第32話 登山をしよう

「ここが頂上かな…」

ためさん。まだですよ。ここはほとんど山のふもとです」

かおりはやっぱり体力あるんだなあ。

「ここでのんびりしてる訳にもいかねえから、どんどん先に進もうぜ。ほら為さん、立って」

「は…い…」

頑張れ為さん。誉が…待ってるよ。たぶん。

その後も私達は三十分ぐらい歩き続けた。途中で先に頂上に着いて下りていく同じクラスの違う班の人達を五か六は見た。うう…。きついよ〜。

もう体力の限界の所でかおりが叫んだ。

「やったー!頂上に着いたよ!」

「本当に?」

「ちゃんと看板に書いてあったよ。[ここは頂上です]って」

「緑がたくさんあってさわやかだね」

「山の景色っていいな。俺、山なんて初めて登ったよ。登るまでも楽しいし、頂上に着い後も楽しいな」

「自然っていいよね」

賢悟けんご君も、誉も《ほまれ》も、茉奈まなもにこにこしている。為さんはただ一人でぐてえっとしていて、元気が無い。

「誉君に望未のぞみちゃん。おはよう」

興津おきつ先生!えっと…。俺のために頼んでくれたんですか?」

平然としている興津先生の後ろには喜多きたさんもいる。

「そうよ。だって誉君達があんなに楽しそうにしてるのに…区別されてるのって変じゃない?私、大学時代は福祉のこととか勉強してたけど、駄目ね。実際にやってみないと分からないもの!」

「千聞は一見にしかず、だね」

「香。千聞じゃなくて百聞だよ。一ケタ多い」

「…そうだった」

誉がこの変な会話を聞いて、いきなり笑い出した。けらけらけら。

「もう…変なこと言うなってば!」

私達がけらけら笑っている間にも、為さんはまだぐてえとしていて、たまたま近くにあった岩に座り込んでいた。

帰り道はスイスイ行けたよ。為さんが楽しそうにしてた。

ん?あれ?ちょっと待って…。

「誉。為さんとは…知り合いなの?私、会うの初めてなんだよ」

「そうか。望未達は初めてか。普段は為さんといること少ないもんなー。知らなくて当然だ」

香は為さんがかなり気になっている。

「どうしていつも為さんはいないの?」

「俺、普段は母さんか三好みよしさん助けてもらっているんだ。他にもスイートピーで働いてるバイトの人とか、白砂しらすなさんとか。母さんや三好さんが忙しくて俺を助けられなさそうな時や、こうやって親が行きにくい学校の行事とかはヘルパーの為さんが来てくれるんだ」

「へえー」

その割になぜヘルパーの為さんの方が誉より力尽きているんだ?

ぺちゃくちゃ喋りながら下山するのはスピードが遅かった。

私達は予定より三十分遅れて山のふもとの他の班と合流した。

為さんが、参加者の中で最も疲れきっていたような…。

「じゃあな〜。お三方。朝はバッと起きて集合してくれよ」

「香さん。俺が預かってる荷物は明日の朝渡すね」

「よろしく、賢悟さん♪」

という訳で班は解散。私と茉奈と香は宿泊する小屋へ向かった。


二日目は楽しくなかったというか…運が悪いというか…。

朝から大雨が降っていた。午前中はずっと小屋の中。朝ご飯は昨日の夜配られたコンビニのパンとペットボトルの水一本。

午後になってようやく雨はやんだ。

いよいよキャンプファイアーをやるんだ!やったー。楽しみ〜。

「電車ごっこはやりたくないな」誉がキャンプファイアーが始まる前にそう言った。

「どうして?」

「だって…車椅子じゃ前の人じょ肩触れないし、人が近くにいすぎると、タイヤが当たりやすくなるからだ」

「確かに。あ、喜多きたさんだ」

喜多さんはキャンプファイアー楽しみにしてるのかな。

結局、電車ごっこはやらなかった。先生が誉のことを配慮してくれたのだろうか。それにしてもキャンプファイアーの火はとても大きかった〜。香がビビってた。

「俺、キャンプファイアーなんてしたこと無かったから、全て新鮮に感じるぜ。山とか自然って、空気がきれいだな」

「やっぱ良かった。誉と行けて。約束も果たせたし」

賢悟君って誉と約束してたんだ。びっくり!










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