第130話 土木女子ラミアーズ
今日も私は、リーコス村の開拓状況を視察するために松川先任伍長のところへ電動オフロードバイクを飛ばしていた。松川さんの現場へ出向くのはあくまで職務上の視察のためで、決してラミア女子たちにちやほやされに行くわけではない。
今日も私の護衛として、ヴィルミカーラが多脚型ドローン・アラクネで電動バイクの後ろを追走している。
「か、艦長は、ら、ラミアに、会いたいだ、けじゃないの?」
などとヴィルミカーラが口にしていたが、そのようなことは勿論ございません!
確かにラミア女子たちが大好物のリーコス村特性モノノフ風バーガーを、アラクネに積んでもらってはいる。が、これはあくまで皆の昼食を移送しているのである。
これを持って行くだけでラミア女子たちからモテモテになってしまうけどな!
ぐふふ。
にやけ顔のまま現場に入った私は、電動オフロードバイクを停止させてから声を張り上げる。
「松川さー-ん! 昼飯持ってきたぞー!」
そう言って手を振る私に松川先任伍長が頷き返す。彼が警笛を吹いて昼休憩の指示を出すと、皆が作業の手を止め、指揮所と食堂を兼ねたテントにワラワラと集まってきた。
テント内ではヴィルミカーラが段ボールを開いて、一人ひとりにハンバーガーセットを手渡していた。
希望に合わせて一人2セットまで受け取ることが可能だ。セットを受け取った者は、適当なテーブルに腰かけて昼食を取り始める。
テントの奥の方には、蛇体部分が長くて大きなラミア女子たちのために広めのスペースが確保されていた。
私は自分の分と土木女子(ラミア族)たちのハンバーガーセットを持って、よろよろと彼女たちのテーブルへ運ぶ。
「「「わー-い! モノノフ風バーガーだ! 嬉しい!」」」
喜ぶ彼女たちの間に、しれっと私は腰かけた。
「「「艦長ちゃん、ありがとー!」」」
「どういたしまして! にひひ」
ハンバーガーセットを配り終わったヴィルミカーラと松川先任伍長が、私たちのテーブルに来る。
「こ、これ、あ、余った分……」
セットとは別に用意しているハンバーガーは誰でも好きなだけ取って良いことにしている。みんな何個が持っていくのだが、それでも十分余るだけの量を持って来ている。
ヴィルミカーラはその余ったハンバーガーをラミア女子たちの前に山積みにした。
「「「わー--い! こんなに一杯ウレシー!」」」
ドドーン!とでもテロップが入りそうなハンバーガーの山を前にしたラミア女子が歓喜の声を上げる。
そう……
ラミア族というのは揃いも揃って大食漢なのである。
狩猟と採集で生活しているラミア二人以上が同じ場所で暮らしていると、その地域の生態系が変ってしまうと言われているほどだ。
とはいえ喰い溜めができるようで、食事が一定量を超えるとしばらく食べなくて済むようになる。これが数か月も続くこともあり、その間に生態系の回復が行なわれるのだが、同じ地域に二人以上のラミアがいる場合はその機会が失われてしまうのだ。
そうしたこともあって、通常ラミアは群れを作らず、縄張り内に単独で暮らしていることが多い。なので、6人ものラミアが集まっているこの状況は非常に珍しかったりする。
目の前でハンバーガーをパクパク食べ続けるもえなず女子たちにそのことを尋ねると、
「そうなんだよ! 私たちラミアが6人も一緒にいるなんて、普通はありえないんだから!」
「それもみんなルカ様とタヌァカ様のおかげなの!」
「だねー! 二人のおかげで、私たちも食べ物に困らなくなってー、それでみんなグレイベア村に住むことにしたんだー」
ラミア女子たちは目を輝かせてルカとシンイチのことを称えていた。
確かにグレイベア村には広大な畑や果樹園、そして牧場があり、そこで様々な作物や家畜を育てていた。
さらに村の東の山にはトンネルが掘られ、そこから海岸に通じる長いトロッコ線路が敷かれている。これがあるおかげで、人魚たちとの交易が可能となり、グレイベア村では毎日新鮮な魚介類が食べられるようになっていた。
グレイベア村の豊かさと発展度合いを考えれば、ラミア族を養っていくのは難しくないだろう。
それにしてもシンイチ……
いくら凄いスキルを与えられたとはいえ、たった一人で異世界に飛ばされて、右も左もわからない中を生き抜き、そして今のグレイベア村を作り上げたのか。
「シンイチって凄いな」
ボソッとつぶやいた私の一言にラミア女子たちが一斉に喰いついてきた。
「そうなの! タヌァカ様は本当に凄いのよ!」
「わたし、あの気難しかったレッドドラゴンに見初められて、挙句の果てに夫になったのが一番驚きだったわ!」
「本当にすごいのはライラ様よ! わたし人間と殴り合いで負けるなんて初めてだったもの! あんなに強いライラ様が慕ってるんだから、当然タヌァカ様は素晴らしい人なの!」
矢継ぎ早にシンイチを称える声が上がる。そんな中、6人の中で一番大人しくしていた青髪碧眼のラミアがボソッと、
「はぁ……わたしもライラ様とタヌァカ様みたいにお互い愛し合えるツガイが欲しい……」
と、うっとりした顔でつぶやいた瞬間、
「「「!」」」(ハッと息を呑むラミア女子たち)
「「「!」」」(ピキッと固まる
テント内が一瞬にして静かになる。
そして3秒後、
「「「だよねー! わたしもツガイが欲しー!」」」(ラミア女子たち)
「「「ガタッ」」」(腰を浮かべる
いやいや待て待て! 特にうちの
現在のフワデラやリーコス村を覆っている恋愛ピンク高気圧の影響については、私も十分に理解している。
だが、目当ての土木女子たちはこちらの世界の住民だぞ?
もし運よく恋愛成就したとしても、我々が帝国へ帰還するときどうするつもりだ?
それに種族的な偏見は一切ないと断言しておくが、それにしても相手はラミア族だぞ?
たとえ一緒に帝国に帰れたとしても、帝国に彼女らの同胞はいないんだぞ。
いや、もしかしたらどこかにいるのかもしれないが、それでも希少な存在になることは間違いない。そんな世界でラミア女子と平穏な生活が送れるのか?
そんな私の心配をよそに、私の聞き耳スキル(自前)は
「今から告白してくる! あの赤い髪の子に!」
「それは僕の妻になる予定の女性です。余計なことはしないでください」
「ソーシャさんは俺の嫁!」
「ソーシャさんってどの娘だっけ?」
「青い髪の……って、ソーシャさんは自分にとても優しくしてくれるであります。きっと自分たちは結ばれる運命にあるはずです!」
「優しくしてくれるって、何してもらったのさ!」
「転んだときに起こしてもらったであります! もう相思相愛であります」
「アホか! それならオレなんて、取り過ぎて余ったピザボックスを渡したとき、天使の微笑を貰ったわ!」
「マジか!?」
……いや。
……マジかお前ら。
頼むから、恋愛絡みで揉め事なんぞ起こしてくれるなよ。
艦長の胃がキリキリッと音を立てた。
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