第14話

数年後。


俺は不足してきた物資の買い出しのため、近くにあった町に出向いていた。


今の俺は、昔の稼業に戻り、冒険者としての生活をしている。


少し見慣れた建物のあたりを通りかかる。そういえば昔、このあたりで知り合いに頼まれて商業ギルドの仕事なんぞをしていたこともあったっけ……

なーんて思いながら。


だが現在、そこの建物は使用されていないようだった。


かつては見慣れた看板が薄汚れて傾いてかかっているが、直されずそのままだ。


そうか、そういえば、だいぶ前に、この商業ギルドにガサ入れが入って営業停止になった話を聞いたなあ。


上層部のみならず、職員もみな逮捕されたと。


ナジルはまだおり、逮捕されるときに棒きれを振り回したり、例のプレートをきらめかせて抵抗したが、すぐ捕まったらしい。


今の生活が忙しい上に楽しいため、自分にとってはナジルのことは昔の話となっていた。


そのため、彼について聞いた話は、そうなんだふーんと、聞き流してしまっていたが、


こうして元の場所に戻ってくると、以前のことを思い出すもんだ。


俺はふと、バトーとナジルの二人が、当時こちらのことを嘲って笑っている顔を思い浮かべた。


二人の懲役はそれぞれ何年くらいになるんだろうな。


ま、そんなに興味ないけど。


俺はそう思いながらも、手早く買い物をすませると、今の仲間達が待っている場所へ急ぎ向かったのだった。


実は、商業ギルドで勤める前、冒険者ギルドにあらわれたやたらに強い新人と言われていたのは、この俺なんだ。


そう、恥ずかしながら勇者の噂となった冒険者のモデルは、どうも自分らしい。


駆け出しの自分に良くしてくれていた商業ギルドの人間が、人不足でヒイヒイ言っていたため、

手伝いを申し出て、そこで働くようになっていたんだ。

少し商業ギルドの内情はどんなもんか、見てみたいという気もあったから。


まあ、世話になった本人が辞めてしまっていたので、もう無理に商業ギルドで働く義理もなかった。


給料も冒険者やるよりはるかに低いしな。


…ナジル、うまく頑張っていたら、俺達のパーティーと取引できるような仕事、


いわゆるビッグな仕事とやらが、できていたのかもしれないけどな。


俺は彼が大事そうに握りしめていたプレートを思い出した。


ナジルは、檻の中から、牢番や見回りの者相手にプレートを輝かせて眩しい思いをさせてしまったため、

勇者のプレートは取り上げられる羽目になったと聞く。


ナジル、出所するとき、あの勇者プレート返してもらえたらいいなあ。


彼の心の中で輝いているんだろうからなあ。


知らんけど。

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