第34話 スイートピー②

「どうする、かあ。農協の仕事をやめようかと思っている」

「え⁉︎やめるんスか?」

「農協の仕事、やめた後は…他の仕事に就くんですか?」

ほまれがひっくり返りそうになった。(私が抑えた)

「力仕事や立ち仕事が多くて…、足が不自由な俺にはきついよ。俺が足不自由って言っても職場から何の配慮も無かったんだ。もう続きそうに無い」

「やっぱ無理してたんだね。俺みたいに見てすぐに分かる障害ばかりじゃないからなあ。周りも気づきにくいよね」

誉が同情している。私も萊斗らいとさんの足が不自由って全然気がつかなかった。

「農協やめた後は…何するの?」

萊斗さんは赤信号で車を止めて、考え出していた。

「福祉の仕事でもやろうかな。まだ考えてないや」

「だったらスイートピーで働くのは?城田しろたさん皿洗いとかレジ打ちしながら掃除とかできますか?」

「皿洗いならできるけど…」

誉は変なこと聞くなあ。レジ打ちしながら掃除とか…無理だよ。

「今じゃなくて、また今度考えるよ」

そうですね。じっくり考えて下さい。


望未のぞみさん。城田さんが農協やめるって本当?」

「うん。職場に足が不自由って言っても何の配慮も無かったから、だってさ」

「なるほど。障害のある人に対する配慮は…難しいよね」

学活の高原教室の振り返りなのに、隣の席の賢悟けんご君とこんな話をしている。振り返りの紙は真っ白だ。

「配慮かあ。例えば…ドアを押せなくて困っている人がいたら、代わりに押してあげる、とか?」

「だいたい合ってるよ。俺さ、誉を助けようとしすぎちゃって、全部代わりにやらないでって言われたことがあるんだ。どこまで助けるべきか、助ける側は考える必要があると思う」

分かるかも。相手の為にってやったことが、相手にとっては良くないことをされたってなること。

日常生活ではあるあるだね。

優太ゆうた君や喜多きたさんにしてもそうだよ。代わりにやりすぎるのは…良くないと俺は思う」

「私は…優太君達のおかげで、新しい世界の見方が分かった気がする。出会えて本当に良かった」

賢悟君もにこりと笑っている。

私はへファイトスの事件で分かったことがある。

差別や偏見は遠い国の話じゃないって。

賢悟君の大人が信じられない、というのもよく分かった。でも、一部の大人は信じることができるかもしれない。

そして高原教室の振り返りの紙に何も書いていないから、早く書こう。これ、廊下に貼るんだよね。多めに文章書いておこう。


ついにスイートピー二号店がオープンしたらしい。

前、変てこりんな戦いをしたあの三階建のコテージが…様々な人が泊まれるコテージに…。ん。カフェじゃないの?

「三階と二階で宿泊できて、一階は俺ん家のスイートピーみたいにカフェにするんだ」

「ほまさんすごいね。お客さん来るかな」

「俺が経営する訳じゃないからな」


一部改装されて、スイートピー②はきれいになった。

車椅子でも入りやすいようにスロープがついていて、手すりがあって、部屋と部屋の境目に段差は無い。

さらに、筆談ボードや、耳が不自由な人でも行きやすいように、明るい照明(耳が聞こえにくかったりする人が、暗い中相手を見て手話や筆談をするのは難しいからね。私も暗いのは嫌だ)とかを用意したらしい。かなり進化してるなぁ。

大庭おおばさん(もしくはレオパード)がスイートピー②で生配信をしたこともあってか、店内はぎゅうぎゅうで満員だ。

改めて大庭さんって人気あるんだな、と思う。

スイートピー(①)も混んでいて、誉のお母さんや三好みよしさんがいつも忙しそうにしている

「まさか城田さんがスイートピー②の店長になったなんて」

「本当にりっくりしたよ。農協やけちゃったって言うし」

「野菜が城田さんから来なくなっちゃうね」

かおりの日本語が変で、理解しにくいけど…。城田さんは無事に(たぶん)転職できたのだ。

スイートピー②の店長の城田さんはキャスター付きの椅子や杖を使いながら、元気に働いていた。







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