異世界はスマッシュと共に

第33話 狐

　健斗が賊のアジトを片付けたことで、しばらくは安全な旅が続くことが期待された。彼らは再び馬車に乗り込み、街道を進んでいった。

　エレナは健斗の勇敢な行動に感謝しつつも、彼の表情に何か悩みを感じ取っていた。

「健斗様、大丈夫ですか？」

　エレナが優しく尋ねる。

「うん、大丈夫だよ。ただ、少し考え事をしていただけさ。」

　健斗は微笑んで答えたが、その笑顔には少しの疲れが見えた。

　リサリアも健斗の様子を気にかけていた。

「健斗様、無理をしないでください。私たちもできることは手伝いますから。」

「ありがとう、リサリア。でも、大丈夫だよ。本当に。」

　健斗は2人に心配をかけまいと努めていた。

　しかし、旅が進む中、健斗は賊との戦いを振り返り、自分の感情と向き合う時間を持った。彼はこの世界での生き方について深く考え始めた。賊を倒すことが正しいと信じながらも、その行動に対する自分の反応に少しずつ疑問を感じていた。そして、いくら罪のない人を殺すことを何とも思わないようなクズ、つまり賊とはいえ、人を殺してしまったことには変わりなく、己の手が血塗られているのだと、リサリアが泣いていたことが理解でき始めた。

　翌日の野営地に到着し、彼らは馬車を囲むようにしてキャンプを設置した。エレナは今回の見張りを希望し、自信満々に立候補した。

「私が見張りをする番です、健斗様。今度はちゃんとやります。」

「分かった、エレナ。頼んだよ。でも、無理はしないでね。」

　健斗はエレナの決意を尊重しつつも、心配の色を隠せなかった。

　夜が更け、健斗とリサリアは馬車の中で休むことにした。リサリアは健斗に向かって話しかけた。

「健斗様、本当にお疲れ様でした。でも、あまり無理をしないでくださいね。」

「ありがとう、リサリア。でも、みんなを守るために頑張るのは当然だよ。」

　健斗はリサリアに微笑んだが、その笑顔には決意と不安が交錯していた。そしていつの間にかリサリアの胸に己の顔が埋まっていることに気がついた。誰かのすすり泣くのが聞こえた。そして頭を撫でられていた。

「大丈夫です。私がおります。健斗様の背負った業は私も共に背負いましょう。」

　そうしてリサリアの胸を涙で濡らしていたが、純粋なその温もりと柔らかさに安堵と心地よさを感じ、安心して眠りに落ちた。

　深夜、健斗は突然目を覚ました。何かの気配を感じ取ったのだ。彼はすぐにラケットを手に取り、外に出た。そこには、小さな影が蠢いていた。賊や悪意のある魔物ではないが、何かの動物かもしれない。

「何だ…？」

　健斗は警戒しながら、その影に近づいた。すると、小さな狐が彼の前に現れた。狐は健斗を見つめ、その目には不思議な輝きがあった。

「お前、どこから来たんだ？」

　健斗は狐に問いかけたが、当然返事はない。狐はしばらく健斗を見つめた後、ゆっくりと去っていった。

　健斗は狐が去っていくのを見届け、再び馬車に戻った。

「何だったんだろう…？」

　健斗が見張りをしていると再び何かの気配を感じ取った。静かに周囲を見渡すと、昨夜と同じ狐が現れた。

「またお前か…。何か伝えたいことでもあるのか？」

　健斗は狐に問いかけたが、やはり返事はなかった。ただ、その目には何かを訴えるような輝きがあった。

　健斗が狐の目線の先を辿ると、少し離れた場所にもう一匹の狐が罠にかかっているのを見つけた。

「あれは…！」彼は急いでその場所に駆け寄り、罠にかかった狐を助け出した。狐は痛みに耐えながらも、健斗の手に触れ、感謝の意を示すようにその目を見つめた。大きさから親だろうか？

「大丈夫か？」

　健斗は狐をそっと抱き上げ、傷を確認した。

「そんなに深い傷じゃないけど、しばらくは安静にしていた方がいいな。」

　彼は優しく狐を撫で、その後再び馬車に戻った。

　翌朝、健斗は仲間たちに昨夜の出来事を話した。エレナとリサリアは狐が助けを求めに来たことに驚き、そして感心していた。

　再び馬車での旅が始まり、健斗たちは次の目的地に向かって進んでいった。道中、エレナとリサリアは景色を楽しみながら談笑していたが、健斗の心は昨夜の狐のことが気になっていた。

　翌日、またもや野営することになった。その夜、健斗は目を覚まし、彼は狐の姿を思い浮かべながら、再び眠りについた。

　翌朝、エレナは健斗に興奮気味に話しかけた。

「健斗様、昨夜の狐を見ましたか？あれは神聖な存在のように感じました。」

「そうなのか…。特に危険は感じなかったけど、不思議な体験だったな。」

　健斗は狐のことを思い出しながら答えた。

　エレナとリサリアも興味津々でその話を聞いていた。

「狐が現れるなんて、何か良いことの前触れかもしれませんね。」

　リサリアが微笑んで言った。

「そうだといいけどな。」

　健斗は笑顔を見せ、再び馬車を進める準備を整えた。

「健斗様、本当に動物にも優しいんですね。」エレナが微笑んで言った。

「いや、ただの偶然だよ。でも、あの狐が助けを求めに来たのは何かの縁かもしれないな。」

　健斗はそう言いながら、助けた狐を見つめた。

　旅が再開されると、助けを求めてきた狐がずっと健斗たちの後をついてくるようになった。彼らが進むたびに、その小さな姿が後ろを追いかけてくるのだ。

「この狐、ずっとついてくるわね。」

　リサリアが不思議そうに言った。

「きっと助けてもらった恩を感じてるんじゃないかな？」

　エレナが答えた。

　健斗も狐がついてくることを気に留めていた。

「どうする？このまま連れて行くのか？」

「ええ、いいんじゃないですか？この狐がいると、不思議と安心感がありますし。」

　エレナが微笑んで言った。

「そうだな。もし何かあったら、また助けてやればいいさ。」

　健斗も同意し、狐を受け入れることにした。ただ、助けた方の狐がいないことが気になったが、親子でなく、仲間だったのかな？などと思案した。

　その日から、狐は健斗たちの旅の仲間となった。彼らが進む道中、狐は常にそばにいて、その存在が旅の疲れを癒してくれるようだった。健斗たちは狐と共に進んでいった。

ごめんなさい。ほとんど誰も読まないので打ち切ります。