第174話 秘密の建物とラミア女子

 衆目の集まる中、建材にお尻を擦り付けるという醜態をさらしたフォンベルト連邦貴族議員。


 痒みが収まるやいなや馬に飛び乗ると、兵士たちを引き連れてソープランドの建設現場から去っていきました。


 ドワーフや他の作業員たちは、とりあえずこれで騒動が落ち着いたと安堵のため息を漏らします。


「あれだけ恥を掻けば、二度とここへはこないでござろう」


「アハハ、確かに! 恥だけじゃなくケツも搔いてましたがね!」


 ドワーフ作業員の言葉に、周囲にドット笑いがおきました。


「それじゃ、我輩は戻るでござるよ。お仕事がんばってくだされ」


 現場に明るい空気が戻ってきたことを感じて、キモヲタはドワーフの作業員に軽く手を振って立ち去ります。


 これで完全に騒動に区切りがついたとばかりに、全員がそれぞれの仕事へと戻っていったのでした。


 このとき、誰もがホッとしていたため誰も気づきませんでした。


 この場から離れていくキモヲタが、ニチャリとした満面の笑みを浮かべていたことに……。


 その笑顔の理由―


 現場から離れていく作業員がボソッとつぶやいた言葉を耳にしたからでした。


「ふぅ。危うくラミアの姉ちゃんたちを起こしちまうところだったぜ」


 たったこの一言からからすべてを察したキモヲタなのでした。




~ 潜入 ~


 この区画が自分へのサプライズであることは、キモヲタは計画当初から察していました。


 シスター・エヴァが隠そうとしても、図面に自分の預かりしらない区画がある時点で怪しかったですし、そもそもキーラに相談を持ち掛けていたのがシスターの誤算だったのです。


 もちろんキーラは秘密を口にすることはなかったのですが、その言動の端々や尻尾の状態を見れば、キモヲタには言葉で語られるより分かりやすかったのでした。


 とはいえ、それでもまだキーラが何かを必死に隠しているらしいことに、キモヲタは気づいていました。


「デュフフ。なるほどキーラタソが必死で隠そうとしていた秘密。それはラミアのことだったのでござるな。デュフフ」


 ラミアと聞いて、前世のアニメや漫画のイメージを脳裡に浮かべるキモヲタ。


「じゅる……い、いかん思わず涎が出てしまったでござる。キーラタソが必死になって我輩からラミアのことを隠そうとしていた事実。デュフフ。これはつまり、あの建物の中にいるラミア女子たちが、ものごっついエロいということが確定なのでござるよ。フォカヌポー」


 あっさりと正解に辿り着いたキモヲタ。天幕に戻る頃には、キモヲタポーカーフェイスを顔に装着して、何事もなかったかのように振る舞うのでした。


「おかえり、キモヲタ! 騒ぎの方はどうだった? 怪我とかしてない?」


 駆け寄ってきたキーラにキモヲタは、


「バカ貴族が騒いでおりましたが、こっそり【お尻痒くな~る】を使ってお引き取りいただいたでござる」


 と、爽やかなニチャリとした笑顔で答えるのでした。


 キーラといえば、その貴族と揉めて腰を抜かしてしまったシスター・エヴァの看護についていました。


 トラブルを起こしている貴族のところへ、ひとりで向ったキモヲタが、なかなか帰ってこないので心配になっていたところでした。


「アハハ、そうなんだ!」


【お尻痒くな~る】と聞いて大体の事情を察しキーラ。安心するあまり、普段なら気がついたであろう、キモヲタの妙にソワソワした動きや、不自然な顔のこわばりに気づくことができませんでした。


 ソフィアやエルミアナやエレナは、キモヲタの挙動に小さな違和感を感じてはいたものの、貴族とのトラブル対応で緊張していたのだろうと、特に気にすることはなかったのでした。



~ その日の夜 ~


 昼間活動していた人たちのほとんどが眠りについた深夜のソープランド建設現場。


 その一画に設置されている天幕から黒い人影が、こそこそと這い出てきました。


 でっぷりとしたシルエットにも関わらず、その黒い影はササッ、サササッと素早い動きで、他の天幕の間をカサカサと移動していきます。


 深夜でも作業が続いている現場ではありますが、昼間と違って魔鉱灯やかがり火の光が当たらないところは真っ暗です。


 そうした暗い部分を縫うようにして、誰にも見つかることなく移動し続けていた黒い影。

 

 頭からタオルを巻いて鼻先で結ぶ盗人かむり状態のキモヲタが到着したのは、昼間に貴族がもめ事を起こしていた場所。


 シスター・エヴァがキモヲタのために内密に用意していたキモヲタ邸の建設現場でした。


 ササッ! ササッ!


 キモヲタは、連邦貴族議員が昼間にお尻を擦り付けていた建材の影に身を潜めて、そこからそっと顔を出して現場の様子を覗き込みます。


(ふぉおおおおおおおお!)


 そこにはキモヲタの想像していた通りの、いえ、それ以上の楽園が広がっていたのでした。


 すなわち、バルンバルンな6人のラミアが、たわわな胸をバルンバルンさせて建物の建設作業に取り組んでいたのでした。


 バルンバルンと胸を揺らしながら紫髪青眼、黒い蛇体のFカップラミアが話します。


「ミケーネ! この柱、もう少し角度を変えた方がいいんじゃない?」


 バルンバルンと金髪碧眼青体、Dカップのラミアが答えます。


「 いい考えだと思うけど、設計図ではこの角度になっているのよ。もう少し強度を確かめてから調整することにしましょう」

 

 青髪金眼青体、Dカップのラミアがバルンバルンしながら口を挟んできました。


「あー、設計図とか堅苦しいのって、つまんないよ。エレノーラの言う通り、角度変えた方がいいと思うけどなぁ。ミケーネは堅苦しく考えすぎ」


 そんなラミア女子たちの会話を盗み見聞きしていたキモヲタ。


(ふぉおおおおおおおお! これぞ異世界! いま我輩はようやく異世界に来たという感動を得ることができたでござる! デュフコポー!)


 鼻息をたいそう荒くして興奮していたのでした。


 その背後から音もなく近づいてくる二つの影に気づくことなく――


 鼻息をたいそう荒くして興奮していたのでした。

 



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