第6話 計算違い
倉庫で孤児たちを鑑定するとさらに2人優秀な人材が見つかった。
カサンドラ 10歳
武力20/B
知力68/S
政治69/S
魅力62/A
健康81/A
ブリギッタ 9歳
武力11/C
知力70/S
政治58/A
魅力67/A
健康79/A
二人とも女の子である。カサンドラは黒髪に黒い瞳。とてもよく知っている顔をしていた。というか、子供の頃の峰岸さんそのものだった。運営、やり過ぎだろ。もう、カサンドラと一緒にどこかに逃げて暮らせたらそれでいいやと思えてくる。が、それでは実際の峰岸さんが死んでしまうので、その気持ちを押しとどめる。
なお、他の孤児たちはみんな適性が高くてもBであり、ステータスの数値も50以下であった。それでも適性がBならば教育次第でどうとでもなる。
孤児たちを見ているとカミルから声をかけられた。
「ここで暮らしていいのか?」
カミルは倉庫内をきょろきょろと見回している。今までの所とは違って壁がある。さらには、地面に板が数枚敷いてあり、屋敷で使っていた古い布団も置いてある。数が足りなかったので、綿の入っていない単なる布もあるが、今の時期なら凍死するような寒さにはならないので、これで十分だろう。
「もちろんだよ。ただし、裏の井戸で全員体を洗ってくるように。それと、服もお古だけどいくつか用意してある。どうせ着替えなんて無いんだろうから、サイズが合うものがあればそれを着て、今着ているものを洗うように。まずは清潔にしておかないと病気になるからな」
動けないエルマーを除いて、全員に体を洗わせて着替えさせた。服のサイズが合わないやつは、布団代わりの布を巻くことで代用させてある。せっかくの住み処を汚すわけにはいかないのと、健康を維持するためには当然の処置だ。
「全員体を洗い終わったね」
俺とマルコで確認する。中々臭いは落ちないが、顔の汚れなどは落ちたのでよしとしよう。
「それで、俺たちはこれからどうすればいい?」
カミルに訊かれたので、全員に聞こえるように
「今日はなにもしない。が、明日からはマルコの息子も加えて、読み書きと計算、それに剣の訓練もしてもらう。あ、食事はここにパンが買ってあるから」
予算で購入しておいたパンを指すと、孤児たちの目の色が変わった。みんながパンに駆け寄る中、カサンドラだけがその場を動かずにこちらを見ている。
「何が目的ですか?パンまで用意してあるなんて、待遇が良すぎます」
そう訊かれる。
「昨日も言ったように、君たちは俺の家来みたいなもんだ。それを餓えさせるのは良くないだろう」
「それにしたって」
「もちろん、ただでこんなことをするつもりはない。明日から勉強してもらい、ひとつき後には働きに出てもらう」
そう説明したが、カサンドラは納得していないようだ。疑いの眼差しが向けられたままである。
「私たち子供が働いたところで得られる収入なんて知れてます。割に合わないでしょ」
「だからこそ付加価値をつけるんだよ。大人でも読み書きが出来て、計算も出来るなんて数少ないからね。それに、働くといっても住み込みじゃない。毎日ここに帰ってきてもらう。そうしないと、売られたかもしれないって考えがでるからね」
子供が住み込みの奉公みたいなことをしている例もあるが、そうするつもりはない。売られた心配をさせないというのもあるが、孤児たちは俺の配下になってもらうつもりなので、売ったらそれが出来なくなる。それは口に出来ないので、表向きの理由しか説明しないが。
「大人も出来ない事を私たちに出来るわけないわ」
「それはみんな教育を受ける機会がないからだよ」
日本では四則演算、とくに足し算と引き算なんて小学一年生で習う。つまり、その年齢で理解可能なのだ。カサンドラが出来ないと思ってるのは間違いなのである。
「まあ、このひとつきの間に覚えられなければ、また路上生活に戻ってもらうしかないんだけどね。来月からはここの家賃を払うことになってるし、食い物も自分達で調達することになるから」
「わかった。やってみる」
カサンドラは自分が置かれた状況を理解してくれた。
そして翌日マルコの息子がやってきた。鑑定をしてみると、中々将来性がありそうな適性だった。ただし、親の心配するように軍人になりそうな感じではあった。
ケビン 12歳 マルコの息子
武力41/A
知力36/B
政治38/B
魅力57/A
健康99/A
この21人をひとつきで鍛えないとならない。
「さて、最初の授業を始めようか」
俺がそう言うと、カサンドラが
「アーベライン様のことはなんて呼べば良いでしょうか?」
と訊いてきた。
その質問で少し考える。アーベラインというのでも問題ないが、役職的には先生もありだろう。ただ、来月からも先生というのはどうだろうか。彼らには働きに出てもらい、自分はそれを管理するのだから、先生ではないような気もする。
そして出した結論は
「社長で」
「社長?」
聞き慣れない単語にカサンドラが戸惑う。ほかのみんなも同様だ。
「この組織の長だからね。これからは社長と呼ぶように」
派遣会社を始めるのだから、社長でいいだろう。この世界には会社という概念がなく、近いのは商会になるので会長というのが一般的だ。孤児たちにはそれですら伝わらないだろうけど。
呼称の問題が解決したので授業が始まる。まずは数字を10まで教える。ある程度の時間が経ったら今度は文字の勉強にうつる。子供たちの集中力は長くは続かないので、休憩を挟みながら内容を変えていく。
座学だけではなく、マルコによる戦闘の授業もある。これは主に護身のためだ。年齢の低い子供たちは午前中で授業は終わりにして、午後は遊ばせることにしようとおもったが、みんなやる気があるのでそのまま授業に参加させた。
夜は俺の作ったカードを使って遊ばせる。カードはトランプみたいに数字が書いてあり、どちらが大きな数字かを考えさせるものや、絵と文字が書いてある単語カードだ。こちらは文字を覚えてもらうのに使うが、将来的には買い物ごっこをさせる予定だ。
カミルとエルマーは別メニューで、マルコがいる間は追加で戦闘訓練をさせていく。適性を考えたら彼らは武力を上げることをさせておきたい。
そんな感じではやくもひとつきが過ぎてしまった。そして計算違いがあったとわかる。派遣社員として送り込めそうなのは、カサンドラとブリギッタの二人だけだった。計画段階では派遣会社が人口に膾炙すると思っていたが、やはり知力と政治が低い俺の計画ではざるだったか。
ステータスの上昇した二人だけでも仕事をしてもらい、その間にほかの子供たちのステータスを上げていくしかない。
カサンドラとブリギッタは元々話をしてあったオットーの元に派遣することになった。戦争で役人も何人か連れていかれてしまい、人手不足で困っているから仕事はいくらでもあった。そして、派遣のメリットである必要なときだけというのが需要にマッチした。戦争が終われば役人も帰ってくるので、新規に人を雇うことが出来ない。派遣ならば役人が帰還したところで契約を打ち切ればいいので、戦後不要な役人がでてしまうという事がないのだ。
契約は全て日払い、1日1人400ゾン。ゾンは帝国の通貨単位だ。そして、平均的な収入は大人でひとつき5000ゾン程度。家を持っていて最低限の生活をするのなら3000ゾンくらいだ。役人の給料はアーベラインブルグで20000ゾンなので、稼働日からするとカサンドラたちはおよそその半額で雇われることになる。それでも一般的な大人の倍の収入になる。これが、子供が出来るような簡単な労働だと一気に賃金は安くなる。おそらくは1/10位だったはずだ。それではここの維持管理が成り立たない。だからこそ、付加価値をつけた派遣を考えたのだ。
とまあ、カサンドラとブリギッタが生活するには申し分ないのだが、20人の食費と家賃を考えるとまったく足りない。さらには服や布団なども買いそろえていきたいので、はやいところ、ほかの子供たちにも稼いでもらいたいのが本音だ。
しかし、まだ計算がたどたどしいので、この状態では派遣先の信頼を失うだけだ。
ひとつき後、ステータスを確認してみる。俺は指導することでステータスが上がったようだ。魅力も上がったのは孤児たちの心の変化だろうか。
子供たちは指導する俺のステータスのボーナス値が反映されて、カサンドラとブリギッタの知力と政治はかなり上昇した。カサンドラについては既に指導することは無くなっている。
そして、忠誠という項目が追加されていた。これが現在の忠誠心というわけだな。
マクシミリアン・アーベライン 10歳
武力21/C
知力23(+50)/C
政治21(+50)/C
魅力23/C
健康100/C
カミル 12歳
武力58/S
知力40/C
政治31/C
魅力60/A
健康95/A
忠誠51
エルマー 12歳
武力49/A
知力43/B
政治34/B
魅力63/A
健康61/B
忠誠60
カサンドラ 10歳
武力22/B
知力73/S
政治71/S
魅力62/A
健康100/A
忠誠65
ブリギッタ 9歳
武力11/C
知力73/S
政治69/A
魅力67/A
健康98/A
忠誠58
ケビン 12歳 マルコの息子
武力45/A
知力38/B
政治39/B
魅力57/A
健康99/A
忠誠83
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