第2話 ガチャをひいたら
「お、ゲームの世界か」
目の前に白かった世界から色が戻る。部屋の中にいるが、窓から見える外の風景は中世ヨーロッパっぽい街並みである。小説の舞台そのものだ。
景色に感動していると、声が聞こえてきた。
「ガチャを引いてみな」
「ガチャ?」
そういえばガチャをひけるっていう話があったな。ソシャゲっぽいなと思ったが、もらえるものは貰っておかないと。
しかし、引き方がわからない。そう思っていたら目の前にショッピングセンターで見かけるガチャの機械が出現した。
機械中央にあるダイヤルを回すとカプセルが落ちてきた。そのカプセルを開けてみると紙が入っている。
「FAX10回って書いてある」
「それがお前の引いたギフトだね。ゲーム中に10回しか使えないから、どこで使うかはよーく考えてから使いな」
「いや、戦略シミュレーションゲームでファックスとか意味がないにも程があるだろ!」
おもわずツッコミを入れた。遠方への情報伝達という意味では有効なのかもしれないが、こういう時は戦術MAP兵器とか、キャラクターの能力値アップアイテムとか、そういうものが出てくるもんじゃないか。
こうなったら、転生・転移の定番である火薬を作って無双をするしかないな。
と思ったら、思考を読まれたのか
「あ、銃や大砲の類は禁止だよ。原作小説には出てきていないだろ。システム的に作れないようになっているからね」
と釘を刺されてしまった。
まあしかたがないか。世界観を壊さないようにっていうのがあるのかもしれない。低い能力値を補うための手段として考えていただけに、それが封じられたのは痛い。
その代わりに手に入ったのがファックスだとは、とほほな事態だ。
「もう一回説明しておくけど、ギフトは自由に使用できる。戦争状態じゃなくてもね。使い方はヘルプ機能があるから、使う前に確認するといいよ」
「わかったよ」
と投げやりに返事をした。正直これからの事を考えると暗澹たる気持ちになる。とてもじゃないが、今はヘルプ機能を使う気にはなれなかった。
「そうそう、それとねえこの世界では感覚があるから、ゲームだと思って油断して攻撃を食らうと死ぬほど痛いからね」
「ゲームをクリアー出来なくて死ぬ未来の予行演習ってわけか。二度も同じ痛みを味わいたくないんだけどなあ」
死ぬ痛みを二度も味わいたくはない。これは何としてもクリアーしなくては。
「それと、NPCもみんな感情を持っていて、普通の人間だからね。厳しく当たれば裏切られもするし、優しくすればなめられて裏切られるからね」
「どっちにしても裏切られる未来しかないように聞こえるけど」
「そこは接し方次第だよ。部下をどう扱うかだね」
「そんな経験ないから難しいな」
仕事で部下がいたことは無い。というか、今までの人生で後輩を指導するようなことだって殆どなかった。だから、どうやったら人望を得られるかはよくわかっていない。それに加えて低いステータスだ。魅力がもう少し高ければどうにかなったのかもしれないけど、それもこの数値では無理なことだ。
と、そこでステータス値で確認すべき事があるのに気付く。
「知力が20で適正もCだと文字も読めないし、計算も出来ないってことかな?九九は今でも言えそうなんだけど」
知力が低いとなると、今ある知識も使えなくなるということなのだろうか。そうなると、なんのアドバンテージも無くなるが。そう心配したが、
「知識は使えるよ。ただし、計算なんかは頭にもやがかかったようになって、遅くなるけどね。体を使えば武力が上がるし、頭を使えば知力が上がる。元々のゲームでも適性だって稀に上昇することがあるだろう。ここでも同じだよ」
ということであった。武力についても授業で習った剣道、柔道の経験は持ち越されるが、頭では理解できていてもからだが動かないということで、いわばハンデを背負った状態だと考えたらいいとも言われた。なお、適性が上昇することはゲーム内でもごくまれに発生しており、それによって使えないと思っていた武将が有能になってくれたりもした。発生条件が不明なので、再現するのは難しいともうがないわけではない。
「それで、声の主さんとはここでお別れなのかな?」
ゲームについての質問はこれからもしていきたいが、相手の状況がわからない。仮にシステム的にまずいことを実行しようとして、ペナルティをくらうのはごめんだ。そういうわけで、今後も質問をしていきたいのだが
「ゲームを有利に進めるための助言は出来ないけど、プレイヤーキャラクターとしての行動の可否については会話できるね。ゲームマスターだと思ってくれたらいい。ただし、ルールを作っているのはわたしよりももっと上の存在だから、即答出来ない事もあるかもね」
と返答をもらった。
「それで構いませんよ」
まあ、悪くはない条件かな。いきなりペナルティをくらうよりは全然ましだ。
「それじゃあゲームを開始するからね」
「わかったよ」
こうして今度こそゲームが始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます