第10話 マヤ教徒との戦い
もう、すぐに運命の日がやってくる。アドルフには周辺の村をまわって徴兵をしてくるように命じておいた。アドルフが徴兵をするのは小説通りだ。彼はエルミッシュの代官となって、ダミアンの指示でマヤ教徒たちと戦うために徴兵を指示される。集めたおよそ50人と共に戦場へと駆けつけるが、その時すでにダミアンをはじめとするアーベライン子爵領軍は、ボリバルの指揮するマヤ教徒たちに敗北していた。領主とその家族が討ち取られ混乱するところに登場し、ジークフリートとヨーゼフの活躍でボリバルを討ち取り、烏合の衆となったマヤ教徒を蹴散らすという流だ。
徴兵で集めた兵士たちを出発の日までは訓練する。出発するのは帝国暦515年6月13日だ。幸いな事に武器を買うお金は前任の代官と兵士達が不正にため込んでいたお金で賄う事ができた。これをつかってケビンに注文を出し、こちらに納品してもらったのである。ただし、全員が歩兵である。騎兵を育てるには時間が足りないので、小説でも登場しないので今回は見送った。
この間、徴兵の終わったアドルフには書類業務を任せている。彼は魅力以外は普通のステータスなので、戦力としては期待していない。それに、ジークフリートとヨーゼフがアドルフの方になびく可能性もまだあるので、今は極力接触させないようにしている。
「アドルフ、俺はこれから彼らを連れて父の元に駆け付けなければならない。だから代官の権限を一時的に君に譲ろうと思う。かならずこの職責を全うしてほしい」
「賜りました」
こう命令してエルミッシュの町に残って書類業務を任せる事にした。俺の魅力が低くてもこいつなら裏切らないだろう。
アドルフ・ミュラー 26歳
武力48/B
知力52/B
政治51/B
魅力100/S
健康90/B
忠誠95
小説では東部地域の覇者。
本当に普通のステータスだ。尚、説明書きが小説ではというただし書きとなっているので、今のところ違う未来が見えているという事でいいのだろうか。しかし、こうしてあらためてステータスを鑑定するとわかるが、本当に魅力以外に魅力がないキャラクターだな。
ゲームで出てきた主人公のクリストファー・カーニーは全てのステータスが90を超えていたはずだ。そして彼の部下たちも殆どが80を超えていたはずである。完璧な主人公とその部下たちに対して、人材不足のアドルフが立ち向かう姿は一部ファンからは本当の主人公はアドルフと言わしめた。悲劇の主人公としての素質はあるな。
そんなアドルフにはこれからもエルミッシュの町の代官として働いてもらおう。クリストファーに敗れて死ぬよりはマシな人生だと思うが、本人にそれを伝えられないのは残念だ。
そして迎えた6月13日、晴天の空の元を俺達はアーベンラインブルグに向かって移動することになった。2日後には俺の初戦闘となる予定だ。
「代官殿、緊張されておりますな」
と俺の横を歩くジークフリートが話しかけてきた。自覚は無かったが、他人からはそうみえるのだろうか。
「初陣だからね。ジークフリートは初陣の時どうだった?」
「緊張しましたよ。傭兵として戦争に参加する事になりましたが、先輩たちが娼館をおごってくれるというので初めて行ってみましたが、緊張で何もできずに帰ってきました」
ジークフリートは豪快に笑った。そして続ける。
「ただね、その時相手をしてくれた娼婦が言ったんですよ。これから殺す殺されるという戦場に向かうのに、緊張をしないような感覚になった人は可哀想だってね。今ではその言葉の意味がわかります。他人を殺す事に慣れ過ぎて、それに何も感じなくなってしまった自分が人として幸せに生きていくのは難しいだろうなってわかったんですよ」
そう言ったジークフリートの横顔にはあきらめの感情のような物が見えた。
「この世に神がいるとするなら、こんな頻繁に戦争が起こる世界を作った責任をとらせてやりたいね」
と、俺は小説の作者に思いをはせる。まったく酷い世界を作ってくれたもんだ。まあ、そうでなくては話が始まらないというのはあるが。
「こんな世の中は俺たちの代で終わらせないとね」
「いいですな。そうすれば私は皇帝の家臣という身分も得られますし」
「兄貴も俺も歴史に名が残るってもんだな」
とヨーゼフも話に加わった。その後はエルマーとカミルも加わり、帝国のどこを自分の領地としてもらうかで盛り上がった。みんな、これから戦争をしに行くのだというのに、死んでしまうかもしれないなんていうことは考えていない。いや、考えないようにしているのだろう。
そんな話をしながら進むこと二日。天候にも恵まれて行軍速度は落ちることは無かった。そのまま無事にアーベンラインブルグに到着する。しかし、町は大混乱だった。
通行人を捕まえて話を聞いてみる。ちょうど、俺のところで育てた孤児のアルミンだったのでちょうどいい。
「どうしてこんなにみんなが慌てているんだ?」
「あ、マクシミリアン様。実は子爵様が叛乱軍に討ち取られてしまったのです。叛乱軍はまだ町の外におりますが、もうじきここに攻め込んでくるのは確実。だから、持てるだけの荷物をもって逃げようっていうわけですよ」
はそう言うが、向かおうとしていたのは俺たちの来た方向とは違っていた。
「アルミン、お前は逃げるんじゃないのか?どうしてそっちへ行こうとしたんだ?そちらには父の居城しかないだろう」
「そこにオットー様と一緒にブリギッタ先生がいるんです。マクシミリアン様が来るまで籠城してここを守るんだって。それに、子供や老人は逃げるっていっても無理だからって、城に避難させたんですよ」
小説にはなかった描写だな。小説ではアーベンラインブルグはボリバルたちが侵入する前にアドルフが到着し、被害を受けなかったとだけしか書かれていなかった。それに、ブリギッタは小説には登場しない。俺の予想できなかった未来がここに出てきた。
「アルミン、俺が到着したことをオットーとブリギッタに伝えてきてくれ。そして、俺たちが帰還するまでは城から出ないようにもな」
「わかりました!」
そう言ってアルミンは駆けていった。
アルミンを見送って、俺たちは町の中央通りを抜けて反対側、ボリバルたちのいる方へと向かった。
町の外ではマヤ教徒たちがアーベライン領軍の装備をはぎ取っているところだった。アーベラインブルグについてはいつでも占領できるからと、金目のものを見逃さないようにと死体に集中して油断しきっている。ここまでは小説通りだな。
敵を目の前にカサンドラが俺に作戦を聞いてくる。
「本当に敵の親玉、ボリバルを倒すだけであの大人数に勝てるのでしょうか?」
「訓練されていない烏合の衆なんて、何人いようが、むしろ数が多い方が混乱に拍車がかかるもんだよ」
そう答えたが、俺も実戦は初めてであり、小説の知識でしかない。そんな俺の返答にジークフリートがフォローをしてくれる。
「私とヨーゼフが先頭に立って切り込んでいきます。向こうの親玉であるボリバルを真っ先に殺せば、後は混乱するでしょうから、近づきすぎないように槍で相手を刺していけばよいだけです。今までの経験でも指揮官を失った軍隊は数の優位を失っておりましたからな」
「兄貴のハルバードに狙われて生きていた奴なんていねえから安心しな」
ヨーゼフもそこに加わる。
そんな俺たちに相手の一部も気が付いた。そこでシステムからの音声が入る。
――戦闘フェーズに移行します――
おお、こういうところはゲームっぽい。フィールドを俯瞰する機能が使える事が再確認でき、敵の部隊指揮官にボリバルの名前が出てくる。そして情報も。彼が一番こちらに近いところにいるので、目視でもその姿が確認できた。
ボリバル 29歳
武力83/A
知力52/B
政治38/C
魅力47/B
健康100/A
ベネディクトの弟、叛乱軍の指揮官
「これは相手の事を前世知識で知っているから表示されているだけだからね。未知の武将だと名前すらわからない事もあるよ。間者は常にはなっておくことだね」
とゲームマスターの声が聞こえた。随分と親切なゲームマスターだな。
それにしても、武力が83だとすると有能ではあるが、勘違いしてしまうレベルであるな。井の中の蛙大海を知らずという言葉の実例だ。武力83といえば、獲得しておきたい武将であることは間違いない。今すぐにでも欲しいし、ゲームの中でも武力83ともなれば優先的に確保するべき数値だ。小説でも東部地域で無双していてジークフリートを前にしても、余裕で勝てると勘違いして斬られたが、この数値なら今まで苦も無く相手を倒していたのだろう。そのおかげで、今回も先頭に立ってくれているわけだが。
そして叛乱軍の情報もわかる。
マヤ教徒叛乱軍
指揮官 ボリバル
兵士数 1,753人
歩兵 1,753人
訓練度 21
士気 72
訓練度が低いのは元々農民だった連中を集めているからだろう。士気がそこそこ高いが、ゲームのシステムが同じならば、戦況が不利になると一気に崩れるはずだ。
対してこちらは
アーベライン子爵領軍
指揮官 マクシミリアン・アーベライン
兵士数 53人
歩兵 53人
訓練度 68
士気 80
となっている。訓練度はジークフリート、ヨーゼフ、エルマー、カミルがいるから高いのだが、彼等を除外するとそんなに高くはないだろう。
戦闘開始前の情報確認が終わり、俺は指示を出す。
「攻撃開始!」
その合図でジークフリートを先頭に、全員が走り出す。
「たったそれっぽっちの人数など、俺一人で十分だぜ!」
とボリバルが剣を構えたが、ジークフリートのハルバードの一撃で剣を振るう事もなく、頭を潰されて動かなくなった。
「ボ、ボリバル様が一撃でやられた!!」
先頭周辺にいたマヤ教徒が叫ぶと、恐怖が直ぐに部隊の先頭集団に伝播する。連中は武器を捨てて逃げようと背中を見せた。
「敵は指揮官を失った。今が好機だ!」
ジークフリートがそう叫ぶとこちらの士気が上昇した。そして、ジークフリートを先頭にしてこちらの兵士が逃げようとする敵軍に襲い掛かる。俺とカサンドラは武力が期待できないということで、最後尾で待機している。なお、護衛が5人ほどついてくれているが、みんな普通のステータスなので、囲まれたら危ない。小説ではこの場面でアドルフがジークフリートたちと一緒に突撃するので、俺も大丈夫だとは思うのだけど、孤児たちが絶対に前に出るなと強くいうので、大人しくそれに従う事にした。まあ、どんな番狂わせがあるかわからないから、
アーベライン子爵領軍
指揮官 マクシミリアン・アーベライン
兵士数 53人
歩兵 53人
訓練度 68
士気 98
逃げ出そうとする先頭集団に対して、後ろはいまだに状況がつかめずに前に出ようとする。その結果、背中を見せていた連中は簡単に槍で刺されていった。先頭集団がいなくなり状況を確認出来るようになると、今度はその確認した連中が我先にと逃げ出す。しかし、後続の連中が邪魔になり上手く逃げられず、またも槍の餌食となった。
こうなるとマヤ教徒たちは大混乱に陥る。逃げるならば手ぶらの方が良いが、折角鹵獲した物を手放すのが惜しいのか、両手に目一杯ものを持って逃げようとする者、土下座して許しを請う者などが見られたが、全てこちらの兵士によって殺された。その状況を俺の隣で見ていたカサンドラが
「本当に社長の言ったように、数の差を問題としないで勝利になったんですね」
と感心したように言ってきた。
「これは組織されて訓練されていない軍隊相手だから出来たことだけどね。正規軍であれば指揮官が倒されても副官や部隊長が指揮をして、一気に崩れないようにするだろうし、兵士達もあそこまで慌てるようなことはなかっただろうね」
そう答えた。実際には常備軍の規模はそんなに大きくなく、戦争の度に徴兵しているこの世界に於いては、今回のような崩れ方をすることが殆どなのだろう。まあ、今回は宗教的な指導者の弟を失ったという心理的な面も大きかったとは思う。
その後、最後尾の連中までは討ち取る事が出来なかったが、目の前に立っている敵がいなくなったところで再びシステムの音声が聞こえた。
――戦闘に勝利しました――
これで今回の戦闘が終了したことがわかる。この辺はゲーム的な処理がありがたい。実際には伏兵や増援を警戒しなくてはならないのだろうが、こうやって終了を教えてくれることでそれが不要となる。
先頭に参加したキャラクターのステータスを俺を含めて鑑定してみた。
マクシミリアン・アーベライン 15歳
武力23/C
知力32(+48)/C
政治31(+49)/C
魅力55/B
健康93/C
ジークフリート・イェーガー 25歳
武力99/S
知力72/A
政治71/A
魅力97/S
健康99/S
忠誠75
ヨーゼフ・シュプリンガー 21歳
武力98/S
知力52/B
政治41/C
魅力67/B
健康99/S
忠誠74
エルマー 17歳
武力78/A
知力58/B
政治40/B
魅力63/A
健康95/B
忠誠100
カミル 17歳
武力83/S
知力49/C
政治41/C
魅力78/A
健康98/A
忠誠100
カサンドラ 15歳
武力51/B
知力92/S
政治89/S
魅力92/S
健康98/A
忠誠100
みんな健康が下がっているのは、行軍と戦闘での疲労が原因だろう。ゲームでも連戦させると武将の健康値はどんどん下がっていった。減りと回復は適性に依存しており、健康が低い状態で負傷をすると死にやすかったと記憶している。
あとはエルマーとカミルの武力が上昇し、ジークフリートとヨーゼフの忠誠が上がっていた。戦闘は健康が下がるというデメリットがあるが、他のステータスが上昇しやすいのもゲームと一緒だな。
これでアーベンラインブルグに戻って、子爵の継承を宣言すれば一先ずの計画は終わりか。そう考えて、アーベンラインブルグの方向を向いて大きく息を吐いた。そして俺は戻ってくる兵士たちをねぎらい、アーベンラインブルグに戻ることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます