ステータスが最低のキャラでゲームの中に転生したけど、FAX10回使える特典だけでどうしろと

工程能力1.33

1章

第1話 ゲームスタート

「ふう」


 と俺はため息を一つついた。プレイしていたパソコンのシミュレーションゲームをクリアーしたからだ。タイトルは『英雄たちの野望』、いわゆる戦略シミュレーションゲームのジャンルである。実在の歴史をモチーフにしたものではなく、同名の人気小説をゲーム化したものだ。

 『英雄たちの野望』は主人公であるクリストファー・カーニーが皇帝に見初められて後宮に入った姉を取り戻すため、大陸を支配する帝国の崩壊に乗じて下剋上をしていくというありふれたものだが、主要な登場人物の殆どが美形であることから人気が出た作品である。

 ゲームはネット対戦がないので、俺のようなコミュ障であっても安心してプレイできる。勤めていた会社が倒産して、職安の紹介で面接に行くが何も答えられないくらいにはコミュ障の俺でも安心してプレイできるのはありがたい。失業保険の受給期間はずっとこれで遊んでいるつもりだ。

 そう、俺山崎武則は現在無職の29歳だ。特にこれといって自慢できる経歴はなく、普通に大学を卒業して就職して無職になった。ちなみに独身だ。


「ああ、コーラとポテチが終わってしまったか。買いに行かないとな、面倒だけど」


 デブ活が捗るコンビを食いつくしてしまったので、追加のカロリーを補充しようとアパートから出た。日は南の空に高く輝き、昨日の夜からぶっ続けでゲームをしていた身には痛い。ヴァンパイアもこんな気持ちなんだろうか?

 そんな風に太陽の痛みに耐えながら近所のコンビニに向かって歩いていると、突然


「上!」


 と叫ぶ声が聞こえた。

 その声に従って上を見ると、赤ちゃんを抱きかかえた女性が俺めがけて落ちてくるところだった。

 そして、そこで時間が停止する。


「やあ」


 と挨拶をされるが、誰が挨拶をしたのかわからない。周囲の景色は落ちてくる女性も、走っている車も全て停止して、音も聞こえなくなったというのに、動く者のない中でその挨拶だけが聞こえたのだ。


「誰だ?」


 挨拶が聞こえてきた方向に質問を投げてみた。


「霊的な何かって言えばいいのかな」


 そう返答があった。よくよく聞いてみればかなり歳をめした感じの声だ。


「霊的?」


「それが一番理解しやすいかなって思ってね。こうして静止した時間の中で二人だけ会話が出来ているので、超常現象であることはわかってもらえるかな」


「そうだな。常識ではないことはわかる」


 そう納得しないと説明がつかない状況で、脳内の混乱が収まらない。


「それでね、今から10秒後には君は死ぬ」


「10秒って短いですけど、逃げる時間ありますよね」


 俺は上を見て今にもぶつかりそうな女性を指差す。


「ぶつかるのは1秒後。即死じゃなくて苦しむのに9秒ってところだね」


 苦しむ時間があるのか。嫌だな。


「そういや、この女の人見たことある気がするなあ」


 俺の死因となる女性にはどこか見覚えがあった。


「小林優子、旧姓峰岸って言えば覚えもあるだろう」


 俺はその名前を聞いてハッとした。初恋の人だったからだ。


「どうして彼女が上から降ってくるんだよ!」


 動揺してかなり強い口調になってしまった。


「結婚して子供が出来たけど、旦那が浮気して離婚。シングルマザーになったが、元旦那が養育費を払わず仕事も見つからない。そんな状況に絶望して心中って上記さね。初恋の人と一緒に死ねるんだから、良かったじゃないか」


「なんで初恋の人って知ってるんだよ!」


「お前の事ならなんでも知っているさ。ところで、助かりたくないかい?」


「助かるのか?」


「そうだ。そのためにここに来たんだからな」


 少し気分が楽になったが、すぐに頭上の峰岸さんを思い出した。


「俺が助かるってことは、彼女と赤ちゃんは死ぬのか?」


「助けてやれないこともないが、条件がある」


「条件?なんだってやる。だから彼女を助けてくれ」


 初恋の人といっても告白したわけではない。ただ、付き合えたらいいなって思っていただけ。もし、勇気を出して告白をしていたら、俺も彼女もここで死ぬことは無かったかもしれない。いや、それは俺が彼女と結婚できるという自惚れか。

 なんにしても、彼女を助けたいという気持ちに変わりはない。早く条件を聞かせてくれと声の主にせがんだ。


「では、ゲームをしようじゃないか。そのゲームの達成条件によって何人助かるのかを決める。例えばじゃんけんなら三回やって勝った回数だけ命を助ける。なお、一回だけならお前が優先されるから」


「ゲームはこちらで指定できるのか?」


「ああ、指定出来るとも。麻雀だろうがトランプだろうがボードゲームだろうが、なんだっていい」


 そう言われて考える。じゃんけんのような運否天賦に命を賭けるわけにはいかない。麻雀やボードゲームには戦略性もあるが、運の要素が占める部分が大きい。

 となると…………


「コンピューターゲームでもいいのか?」


「勝敗が明確になるものならかまわない」


「じゃあ、『英雄たちの野望』で」


「はいよ、ちょっと待ってな」


 そう言うと、声の主の気配が消えた。そして、しばらくして気配が復活する。


「とこかに行ってたの?」


「ちょっとルールを確認しに。ゲームの内容は把握した。お前にはゲームの中の登場人物になってもらう。ゲームの終了はお前のキャラクターとしての寿命が終わるとき。クリアー条件は戦死しないこと、暗殺されないこと。まあ、病気を含めて寿命ならクリアーだ。お前の命は助かる。で、他には寿命で死亡時に領主なら二人、大陸統一なら三人助けようじゃないか」


「領主の時に戦死したらどうなるんだ?」


「戦死や暗殺された場合はクリアーとは見なさないから、領主だとしても命を助けはしない」


「厳しいなぁ」


 と言いながらも、頭の中では勝てる算段をしていた。最初から強いキャラクターを選べばクリアーは簡単だ。何度かそうしたキャンターを使ってクリアーしたが、それだけではつまらないので、次第に弱いキャンターを使って遊ぶようになった。それでもクリアー出来たので、主人公か、もしくはその側近になることが出来たら簡単にクリアーできるだろう。

 重要なのはここで俺が簡単にクリアーできると悟らせてしまい、追加で縛りプレイのような難しい条件を出されてしまう事だ。なので、難しいという顔を見せた。


「そうだろうね。お前にはアーベライン子爵家の三男という立場でゲームをスタートしてもらう」


 俺はその言葉にぎょっとした。


「えっ?プレイヤーキャラクターはこちらで選べるんじゃないの?」


「そんなことをしたら難易度が下がるじゃないか。人の命がかかっているんだから、難易度は高くしないとね」


「ぐっ……」


 すごく尤もな理由が返ってきた。これ以上ごねて条件が更に悪くなるくらいなら、ここで受け入れるしかないか。

 それにしても、アーベライン子爵家か。ここは最初に主要キャラクターの踏み台にされて滅びることになっている貴族だ。しかも、そこの三男とか


「まあそれだけだとクリアーは不可能に近いから、スタートは帝国暦510年、その年で年齢は10歳。目に入った人物の能力鑑定、それとガチャによるギフトを一個だけあげようじゃないか」


「帝国暦510年ならいいか。ゲームのシステムを使うなら、戦場や領土は俯瞰出来るようにしてもらいたい」


 帝国暦510年、それはゾンネ朝と呼ばれる帝国の末期ではあるが、滅亡まで少しの時間がある。そして、ゲームはキャラクターの育成が出来るのだ。だから、戦乱の訪れる前に自分を育成する時間がある。さらには人材獲得の時間もあるわけだ。

 ギフトは本来ゲームには無いが、もらえるというなら貰っておこう。そして、戦略シミュレーションゲームなので、戦場や領土は俯瞰して見たい。


「それくらいはいいよ。何せお前のステータスは低いからね。ただし、ゲームと一緒で俯瞰して見られるのは隠れる意思のない部隊のみだよ。伏兵なんかは斥候を出すか、攻撃を受けるかしないと表示はされないからね。さて、これが初期のステータスだよ」


 と提示されたキャラクターのステータスは酷いものだった。


マクシミリアン・アーベライン 

武力20/C

知力20/C

政治20/C

魅力20/C

健康100/C

主人公、アーベライン子爵家の三男


 数値は能力の初期値で、アルファベットは適性。数値は80を越えると有能、79~50までは使えなくはない。49以下は数会わせという感じだ。適性はS、A、B、CとあってCは最低ランク。能力値の伸びが低いということである。健康が高いのは若いからか。病弱ではないのが救い。

 それにしても、これで統一を目指すとかかなりの難易度だな。


「じゃあ始めようか」


 と言われて目の前が真っ白になった。

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