92/S

政治98/S

魅力85/A

健康93/A

忠誠100


アントン・ホルツマン 36歳

武力73/A

知力62/A

政治47/B

魅力68/A

健康91/A

忠誠100


エルナ 22歳

武力21/B

知力83/S

政治71/A

魅力94/S

健康88/A

忠誠45


エッカルト・ドナウアー 30歳

武力48/B

知力82/A

政治81/A

魅力61/A

健康99/A

忠誠51


クラウス・アインハルト 30歳

武力83/A

知力62/A

政治53/B

魅力66/A

健康99/A

忠誠56


アーベライン子爵領 516年3月(ツァーベル伯爵領吸収)

人口 206,536人

農業 511

工業 102

商業 635

民心 58

予算 210,741,304ゾン

兵糧 53

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