第6話 スカートをめくらせてくれる先輩

 狭い文芸部室。

 目の前で日陰さんがもじもじしている。

 

「ああ……あうううぅぅ……!」

 

 下腹部を抑えて熱い吐息。僕はこの動作を知っていた。むしろ毎日見てる。これは先輩がパンツ見せたい病(ひどい名前だ)にかかった時と同じ仕草だ……! なんで日陰さんまでが!?

 ぶるるー、ぶるる。

 スマホから先輩のメッセージが届く。

 

『日陰ちゃんへの波及は、文字を消しゴムで消したせいと推測されるわ』

『日野江先輩、の日野江の部分が薄くなってた。だから先輩全般ね。ただ、こちらでも他の二年生をチェックしたんだけど、影響はないわ。おそらく文芸部室内だけが範囲なのね』

『とにかく実験は成功よ』

 

 成功してどーすんだ!!

 結局問題はなにも解決していない。

 

『パンツ見てあげなさい』

 

 やっぱりそれしかないのか……!?

 

「あう、どうしよう草場くん、わたし、わたし……ヘンなの……!」

「だだだ大丈夫です日陰さん! 落ち着いてください!」

「落ち着かないの。お、お腹が……カリカリして……喉がカラカラみたいで乾いてて。どうしよう。どうしよう。わたし、どうしちゃったの。わたし、このまま死んじゃうの?」

「くっ……!」

 

 こんなに辛そうな日陰さんは見ていられない。

 とにかく早く解決しないと!!

 

「せ、先輩! 僕、解決方法を知ってます!」

「えっ!? どどど、どうすれば……」

「ぼぼぼ、僕にパンツを見せれば、お腹の辛さはなくなりますよ!」

 

 日陰さんはぽかーんと口を開けて止まった。

 いかん。呆れられてる! そりゃそうだ!

 と思ったら。

 

「そ……そうだったんだね! なるほど! パンツを!」

 

 納得したーーー!?(ガビーン)

 

「うん。一瞬何バカなこと言ってんだ、しばくぞこのセクハラこーはい、とか思ったけど……なぜか腑に落ちる……うん、パンツだね。パンツ。パンツですべて解決する。なんだかそういう気分になっちゃったの」

「なっちゃいましたかー!」

 

 効果が強引すぎるなあの魔法のノート!

 

「じゃ、じゃ、じゃあ、見せるね……っ!」

 

 日陰さんは見えやすいようにか椅子の上に経って、スカートの裾に震える手をぐっとかける。ぶるぶるぶる。頬が赤面し、手どころか太ももも腕も腰も全身が震え始めている。

 

「ああ……あああぁぁぁ……っ!」

 

 恥ずかしいのだろうか。

 と、目をぎゅうっと瞑って。

 

「や、やっぱりむり……無理だよ、男の子にパンツ見せるとか……!」

「ぐっ」

 

 そりゃそうだ。普通はそうだ。

 恥ずかしがりつつ普通に見せる先輩がおかしいのだ。

 

「手が……て、手が動かないよう……草場くぅん……っ!」

「だ、大丈夫です、もうちょっとですから、ほら!」

「がんばってる、がんばってるけど……!」

「もっとがんばって」

 

 なんでスカートたくしあげを応援してるんですか僕!!

 

「そうだ……く、く、草場くん」

 

 上目遣いでじーっと僕を見つめる日陰さん。

 そして。

 

「あの……お願いが……っ」

「はい!」

「草場くんが……め、め、めくって……?」

 

 ちゅどーん(理性が爆発する古典的な音)。

 

「僕に日陰さんのスカートをめくれと!? スカートめくりしろと!?」

「お願い……もう時間がないの、限界……パンツ爆発しちゃう!」

「爆発するんですか!?」

「する、絶対する!」

 

 あのノートの適当さだと本当に爆発しそうで怖い。

 や、やるしかないのか……!

 僕はハァハァと荒い息をつきながら日陰さんのスカートに手を伸ばした。端から見たらただの変態だ。だがやるしかない。そっとスカートをつまむ。ざらっとした布の感触。小学生以来はじめて触ったキルト。

 薄い。

 こんな薄いもので女の子の秘密は守られているのか。

 

「おねがい……はやく……っ!」

「うっ……は、はい……!」

 

 ぺらん。

 あっけなくその薄い布はめくられた。

 見えたのは――ブルー。

 何か、ヒラヒラしている。フリルだ。フリルが端っこ全部についていて誘惑するように揺れている。そのブルーの布は、じっとりと、全体が湿っている。むわっと、匂いが届くかのようだ。

 甘くてすっぱい。

 そんな匂いが漂ってくる。

 

「んあぁ……! 草場くん、見てる……ちゃんと見てる……?」

「は、は、はい……見てます、見る以外もしちゃってます……!」

「はうううぅぅぅぅ」

 

 気のせいじゃなくて……ほんとに日陰さんの体液の匂いだ。

 ああああ……。

 僕、スカートめくって、匂いかいじゃってる……!

 すごい……女の子のにおい、すごい……。

 

「はふうぅぅうぅぅうぅう……ん……っ!」

 

 たっぷり三十秒後。

 先輩の手が僕の手に添えられ、スカートが下ろされた。はあはあ、はあはあと二人の息が文芸部室に響く。僕はシャツからズボンまで汗塗れ。先輩も同じだろう。

 まるで事後だ。

 いやある意味ではそのとおりだけど!

 

「あの……草場くん」

「はい」

「あのね、あのね」

 

 日陰さんは椅子に座り、股のあたりを手で守りながら。

 涙目で僕に問いかけてきたのだ。

 

「わたし、どうしちゃったのかな……病気なのかな?」

「うっ」

「どうしよう、これからパンツ見せ女として毎日過ごすのかなぁ……」

 

 これはもう――隠すわけにはいかない。必然的に先輩とのことも話すことになるが、やむをえまい。むしろ自業自得という気がする。よし。魔法のノートのことをきちんと説明しよう。

 

「日陰さん。これは願いが叶う魔法のノートのせいです」

 

 日陰さんはぱちくりとまばたきをした。

 

「……草場くん」

「はい」

 

 腕組みをして。

 

「流石にわたしをバカにし過ぎじゃないかな?」

 

 なんでこっちは信じないんですか!!

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Hな願いが叶う魔法のノートについて、部活の黒髪清楚な先輩が興味津々で実験台になろうとしている件 ZAP @zap-88

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