第31話 ファイアーキャンプ

高原教室まで残り二週間前となったある日。私と茉奈まなかおり賢悟けんご君は、昼休み木代きしろ先生に呼ばれて職員室の前にいた。

「きろきろ…もしかして私達を怒ろうとしてるのかな」

「香ちゃん。私達、特に悪いことしてないと思うよ」

「俺もそう思う。だって身に覚えが無いもん」

「しっ静かに。きろきろ来たよ」

変にまじめな顔をしている。普段はおちゃらけてばかりいるから、まじめな顔はほとんど見ないんだよなあ、きろきろ。

「わざわざ呼んだのにはちゃんと理由があるんだ」

「早く話して下さい。せっかくの昼休みが減ります」

「……」

香。木代先生を怒らせないで。眉がピクッと動いてたよ。

「高原教室についてなんだが…」

木代先生はそう言いながら、高原教室の班ごとのメンバーが書かれたプリントを私達に見せた。

賢悟君がとてつもなくびっくりしている。

ほまれと…班が一緒⁉︎」

「本当だ!」

「もっと早く言ってよ」

「先生は…、障がい者は障がい者同士でいる方がいいって言ってたのに…どうして…S組の人と私達を同じ班にしてくれたんですか?」

木代先生は確かにそう言っていた。もしかして…記憶に無い、とでも言うつもりなの?

香や賢悟君にじろじろ見られながら、木代先生は焦っている。

「そ…それは…S組の興津おきつ先生が…S組の生徒と通級(通常学級ー普通のクラス)の生徒達で、高原教室をやりたいって…言ってたからだよ。初めはそんな馬鹿な、と思って断った。でも…興津先生は諦めないで、七年生の学年主任や、校長先生、教頭先生にまで言ってた。十数回は頼んだらしくて…。校長先生が折れたんだよ。それで、一緒の班でもいい。S組と通級合同でやろうってことになって…」

茉奈がにやりと笑う。ちょっと気味悪い。

「あれ〜?興津先生に始めの方に頼まれて断れなくなって、学年主任や校長に頼みに行った、とかじゃないんですか?」

「そんなことある訳無いよ!」

怪しい。とってもあたふたしてるもん。じーっ。

「ほ…本当は、興津先生に頼まれて…十回ぐらい…。そんなに言うならそうしようって…なった」

「そうなんですね!」

からっと笑顔でいる香が怖い。怒ってるのかよく分からない。


木代先生からの報告が終わった後、私達はS組に向かった。

ちょうどタイミング良く誉が出て来る所に出くわした。

「誉!聞いてよ。大ニュースだよ!」

「え。手洗ってから聞くよ。ちっと待ってくれ」

賢悟君がとっても興奮している。今までの大人しい所はどこに行ったのか。どこかに行っちゃったか。

私がう〜んと考えている内に、誉は手を洗い終えたみたいで私達の方にやって来た。

「で、大ニュースとは?」

「誉。私達、同じ班で高原教室行けるんだって!」

「初めて学校の校外行事で一緒に泊まれるよ。やったー!」

「先生達が色々調整してくれたみたい」

「誉君や喜多きたさん達と一緒に行けるんだって。すごく楽しみ」

ほぼ四人で同時に喋った。誉はポカンとしている。

「…は?」

ごめん、誉。聞き取れないと思うよ。一気に話したら。私は皆が落ち着いたのを確認してから、声を出した。

「誉。高原教室で私達は同じ班になっていいんだって」

「へえー。そうなのか。望未や賢悟達と一緒なんて嬉しいよ」

誉は嬉しそうだった。S組と他のクラスは別行動だって言われた時、誉は嘆いてもいなかった。私は今、分かった気がする。

本当は別行動が嫌だったのかも。口には出していなかっただけで。

「ほまさん。良かったね。ずっと別行動嫌だって抵抗してたし。高原教室休もうかなーとも言ってたよね〜」

優太ゆうた君がバタバタと割り込んで来た。喜多さんが優太君の後ろで困った顔をしている。あ、誉も困った顔をしている。

「ゆ優太君。そのことは秘密にしてくれって言ったのに〜。恥ずかしいじゃん」

「恥ずかしくなんかないよ。自分の気持ちに正直になった方がいいよ。ずっとツンとしてないでさ」

「俺はツンとなんかしてねえよー!」

「優太!一旦落ち着いて。他のS組の人がうるさくて困っちゃうよ」

「はあい」

茉奈のナイスフォローによって謎の言い争いはあっさりと解決した。

それにしても誉が…。私達と一緒に行きたいって言ってたのか…。私達の前では一度も言わなかったのに。優太君の前では言ってたんだね。やっぱりツンツンしてる。

「高原教室ってファイヤーキャンプするのかな〜」

「香さん。ファイヤーキャンプじゃなくてキャンプファイアーって言うと思うよ。大きい火を囲んで踊ったりする奴…」

「そうだね。忘れてた!」

香と賢悟君はいいコンビになってるっぽい。


そしていよいよ待ちに待った高原教室。誉はヘルパーのためさんと一緒にやって来た。香は一ヶ月海外旅行するの?と言うぐらいの大荷物。反対に茉奈は日帰り旅行のような小荷物。

「賢悟君は茉奈と香の中間だね。多すぎず、少なすぎず」

「二泊三日だし。服ぐらいだよ。多くていいのは」

じゃあ香の大荷物の中身は…。気になる。

「香の荷物の中身は何だ?」

誉がホイっと聞いたら、香がしかめっ面をした。面白い。

「言うもんでもないでしょ。荷物の中身って。私はいいけど。服が六日分と、二リットルペットボトル三本と、靴下十二足で、靴は長靴といつもの靴と予備の三足で…それぐらいだよ」

「靴下十二足も使うか?」

誉が完全に呆れている。私も言うことが無い。二リットルのペットボトル三本もいらないでしょ。重くなっちゃうよ。

「望未の荷物は賢悟みたいに少なめだな」

「必要最低限の物を入れて来ただけだし。多くはならないよ」

「誉の荷物は…少し多くない?」

「多くなんかねえよ。賢悟、分からないのか?段差があった時に上りやすくする車椅子スロープとか、予備の車椅子とか入れてるんだから。多くなるに決まってるだろう」

「なるほど」

それでも誉の荷物より香荷物の方が多い。…多い。

「高原教室とことん楽しもうぜ!」

「「おー!」」

誉と高原教室に行けて本当に良かった。


一日目は山登りをした。誉のペースに合わせてゆっくり歩こうと思ったのに私達が疲れて誉と(為さん)がゆっくりと登ってくれる結果になった。

賢悟君は最近運動をほとんどしていないし、私は運動不得意で体力も無く、茉奈は私よりちょっと体力があるぐらいだから…仕方無いね。一方で香はスイスイ登っていた。(気がする)




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