第36話 新しい出発

私達が外に出ようとしてドアを開けたら、外には一麻かずまさんとたつさんに出くわした。びっくりしたー。いきなりだもん。

「ふ二人とも…おはよう」

「おはよう。望未のぞみさん。ここがスイートピーなんだよね。川出かわでさんがスイートピーの本店はここだよって教えてくれたんだ」

「僕も一麻も行ってみたくなったんだ。だから来たよ」

「ほら。早く入れよ。席取れなくてなっちまうよ」

ほまれさん。ありがとう」

「竜。早く入ろうよ。僕、窓際の席がいい」

二人はすぐに店の中へ入って行った。ほまれがはにかむ。

「こんなにお客が来てくれるようになるとは思わなかった。こんなん初めてだよ」

「へファイトスのおかげ…かな」

「どうなんだろう。俺には分からないや」

果たしてへファイトスの騒動によって、スイートピーは有名になったのかどうなのか。私は分からないので、想像してみるしかない。

「今から公園に行ってボール遊びしようよ」

優太ゆうた〜。今日は雨上がりで、公園の地面ぐちゃぐちゃになってるから…行くと泥だらけになっちゃうよ」

「じゃあやめておく。代わりに…何しようか」

優太君は必死に考えている。かおりが何かひらめいたようだ。

「今から、買い物に行くってのはどう?スイートピーの店内をもっと飾りつけしたい。真っ白な壁ってさびしいじゃん」

「いいかもな!やろうぜ、香」

「私も賛成!優太もやろうよ」

「うん。いいよ」

賢悟けんご君はどう?私は賛成」

「俺も。どんな飾りつけがいいかな」

よし全員(萊斗らいとさんを除く)賛成だ。

私は萊斗さんにせがんだ。

「あの〜。車出してもらってもいいですか?」

「俺が?この中で車の運転免許持ってるの俺しかいないか。分かった。車取りに行ってくるから少し待ってて」

萊斗さんはそう言うと、足を少し引きずりながら、スイートピーの駐車場に向かった。頼もしい人だね。

「よし。じゃあ行くぞー!」

誉のかけ声で向かったのは市内の大型ショッピングモール。数年前にオープンしたばかりで、建物全体の色が鮮やか。

私達はここで絵を描くキャンパスや、絵の具、ドライフラワーや、大きな布等色々買った。ついでに、小さな画用紙を沢山買った。

買い物が終わって帰って来た後に私達はスイートピーの二階で作業をしていた。私、工作得意じゃないんだけどね。

誉はかなりう絵が上手い。キャンパスに鳩と虹の絵を何も見ないでいきなり描いていた。薄暗さを感じさせない明るい灰色の鳩の絵の上に虹のグラデーションが施されている。

香や茉奈、賢悟君はスイートピーの一階で大きな布(完全に布だが香はカーテンだと主張している)や、ドライフラワーを取りつけている。たぶんお客さんの目の前で。

店内に誉が描いた絵を飾った時、その絵を見たお客さんは感激していた。


とにかくバタバタして忙しかった一日がもう終わろうとしている。

スイートピーは閉店して、茉奈達はそれぞれ家に帰った。

店内には私と誉ぐらいしかいない。

「望未。ありがとう。お前に会ったおかげで、今まで俺が知らなかった世界を見ることができた」

誉がかすかにほほえんだ。嬉しそうに。

「そんなこと無いよ。私も、誉のおかげで新しいものの見方が分かったから。何もかも一方向で見ないって」

「そいか。所でさ、スイートピーの入口に花を飾ったんだ。花の種類、分かるか?」

白くて…蝶のような形をした花が鉢に入って入口のドアの横に置かれている。

「スイートピーでしょ」

「正解だ」

ここから、新しい出発をして行くのだ。つらい過去は変えることができないけれど、未来は変えることができる。私はつぶやく。

「私はこのスイートピーで、新しい出発ができたよ」

白いスイートピーの花が月明かりに照らされていた。


                                     終









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スイートピー 渡部碧 @loads7182

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