第33話 約束

「約束?」

「えっと…一緒に山登ったりしようって。ほまれが車椅子生活になってから…約束のこと、すっかり忘れてたんだ」

私は誉のことほぼ知らないから、誉が車椅子生活になる前のことなんて知らない。暴れ回ってたのかなぁ。

ああ!誉と同じ幼稚園に通ってたんだ。よし。えっと…。駄目だ、全然思い出せない。そもそも幼稚園の頃の記憶が少ない。

「どうする?六人で私達だけの高原教室…この後やる?」

かおりちゃん。よく覚えてたね」

「やらなくていいや。望未のぞみさんや誉達と一緒に行けたから。もう充分。でも…夏休みとかにやりたいな」

「いいね。夏休み中にやってみようよ」

賢悟けんご君が絶望から立ち直って良かったよ。切りかえが早いね。

私達は消えかかった火の前でわちゃわちゃしていた。


三日目は片付けとか掃除ばかり。あの香の大荷物が役に立った!

小屋の中で私は靴下をはいていた。ゴミ袋を取りに行こうとした時に、運悪く二日目の雨で濡れた床の一部をふんだ。

靴下はビショ濡れになって…予備の靴下の無い私は途方に暮れた。で…香が新品の予備の靴下を私に貸してくれたの!助かったー。

多少なりともトラブルはあったけれど、無事に二泊三日の高原教室は終わった。キャンプ場を出て、今はバスの中。

「やっぱり水たまりを踏むっていいよね〜」

「…。香、靴濡れたでしょ」

「濡れてないよ。だって長靴でやったもん」

その為に長靴を持って来たの?雨対策じゃなくて。賢悟君が呆れている。しかもその長靴は新品。

「香さんは本当に豪快だよね。俺とは全然違う」

「だな。色々と個性があって見てると楽しいよ」

「誉君。誉君はこの高原教室楽しかった?」

茉奈にたずねられた誉が答える。

「ああ。初めてばかりでとても楽しかったよ」

満足顔に誉の横の窓で、濡れたあじさいが輝いていた。


バスが学校に到着して解散になった。私は迎えに来てくれる大人がいないから…。歩いて帰ろうかな。

「望未は送りも迎えも無しか。乗ってけよ」

誉が後部座席の窓から顔を出した。前にいるのは…。

萊斗らいとさん⁉︎」

なんと城田しろたさんこと萊斗さんだった。

「誉君のお母さんが仕事で忙しいみたいだから、その代わりで」

いびつな四角形のライトに、白い車。これって。

「この車でへファイトスの脅迫状を届けたんですか?」

「正解だよ!よく分かったね」

いあ、これよく分かったも何も無いですよ。もういいや。

「途中まで私を乗せて下さい」

「いいよ。早く家に帰ろう」

この車は萊斗さんが買った物らしい。先月買ったばかりの新車、とか。

「城田さんは今後どうするの?」

誉が突然萊斗さんに質問した。萊斗さんはハンドルを握っている。









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