第13話 ツァーベル伯爵からの侵攻

 帝国暦515年7月、アウグストを討ち取った事が領内に伝わったタイミングで、各町を任せている代官や徴税に関わった役人に対し、今までの税の収奪を素直に申告してちょろまかした分を返還すれば罪には問わないと伝えたところ、多くの金額が返還されてきた。

 ただし、過少報告して返還の事実だけをつくっている可能性もあるので、一つ一つ確認をしていくことになる。この仕事はブリギッタに丸投げした。発注の原資はアウグストが不正にため込んでいた財産を使う。オットーが調べる範囲の指示を出して、そこが終われば次の範囲へとうつる。これは小説ではアドルフがやれなかったことであり、それを出来ているのは成果だと思う。アドルフは彼の打ち立てた国が滅亡するまで人材不足に悩まされていた。武力だけでは国が回らないというのを作者が描きたかったのだろうけど、主人公の周りの人材と比較するために、わざとそういう設定にされていたのだろうが、ゲーム開始時から対策をうっておいて正解だったな。

 こんな俺のやり方にユディットが質問をしてきた。


「子爵様、なぜ不正をはたらいた者をこんな緩い処罰にとどめたのでしょうか?本来であれば死罪相当ですが」


「それは彼らに代わる人材が育っていないからだよ。不正な収奪はあったにしても、彼らは税を納めさせるという仕事は出来ていたわけだ。彼らを全て処分してしまっては、我が領地での税収はガタ落ちだろうね。ただ、人材が育てば彼らは適当な理由を付けて解雇するよ。本心から許すつもりなんてないからね」


「そんなお考えがあったとは思い至りませんでした」


 これはアドルフの失敗を知っているから出来たことで、あまり褒められると居心地が悪い。不正役人を処罰しまくったアドルフは、領地の税収が落ちてしまい金銭的な弱みを見せることになる。そこを隣の領地のツァーベル伯爵に狙われてしまう。ジークフリートとヨーゼフの活躍でそれを撃退するが、領地経営としては戦費もかさんで綱渡り状態になるのだ。

 アドルフの失敗の二の轍を踏むことなく行けると思っていた矢先、ツァーベル伯爵の軍に動きが現れたと報告を受けた。出征準備をしており、どうも向かう先は我が領地らしいと密偵から報告があり、こちらも慌てて戦争準備に取り掛かる。油断していたが、どうもこの世界は小説の歴史に寄って行こうとする力が働いているのかもしれない。

 と考えたところで、それならばこの戦争も直ぐに終わるだろうという結論に至った。何故ならばもうすぐ56代皇帝イワン3世が崩御し、57代皇帝に幼いガブリイル2世が選出される。この選出には宰相のアンドレ・ルフェーブルが大きく関わっており、彼の傀儡の皇帝ということで諸侯が皇帝救出を名目に大同団結して宰相包囲網を結成するのである。マヤ教徒の反乱が鎮圧された中で、新たな戦争の火種となる事件がこれなのだ。

 帝国中央部を抑える宰相に対して、西部、南部、東部の貴族が中央に攻め込む姿勢を見せる中で、姉を人質に取られているクリストファーは宰相の指示で西部の貴族連合と戦うことになる。この時クリストファーと共に西部鎮圧に派兵された中に、後の彼の部下が多数含まれているのだ。そして、西部討伐軍の総司令が西部貴族に討たれた後、崩れかけの西部討伐軍を指揮して見事勝利に導く。その勝利によって帝国軍内で確固たる地位を得るのであった。

 それに対してアドルフは東部と中央を隔てる要塞の攻略で、ジークフリートが帝国軍の将軍を一騎打ちで倒したことで一気に名を売ることになる。この時、キルンベルガー侯爵とツァーベル伯爵も停戦して東部貴族連合に参加することになっているので、ツァーベル伯爵の侵攻も長くは続かないはずなのだ。その理由は8月になれば東部一の大貴族、バルツァー公爵から同盟参加の要請がくるはずだからだ。

 そうはいってもなにもしないわけにはいかない。直ぐに主要メンバーを集めて会議を開催する。


「カサンドラ、まずはツァーベル伯爵の動きをみんなに説明して欲しい」


 俺の指示でカサンドラが密偵からの報告を伝える。


「現在ツァーベル伯爵は1,000人規模の兵士の出征準備をしております。物資の移動状況から判断して、狙いは我が領地であるとみて間違いないでしょう。進軍ルートは街道に沿ってだと思われます。1,000人分の物資を運ぶとなると、整備された道が必要になりますので。なので、領地境界線にある砦で敵軍とぶつかることになるはずです」


 カサンドラの報告に頷き、次に俺はジークフリートの方を見た。


「ジークフリート、軍の育成状況はどうなっている?」


 俺の質問にジークフリートが答える。


「常備軍500人の訓練は完璧です。しかし、相手が1,000人規模となると徴兵によりあと500人は集めたいところです」


「砦に籠って防衛するのであれば、500人でも十分ではないのか?こちらの領地としては1,000人動員するとなると、農業生産や工業に影響がでるのだが」


「いいえ、攻め込んで来た敵を討ち破って、逆にこちらから侵攻をかけようと思っております。相手が先に攻めてきたのであれば大義名分は十分ですので、この機にツァーベル伯爵の領地を切り取ってやりましょう。それにしても1,000人ぽっちとはなめられたものですな。桁が一つたりないと教えてやりましょう」


 ジークフリートは自信満々に言うが、実際にその通りなので計画を了承した。アドルフは人手不足から防衛戦のみで、相手を撃退することだけを目的としていたが、勝てる戦いならば強気で行くべきだな。

 俺は再びカサンドラに訊ねる。


「両軍の援軍についてはどうなると思うか?」


「はい、我が軍は直ぐにキルンベルガー侯爵に援軍のお願いをいたします。ただし、近隣からでも派兵に時間が掛かると思いますので、初戦と侵攻時には我が領軍のみでの戦闘となるでしょう。それに対してツァーベル伯爵の軍ですが、伯爵領内で常に5,000人の動員をしておりますが、これらを一斉にこちらに移動させますと、他の貴族に狙われることになりますから、実際には領地を接している付近の村で徴兵を行う事になると思います。緊急で徴兵すれば生産を無視した状態で最大2,000人くらいでしょうが、訓練もしていない兵士であれば負ける要素はありません」


「戦争に勝ったとしても、その緊急で徴兵された2,000人が使い物にならなくなるとなったら、領地を切り取っても旨みがないよなあ」


 アーベライン子爵領でもまだ開墾の余地があるのに、わざわざ新たに無人の領地を得てもメリットはない。それどころか、そこを防衛する費用が発生するのでマイナス似なる可能性もある。


「兵站を考えれば、現実的なところは境界線付近の村3個程度でしょう。そこの防衛をするために新たに砦をつくるくらいであれば、領地を返還する代わりに金銭を受け取るのがよろしいでしょうか」


「相手の指揮官を捕虜にできればさらにプラスだね」


 そこからは物資の手配や出発の日取りを決めていった。

 そして、敵軍の進軍ルートを把握しながら俺は砦に到着する。カサンドラの読み通り相手は街道を進んできて、領地の境界にある砦にやってきた。ツァーベル伯爵の軍はまだ到着していない。予定では明日になる。


――戦闘フェーズに移行します――


 システムの音声が聞こえる。そして、俯瞰する能力を使うと、かなり離れた場所に敵の部隊がいるのが見えた。さらにはその後ろにある村にも駐屯している部隊が見える。村とこちらの砦の距離は1日で移動するくらいの距離だ。こちらに向かっている部隊がおよそ1,000人なので、村の方は輜重部隊なのだろう。そして村は物資の集積地というわけだ。そちらは103人と表示されている。

 ここでゲームマスターが話しかけてきた。


「これは事前に密偵を放っていたから見えている情報だからね。伏兵などこちらが情報を掴んでいない部隊はフィールドに表示されていない。それと相手の指揮官の名前はわかるが、能力値は目視できる範囲にこないとわからないからね」


「その辺はゲームと同じだね」


 そう言われたので移動してくる部隊の詳細を確認する。


ツァーベル伯爵軍

指揮官 アプト男爵

副官  ヴェーデル準男爵

兵士数 1,005人

歩兵  1,005人

訓練度 43

士気  52


 指揮官のアプト男爵は小説で攻めてきたのと同一人物だ。ゲームにも登場するが無能というのがふさわしく、このキャラでクリアーを目指したときはかなりの時間を要した。


ツァーベル伯爵軍

指揮官 リッツ隊長

兵士数 103人

輜重兵 103人

訓練度 43

士気  52


 よし、こちらの部隊も編制しようか。ただし、俺の思考にはいまだにモヤがかかるので、ここは大まかな指示だけ出して、あとはカサンドラに任せる事にする。


「敵の物資が集積された村を攻撃して、そこを抑えたい。カサンドラあとは頼んだ」


「わかりました」


 と、言って彼女は暫く考えて結論をだした。


「この砦には300人の守備隊を残しましょう。総指揮官は子爵様ですが、指揮官はユディット、副官をエルマーにします。ヨーゼフとカミルは200人ずつを指揮して、街道を大きく迂回して敵の村を攻撃します。村を占領後は、ヨーゼフの隊が敵が集積地へと向けて輸送してくる物資を中心に攻撃してください。カミルの隊は村の防衛です。そして、ジークフリートは300人を引き連れて、敵主力への輸送をする部隊の攻撃と、撤退する敵主力への側面からの攻撃をお願いします」


 それを聞いたジークフリートがカサンドラに訊ねる。


「撤退するのは間違いないのか?」


「輸送部隊を叩けば物資を持ってきていない敵主力は撤退せざるを得ないでしょう。距離が近いからって油断しすぎですね」


 これは小説でもアドルフが輜重部隊を攻撃していればということに後で気づいた描写がある。今まで戦争経験がないアドルフと、指揮官としての経験がなかったジークフリートとヨーゼフでは考え付かなかったのも仕方がないという表現だったと記憶している。

 こうしてこちらの部隊編成も完了した。


アーベライン子爵軍

総指揮官 マクシミリアン・アーベライン

軍師 カサンドラ

副官 ユディット・キルンベルガー

副官 エルマー

兵士数 300人

歩兵  300人

訓練度 89

士気  76


アーベライン子爵軍

指揮官 ジークフリート・イェーガー

兵士数 300人

歩兵  300人

訓練度 89

士気  76


アーベライン子爵軍

指揮官 ヨーゼフ・シュプリンガー

兵士数 200人

歩兵  200人

訓練度 89

士気  76


アーベライン子爵軍

指揮官 カミル

兵士数 200人

歩兵  200人

訓練度 89

士気  76


 問題は本来500人で守備していた砦を300人で守り切れるのかというところだろうか。ユディットとエルマーがいれば大丈夫だとは思うけど。

 なお、こちらの主だった武将のステータスはというと


マクシミリアン・アーベライン 15歳

武力23/C

知力32(+48)/C

政治31(+49)/C

魅力56/B

健康93/C


ユディット・キルンベルガー 20歳

武力70/S

知力50/S

政治43/S

魅力85/S

健康99/S

忠誠85


ジークフリート・イェーガー 25歳

武力99/S

知力72/A

政治71/A

魅力97/S

健康99/S

忠誠83


ヨーゼフ・シュプリンガー 21歳

武力98/S

知力52/B

政治41/C

魅力67/B

健康99/S

忠誠82


エルマー 17歳

武力78/A

知力58/B

政治40/B

魅力63/A

健康98/B

忠誠100


カミル 17歳

武力86/S

知力49/C

政治41/C

魅力78/A

健康99/A

忠誠100


カサンドラ 15歳

武力51/B

知力93/S

政治90/S

魅力92/S

健康98/A

忠誠100


 となっている。ユディットのステータス上昇が著しいが、他のメンバーは伸びが良くない。俺に至っては魅力が上がったのみで他はそのままなのだ。あれだけ訓練してもステータスが上昇しないのはキツイな。

 さて、部隊編成とステータスの確認も終わり、いよいよ戦闘となる。砦の守備で俺たちは残り、他の部隊は敵と遭遇しないように街道を避けて進軍させた。敵の斥候に発見されなければ良いが。そう思ってフィールドを俯瞰してみるが、敵主力が砦の前に陣取っても他で戦闘は始まらなかった。

 今は俺とカサンドラとユディットとエルマーで城壁の上から敵が陣地を構築するのを眺めている。


「私に弓が扱えれば、今ここで敵を射抜いてやることも出来るのだが」


 ポツリとユディットが言う。


「弓か。この戦争が終わったらジークフリートに相談して作ってみようか」


 そういうと、彼女は驚いて


「良いのか?」


 と念押ししてきた。俺は頷く。歩兵しかないので、弓兵や騎馬を持っておきたいのだ。

 そんな話をしていたら、馬に乗った偉そうな男と5名の歩兵が前に出てきた。そして馬上から挑発してくる。


「アーベライン子爵は戦場に女を連れてきておるのか。そちらの砦はまるで娼館のようだな」


 そんな安い挑発には乗らないのだが、ユディットはそうではなかった。


「なにを言うか!我が名はユディット・キルンベルガー。貴様に女と侮ったことを後悔させてやる!」


 ユディットの反論と共にシステムの音声が流れる。


――ユディット・キルンベルガーに一騎討ちを受けさせますか?――


 それを聞いて思い出した。このゲームには一騎討ちのシステムがあった。そして、時々気性の荒い武将は君主や指揮官の命令を無視して一騎討ちを受けてしまうことがある。今回は勝手には受けていないので、ユディットにはまだ理性がきいているということだろう。

 まずは相手のステータスの確認だな。俺は相手を鑑定する。


ヴェーデル準男爵 29歳

武力51/B

知力53/B

政治50/B

魅力42/C

健康98/B


 うん、ユディットの敵ではないな。むしろ、ここで一騎討ちをさせて経験値が稼げる美味しいイベントではないか。

 俺はシステムに一騎討ちを受けると回答した。


「行ってこい、ユディット。女と侮った事を後悔する間もなく倒してしまえ」


「わかりました。我が勝利を子爵様に捧げましょう」


 ユディットはハルバードを持って城壁を降りていった。


―― 一騎討ちがはじまります ――


 システムが一騎討ち開始を告げる。ヴェーデル準男爵がこちらに近づいてくるが、俺からは攻撃命令を出すことが出来ない。これはシステムが一騎討ちモードになっているからであり、逆に相手もユディットを狙ってだまし討ちをするのが出来ないはずだ。

 そして二人が相対する。俺の目にはユディットとヴェーデル準男爵の生命値が見えるのだが、多分他の者たちには見えていないのだろうな。ユディットの最初の一撃でヴェーデル準男爵の生命値は2/3程削られた。次にヴェーデル準男爵の攻撃となるが、ユディットはそれを難なく防御してノーダメージで次のターンにうつる。

 そして、次の一撃でヴェーデル準男爵は絶命した。


―― 一騎討ちに勝利しました ――


 システムが一騎討ちの終了を教えてくれた。一騎討ちが終了すると二人だけの戦闘空間が消滅して、他人が攻撃出来るようになる。そして、相手の兵士が叫んだ。


「ヴェーデル様の仇を討つんだ!」


 その言葉で叫んだ兵士を含めて5人がユディットに群がる。俺はそこで城壁の上から見ていることを後悔した。


「ユディット、戻れ!」


「承知」


 ユディットは素早くこちらを向いて門へと走り、追いすがろうとする敵兵を振り切った。敵兵も5人だけで砦に接近するのは諦めて、ヴェーデル準男爵の遺体を持ち帰ることになった。

 ユディットの無事を確認すると城壁から降りて、彼女の勝利をねぎらう。


「圧勝だったね」


「あんな手合い、ジークフリート殿と比べたら子供に等しい。我が生涯の勝ち数に数える方が恥ずかしい」


 といいながらもまんざらでもない様子だ。


「僕も戦いたかったなあ」


 エルマーは自分も良いところを見せたいと拗ねた。


「もうすぐ戦闘が始まるだろうから、それまで我慢だな」


 そう俺が言ったのがきっかけとなったのか、見張りが敵兵が動いたと叫ぶ。


「敵が梯子を持って迫ってきます」


「全員城壁の上に向かえ!係りの者は油を熱し始めろ!それ以外は投石の用意!」


 カサンドラが指示を出すと、兵士たちは急いで動き出した。俺も城壁にのぼろうとしたら、みんなに止められる。

 エルマーは俺を見て真剣な顔をする。


「社長は弱いので、砦の一番奥にいてください。万が一敵が城壁にのぼってきても役に立たないんですから」


 事実なので否定できない。なので大人しく従う事にした。じゃあ、カサンドラはいいのかと思ったが、彼女は戦況を見極めながら指示を出さなければならないため、護衛をつけて城壁にのぼるのだという。みんなが俺より優秀なのはわかるが、なんか納得いかないぞ。

 しかし、弓があればこういう時に敵が城壁に辿り着く前に数を減らせるのだが、弓は訓練しないと扱えないので間に合わなかった。じゃあクロスボウならとなるのだが、こちらは発注したが間に合わなかったのである。事前に砦にクロスボウが備えてなかったのは、ひとえにダミアンの無能さゆえの過ちだろう。まあ、有能だったら今の俺の地位はないのだけど。

 それでも相手も弓兵がいないので、いい勝負ではあるな。アプト男爵が無能で助かった。彼の出征動機は領地が欲しいというものであった。男爵でありながらも爵位だけで領地が無かったので、ツァーベル伯爵をそそのかして、領主が変わったばかりで混乱している隣の領に攻め込んでやろうというもので、混乱が収まる前にと焦ったのである。うまく準備していればアドルフくらいは倒せていたのにね。

 俺は数名の護衛とともに砦の奥に引きこもった。

 ただ、俺には戦場を俯瞰してみる能力があるので、部隊の状況が見なくてもわかる。敵の部隊が城壁にたどり着くも、こちらからの投石や熱く煮えたぎった油による攻撃で敵兵の数はどんどん減っていく。本来の戦闘であれば、こちら側も相手の弓による攻撃で多少なりとも被害が出ているのだろうが、そこはゲームのシステムが適用される世界なので、相手の兵種に弓がなければ弓による攻撃は来ない。その条件はこちらも同じなので、例えば、ジークフリートの部隊に弓を持たせた場合は、戦闘が終了するまでは弓以外の兵種に出来ないのだ。

 ただ、歩兵でも投石は出来るので、絶対に攻撃をされないという訳ではないので絶対に被害が出ないわけではない。

 そして、今回相手が攻城兵器を持ってこなかったのも助かった。投石と油では攻城兵器を破壊するのが困難なので、砦の門を破られていただろうし、投石機なら城壁を壊されていたかもしれない。そういう兵器を持ってこなかったアプト男爵は、本当に少しだけこちらの領地を切り取って自分のものに出来ればよいうという考えしかなかったわけだ。本気ならばアーベラインブルグまでの攻略を考えて準備をしている。この辺も小説の内容通りなのでわかりきっていたことではあるが。

 さらに、砦以外の部隊の状況も確認する。カミルとヨーゼフはまだ敵の村に到着していないが、ジークフリートは相手の輸送部隊に攻撃を開始していた。結果は圧勝。能力も人数もこちらの方が上なので当然の結果だった。そして、俺はどうやらその結果に満足して笑みを浮かべていたらしい。


「子爵様、なにか可笑しいことでも?」


 護衛の兵士のひとりがそう訊いてきた。


「いやなに、そろそろジークフリートが上手くやってくれているころだとおもってね。後数時間もすれば相手は食糧や補給物資が届かないことに気づくんじゃないかな。その時慌てふためくだろうと思ったら思わず笑ってしまったというわけだよ」


「たしかに、ジークフリート様ならば子爵様の期待に必ず応えるでしょうね」


 それから約一時間、敵兵が城壁から後退していくのがわかった。兵士数は


エルマー部隊  287人

アプト男爵部隊 853人


 となった。やはりこちらにも多少の被害が出てしまったようだ。敵の攻撃が止んだことで俺は城壁の上へとのぼる。そこにはユディット、カサンドラ、エルマーがいた。


「戦況はどうか?」


 そう質問するとカサンドラがこたえる。


「こちらも被害がゼロというわけにはいきませんでしたが、問題なく防ぎきることが出来ました。本来であれば、敵の次の攻撃まで休息をとらせたいのですが、投石用の石が足りなくなりそうなので、兵士達には城門から出て、石を回収するように命じております」


「素晴らしい結果だ。そして、ジークフリートが物資を奪っているのにそろそろ気づく頃じゃないだろうか。連中も一度引いて休息をとってから再攻撃するつもりだろうが、休息中に食うための食糧が足りてないはずだからな」


 砦にある備蓄が使えるこちらとは違い、集積地の村からの輸送であり、それが自領内であるからと安心して油断して、食糧をもってないのは痛恨のミスだな。そこを存分に使わせてもらおう。なお、こちらはジークフリートの部隊は奪った物資で腹を満たす計画だったので、軽い保存食を持たせたのみである。カミルとヨーゼフの部隊も1日で到達する距離を考慮して、その分だけの食糧と水を持たせてある。追加の輸送は出来ないので、作戦を成功させないとこちらも食糧問題を抱える事になるのは一緒だ。

 さあ、食い物と水がない状態でアプト男爵はどう動くかな?

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