第35話 虹色とチョコレート色

今日は二号店が定休日で、萊斗らいとさんもスイートピーに来ていた。

三好みよしさんは接客でバタバタしていて、私達と話をしている暇は無さそうだ。他のバイトの人もいる。

「そういえばさ、どうして三好さんがスイートピーで働き始めたか知ってる?」

「え?確か…あれ?あ、俺、知りません」

「私も知らないです」

萊斗さんと三好さんってどういう関係なのだろうか。優太ゆうた君がクッキーをポロポロこぼしながら手を合わせた。

「城田さん!もぐもぐ僕知りたいからもぐもぐ教えて下さい」

「優太。食べながら喋らない。やるならどちらかにして」

「はーい」

「そもそも城田さんがスイートピーに初めて来たのっていつですか?俺は城田さんに会った覚えが無いです」

「二ヶ月ぐらい前までは、平日の午前中に注文の品を届けに行ってたからね。賢悟けんごさんと僕は会ったことが無いと思うよ。僕が初めてスイートピーに来たのは四年前だ」

かなり前から、ここを知ってたんですね。私は全く知らなかった。と言うより気がつかなかった。

「それで…三好さんの話は?」

かおりさん。ちょっと待ってよ。今から話すから。彼、実は…髪の毛を染めていなくて、あの赤茶色…レンガ色の毛は、地毛なんだ」

「え?」

「あのチョコレート色の、私大好きです」

「染めていないんですか?」

「元々あの色…ですか」

びっくりしたー。三好さん、髪の毛染めてないのかー。

「彼は小さい頃からよくからかわれて、中学生とか高校生になった時は、黒に染めて来い、とか地毛届を出せ、とか言われて苦労してたらしいよ。だから、髪の毛の色を指定されないこのスイートピーのバイトを選んだんだってさ」

三好さんも苦労してたんだね。つらい経験をして来た三好さんが、人を助ける看護師になりたい…。すごいよ、三好さん。

萊斗さんは一気に言い終えると、窓の外を見た。

「看護師って昔は看護婦と看護士って呼ばれてたんだぜ」

「そうだったんですか?」

香。どんだけ驚くのよ。優太君の方が自然な反応してるよ。

「ああ。昔は保育士のことを保母さんと呼んだでたり、飛行機の客室乗務員のことをスチュワーデスとか言ってたんだ。

今は、性別に関係無い呼び方の職業が多いよ」

「へえー」

「ご注文されたカップケーキ七個です」

店員さんが虹色のカップケーキを持って来た。とても色鮮やかだ。萊斗さんがカップケーキを指差した。

「これは、俺のおごり。俺を助けてくれたお礼。君達にきっちり言われたから、今の仕事に就けたし、過去は変えられなくても、未来は変えられるって気づけたんだ。本当にありがとう」

良かった。萊斗さんが自分を肯定できたのなら。

優太君がカップケーキを手にとって口にぽいっと入れた。

「おいしいね。色カラフルだし」

「もしかして…虹色にも何か意味があるんですか?」

香が口の周りを虹色にしている。どう食べたらあんなに上のチョコが口につくのか…。分からない。

「一色一色が個性を表してるんじゃねえのか。はっきりとは俺も分からんけどよ」

「そうかもしれないね」

この虹色カップケーキ(私が勝手に名付けた)にこめられた本当の思いを知るのは、スイートピーの店員さんと誉のお母さんだけ。

今度誉のお母さんと話す機会があったら聞いてみようかな。

それにしても虹色カップケーキおいしかったー。

後、ジュースを一杯ずつ萊斗さんがおごってくれた。(カップケーキ七個とジュース七杯は…かなり高くなりそう。ごめんなさい)

「ここがスイートピー…ですか」

「楽しそうなカフェだ!」





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