第13話

ギルドから帰りながら、俺は昼飯時に聞いた先輩の話のヤバい部分を思い出していた。


先輩はこんなことを語ってくれたのだった。


「…ここの商業ギルドの今後の方針は、


可能な限り、帳簿や書面の誤りの指摘や整合性の確認を省く。


そういう方向へ進む方針らしいぞ。


一つには、その仕事をしなくなる分、人が少なくてすみ、人件費は安くなる。


今までも人を安月給で使い潰す方針だったが、こうするとさらに人件費を大幅に削ることができるからな。


もう一つは、これがメインの目的なんだが、


裏金のある金持ち連中からの仕事を得るため、

そういう方針にするらしい。


薄暗い商売をしている連中は、そもそも国からは目をつけられている。


そのため、商業ギルドのような外部の機関に、帳簿や書類を預け、監査をしてもらったという体裁を取るんだ。


なぜなら、国の方は、監査機関が入っているのならと、調査に出向く回数が減るからだ。


その間、連中は国に対し何かしらの隠蔽工作をする時間ができるという訳だ。


それでな、その客層のギルド側への要求だが…


帳簿や書類はギルドに預け形だけの監査は受けるが、妙な部分を見つけても指摘しないでくれ、ということらしいぞ。


追求されると困ることだらけだから、そう要求してくるんだろうな。


これは真っ当な商業ギルドなら、はなっから断る話だ。


国側にバレたら、監査する商業ギルド側は、ただではすまないからな。


ただ、ここの商業ギルドは、以前からその客層の仕事をやりたがっていた。


金払いがかなりいいらしいんだ。彼らはな。


そして、そういう追求してはいけない部分がある仕事を引き受けるためには、


数字の合わなさを指摘するスタッフは邪魔でしかない。


むしろ、全くものがわからない、変かどうか考える頭がないスタッフの方が都合がいい。


ここの商業ギルドの上層部は、そう考えるようになったらしい。


そして不当な監査をした件で国から咎めを受けた場合には、


上の連中は、書類をじかに扱っているスタッフ、つまりお前たちのせいだとして、自分らは責任逃れするつもりらしいんだ。


お前がずっと残っていたら、その時責任をとらされるのは、まず間違いないだろうな。


それから新しく入ったナジル。


ナジルは物事の良し悪しがよくわからないのをいいことに、切り捨て要員として雇われたんじゃないかなと思う。


全くとんでもないところだな。


まあ、ここの上の連中、いつまでも無事ではない。


バトー達のことを告発しようとしている動きもある。


もしそうなったらこの商業ギルドは営業停止、免許取り上げの上に、

関係していた職員もろとも逮捕と罰則金だ。


他の者への見せしめもあるから、


罰則金や拘束期間は重いものになると思うぞ。」


だから早く辞めておけ!そう彼は忠告してくれていたのだった。


バトー、俺が仕事の内容について、実はわかっておりませんとしらを切った途端、積極的に続けてこちらを雇おうとする顔になっていた。


ナジルと同様、俺を切り捨て要員として使えると思ったのかもしれない。


俺は引き継ぎせずにすぐ辞めたかったから、


実は何もわからないから何もできないですということにしたつもりだったんだが…


そもそもナジルに引継ぐことは無理だしな。


ナジルに完全に引継ぎが終わってから辞めろと言われる場合を想像し、俺は背筋が寒くなった。


…まあ、あまり引き留められず、すぐに辞めることができたのは助かった。


帳簿や資料を今後見ないようにするという話は、先輩から聞いた時点では信じられない気持ちが残っていたのだが、


バトーの言動を実際に目の当たりにすると、間違いなかったようだ。


ナジル…残していくことになったが、あいつは俺の言うことなんか聞く耳持たないから、仕方ないな。


…話しても、内容を理解しなさそうだしな。


逆に、レイオ先輩が俺の出世を邪魔してくる!と怒り狂うかもしれないな…


物差しを振り回しながら。


ため息をつきながら、俺は帰り道を急いだ。 

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