第30話 高原教室

「名前、教えて」

「俺の…名前、教えるの?」

喜多きたさんがこくりとうなずいた。クロタさんはゆっくりはっきりと声を上げた。

「俺の名前は城田萊斗しろた らいと…。好きに呼んでくれよ。らいちゃんでもいといとでもいい」

いといとか…。変すぎるでしょ!おかしいってば。

「君の名前は?」

「……」

喜多さんはスケッチブックにマーカーで文字を書き込んだ。書き終わった後で萊斗さん(ここからは城田さん改め萊斗さん)や私達にスケッチブックを見せた。

喜多沙由李きた さゆり

とってもすてきな名前だ。茉奈まなが羨ましがってる。

「喜多さん。これからはさゆちゃんって呼んでいい?」

うなずく喜多さん。どうやら認められたみたいだ。

「城田さーん!皆も一緒に外で遊ぼうよ」

優太ゆうた君が香と外で手を振っている。私は三好みよしさんと興津おきつ先生をちらっと見た。二人はにこっとしたから、賛成したっぽい。

「ほら城田さん。立ってよ。またここから変わっていけばいいんだよ。未来は変えられる。優太君や香…七年C組の皆が外で待ってる。あ、ごめん。城田さんじゃなくて萊斗さんだったね」

誉が萊斗さんの目の前に手を差し出した。萊斗さんは一瞬ためらった。が、誉の手をがしっと握る。誉に片手で大人一人を支える力は無かったのか、萊斗さんは自力で立ち上がった。

「ありがとう。皆」

萊斗さんはとても嬉しそうだった。私も嬉しくなった。

「ここから、新しい道を歩いて行くよ」

そう言って萊斗さんはスイートピー②から出て、優太君や香が待つ外へ走りながら去った。

茉奈が私にこそっとつぶやいた。誉も勝手に加わった。

「これでへファイトス事件は解決かな」

「だね。情報量が多くて上手く整理できないよ」

「それは勉強もじゃないのか?望未のぞみ

「そんなこと無いし!」

「お…落ち着こう。私達も外に行こうよ。ほら賢悟けんごさんも!」

「え?俺も遊ぶの?」

「もちろん。七年C組皆で遊ぼうよ。あ、喜多さんも」

わちゃわちゃしながら三階から出て行く私達を三好みよしさんと興津おきつ先生がにこにこと見つめていた。


有元ありもとさん達五人組は興津先生が帰らせたとか。そういえば…まだ謎が残ってたね。

私はブランコに乗りながら砂場で遊んでいる誉に聞いた。

「どうして城田さんはスイートピー②に来たのかな?」

って。誉はあっさり知らんとぼやいた。

「城田さん本人に聞けば?」

…そうだね。城田さんは誉と優太君と砂場にいた。

「どうしてですか?城田さん」

「あの五人組の居場所をどうにかしてつきとめて、こっそりついて行ったから。駅前で物燃やすぐらいだから、大火事起こしてもおかしくは…ないじゃん。で、あのコテージに着いたら、君達を見つけた追いかけるの大変だったよ」

「追いかけっこ…みたいですね」

私がそう言うと、誉や城田さんはけらけらと笑った。


スイートピー②での変てこ騒動から数日が過ぎた。いつも通り家には私一人。やっぱり一人でいるのはさみしいからスイートピーに毎日通っている。

今日は誉と香と賢悟君が来ている。茉奈と優太君はお出掛け中。私は三人に今日言いたいことが…あって…。

「私、決めた。将来は困ってる人を助ける仕事をやりたいの。具体的にはよく分からないけれど、苦しんだり悲しい思いをしてる人達を助けたい。障害の有無も、国籍も関係無く」

私が言い終わると、三人は一瞬驚いた。一瞬だけだった。

誉が楽しそうに笑った。

「いいじゃん。その夢。…目標かな。いや、夢か。俺にも手伝わせてくれよ。俺は車椅子に乗ってて…助けられるだけじゃ嫌なんだ。助けることもしたい」

「私もやる!とっても楽しそう」

「俺も…望未さんの夢…叶えるの手伝いたい。悪い大人ばかりじゃないって教えてもらったから。その恩返しというか…」

「ありがとう」

皆といることが何よりも楽しい。私は誉や香達といたいんだってようやく気がついた。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る