第9話 出会い
エルミッシュにはケビンと一緒に商人の一行を装い入ろうとした。町の入り口に到着するとそこには番兵が二人いた。番兵といっても門があるわけではなく、単に町の入り口に立っているだけだ。
番兵はこちらに向かって尊大な態度で話しかけてくる。
「通行税を徴収する。ひとり10ゾンだ」
それを聞いて俺は反論した。
「この領に入る時にすでに支払っておりますが」
「この町に入る時にも必要なんだよ!」
番兵はそう怒鳴ってきた。俺はなおも反論する。
「アーベライン領の他の町ではそんなことはありませんでしたが」
「それは他の町の奴らが職務怠慢だからだ。それにしてもお前生意気だな。お前だけは特別に増税することが今決まった。お前の腰に持っている短剣をこちらに貰おうか」
俺の腰にある短剣はダミアンから送られたもので、綺麗な装飾が施されているものだった。番兵はそれに目をつけたのだ。
身分をあかしてこの場で処分してやろうという気持ちをおしころし、従順なふりを決め込んだ。俺の態度を見て今にも飛びかかっていきそうなエルマーとカミルも自重してくれる。
「野宿する訳にもいかないし、仕方ありませんね」
俺達は通行税とやらを払ってエルミッシュの町に入った。その日はそこで宿を取って休むことにした。エルマーにはお使いを頼んで、手紙をある人物に持って行ってもらう。
「それにしても、勝手に通行税を取るだなんてこの町の兵士は腐ってますね」
カミルが怒りをあらわにする。
「そいつらを一掃して、この町を正常に戻すのが俺の仕事だよ」
と俺はカミルをなだめた。
翌日、手紙を渡した人物に合うため、町の外れに向かおうと外に出たら、メインの通りで人だかりが出来ていた。
「社長、なんでしょうね?」
「喧嘩だと思うよ」
エルマーに訊かれたのでそう答えたが、俺はこれが何なのか知っている。主人公のライバルである後の東部地域の支配者、アドルフ・ミュラーとその腹心であるジークフリート・イェーガーとヨーゼフ・シュプリンガーの出会いの場面である。
人だかりをかき分けてその中心へと辿り着くと、そこにはハルバードを持った銀髪の大男と、大剣を背負った赤髪の大男がいた。銀髪のほうがジークフリートで赤髪のほうがヨーゼフだ。そして、彼らを包囲するように兵士が五人立っている。その中には昨日の番兵もいる。
ジークフリートの持ってるハルバードには血がついており、彼の目の前には血だらけの男が倒れていた。その男は今日この場で死ぬことがわかっていたから、特に驚くことはなかった。
死んでいるのはこの町の代官。俺と交代する予定の人物だった。彼は『英雄たちの野望』でもここで死ぬ。ジークフリートの目の前で商人親子に賄賂を要求し、断られたので商人の娘を連れていこうとしたところを、護衛をしていたジークフリートに殺されてしまったというわけである。
小説であれば、この場面にアドルフがやってきて、代官の不正を認めてジークフリートを無罪とし、それに感激したジークフリートとヨーゼフがアドルフと義兄弟の契りを結ぶということになるのだが、今回はアドルフはここにはいない。
何故ならば、俺がエルマーに託した手紙によって、彼は町外れに呼び出されているからである。手紙の内容は前任の代官の不正を知りたいので、今の代官に内緒で会いたいというものだ。
「何事か!!」
俺は大きな声で問いかけた。
すると、兵士のひとり、昨日の番兵がこちらを見て口を開いた。
「ずいぶんと偉そうな口をきくガキだな。って、昨日の商人かよ。テメーに話してもしかたねーが、この大男がこの町の代官様を殺したんだよ。だからこうして捕まえようってわけだ。協力するなら町から出る時の通行税を免除してやるぜ」
なんと、町から出る時も通行税を取るつもりでいたようだ。代官と一緒に散々勝手な税金で儲けてきたのだろう。俺は肩をすくめると、呆れたとわかる表情をつくり番兵を鼻で笑う。
「なんで協力する必要がある?お前らがそんなていたらくだから、町を立て直すためにこうして俺が代官として赴任することになったのだぞ」
「お前が代官だと?」
俺が代官だと明かすと番兵が一歩前に出てきた。それに合わせてエルマーとカミルが俺の前に守るように立ってくれる。俺一人で来ていたら、ここで斬り殺されている可能性もあったな。なにせ、貴族の身分を騙るのは重罪なのだから。
「そうだ。父上から代官として任命された証として授かった短剣をお前も見ただろう。我がアーベライン子爵家の紋章がついた短剣をな」
それをきいた番兵が青くなった。現地採用の兵士など、我が家の紋章を知っているわけがない。おおかた、商人の息子が金に任せて綺麗な装飾を施した程度にしか考えてなかったのだろう。
「で、その短剣を通行税として取り上げたのだろうけど、俺はその事を父上に報告せねばならない。なにせ、代官である証拠が無くなってしまったのだからな。今、それを返してくれるなら、報告はしなくてもよいのだが」
身分を明かすと周囲もいっそうざわつき始めた。
「すいません、短剣は商人のヘルマンに売ってしまいました。子爵家から三男のマクシミリアン様が新しい代官として赴任することになったというのは聞いておりましたが、まさか馬車も使わずにこちらに来るとは考えてもおらず。とんだ御無礼をお許しください」
番兵は土下座して、額を地面に擦り付けながら事情を話してきた。
「ならば買い戻せばよいだろう」
「それが、ヘルマンは今朝早くに町を出てしまいました。大きな町で換金するのだと思います。代金は全てお渡し致しますので、許していただけませんでしょうか?」
期待以上のクズで思わず笑みがこぼれそうになる。それをおしころして、ジークフリートの方へと向き直った。
「さて、我が町の兵士がこうして信用ならないものだとわかったが、貴殿は何故代官を殺したのかな?」
「雇い主殿に賄賂を要求して、断られたら娘を連れ去ろうとしたからだ。悪いことをしたとは思っていない」
ジークフリートは俺を睨み付けてきた。お前も同じならばこの場で殺すと言わんばかりのプレッシャーだ。
俺はそれを軽く流す。
「我が領地の法律では、税の収奪は死罪と決まっている。代官と兵士が勝手に通行税を課していたが、税と名をつけておきながら税収として報告があがってないことから、これを収奪して私腹を肥やしていたのは明らか」
そう宣言すると残りの兵士も青くなり、その場で慌てて土下座した。
「とはいえ、一般人が代官を殺したとなるとそれも見過ごせない。なので、今日から貴殿は俺の部下ということでどうかな?今日から部下ならば何も問題はなくなるだろう」
「この方こそが新しい代官です。今までの不正を全て明らかにしてくださるはずです」
俺がそう宣言すると、カサンドラがすかさずフォローをしてくれた。すると周囲から歓声が沸き上がった。町の人々も代官たちを快く思ってなかったようで、俺の提案を歓迎してくれたのである。そこにはカサンドラの魅力値で上乗せされた評価もあっただろう。
もちろん、ジークフリートとヨーゼフも提案を受け入れてくれた。これにより二人が俺の配下となった。
護衛していた商人には二人をこちらで雇うことになったと頭を下げたが、恐縮されてしまった。通行税の返却に加えて、二人の護衛代金を倍額補償金として支払うといったが、それは固辞されてしまい、仕方がないのでアーベラインブルグ立ち寄る予定があるというからブルーノにベッカー商会で便宜を図るように書いた手紙を持たせることになった。
その後、ジークフリートとヨーゼフは先に役所で待つように伝え、俺が待たせているアドルフのところに向かった。
アドルフを二人と会わせるとどうなるかわからないので、代官は不正が露見したのでこちらで処置したことを伝え、その事をダミアンに報告しに行くように命令をした。
これでしばらくはアドルフはエルミッシュから居なくなる。魅力が100のアドルフは、他のステータスは大したことないが、その人望だけで帝国東部の覇者となるのだ。絶対に有能なキャラクターをこいつに会わせるわけにはいかない。
役所に向かう途中、カサンドラが話しかけてきた。
「なにかうまく事が運びすぎていて、最初から用意され計画だったかのようですね」
中々鋭い観察眼だ。ジークフリートとヨーゼフを部下にして、代官の殺害を正当なものとするのはアドルフが苦悩の末思い付いたやり方だ。小説ではその場で決めたものではなく、一日悩んで牢に入っていたジークフリートに伝えるというものだ。俺はそれを衆人環視のなかでやり、自分の人気を高めるのに使った。こちらの方がより効果的で、自分のステータスを鑑定すると魅力値が上昇していた。
マクシミリアン・アーベライン 15歳
武力23/C
知力32(+48)/C
政治31(+49)/C
魅力55/B
健康100/C
「俺に良い流れが来てるのかな」
「町に到着した翌日に、不正をはたらく代官を成敗される場面に立ち会い、彼とその義弟を部下に加えることに成功する。これが、単に社長が成人して代官を任されることになっただけなら偶然とも思えますが、代官として赴任する町としてエルミッシュを希望し、出発前に戦のための人材獲得が目的とおっしゃってましたので、全てはお見通しだったのかなとしか思えません」
知力の上がったカサンドラは鋭い考察をするな。これからは迂闊な発言は出来ないか。いや、カサンドラに隠しておく必要があるのかといえば、無いと思う。
ただ、いきなり違う世界でカサンドラそっくりの俺の初恋の人の命を救うために、この世界で国内統一を目指してますって言っても理解してもらえるとは思えない。
しかるべき時が来たら正直に伝えてもよいが、今はその時ではないだろう。
「天下を取る人間は、神が味方するのかな。過去の歴史を見ても、建国の王たちはみな奇跡というような幸運があったからね。ならば、今回の幸運も神が天下を掴めと示されたと考えてもいいんじゃないかな。具体的な啓示があったわけではないけど、エルミッシュに来ればうまく行く気がしていたんだ」
俺の言葉を聞いて、カサンドラはハッとした。
「社長、皇帝になるおつもりですか?」
俺はその問いかけを否定しない。
「もちろん。この傾いた国のままでは君たちみたいな不幸な子供があとをたたない。それを終わらせるために、とかいう崇高な理由じゃなくて、自分がどこまで出来るのかを試してみたいって理由だけどね」
「それでも、結果として国内が平和になれば、後の歴史家は社長のことを評価すると思います。私は是非とも社長に皇帝になっていただきたいです。そのためには、これからもお役に立たせてください」
「それが、焼けた石が敷き詰められた上り坂を裸足でのぼるような険しさだとしてもついてくるのか?」
そう問いかけると、カミルやエルマーが笑った。そしてカミルが
「社長に助けてもらわなければ、俺たちはどのみち生きてはいられなかったんだ。それに、後輩たちだってそうさ。みんな社長に救われているんだから、社長が皇帝を目指すっていうのなら喜んでついていきますよ」
と言ってくれた。忠誠100は伊達じゃないな。嬉しい反面、彼等を戦場に連れていく事への後ろめたさもある。ならばせめて、帝国を統一して戦争の無い世界を彼らに見せてあげるくらいはしてやらないとか。目的はどうあれ、目指すものは一緒なのだし。
「わかった。皇帝になって戦争や飢饉による孤児が出てくることがない世界を見せてやろうじゃないか。その代わり、こき使うから、覚悟しとけよ」
俺がそういうと、みんなが頷いた。
そして、その後役所に到着して、配下に加わった二人を鑑定する。
ジークフリート・イェーガー 25歳
武力99/S
知力72/A
政治71/A
魅力97/S
健康100/S
忠誠70
小説ではアドルフ・ミュラー五守聖のひとり。ヨーゼフの義兄。通称「銀狼」
ヨーゼフ・シュプリンガー 21歳
武力98/S
知力52/B
政治41/C
魅力67/B
健康100/S
忠誠70
小説ではアドルフ・ミュラー五守聖のひとり。ジークフリートの義弟。通称「赤い悪魔」
二人の説明に小説ではというただし書きが加わっていた。これで、アドルフに二人を取られることは無くなったのかな?
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