第152話 ラミア美人三姉妹

 ラミア族のソーシャさんは、ショゴタンに多くの仲間が殺されてしまったことを、自分の責任であると感じているようだった。


 嗚咽が大きくなって、ついにはソーシャさんは子供のように泣きじゃくり始めた。

 

「うっ、うっ、ひぐっ。わ、わたしの……わたしのせいで……ごめん。ごめんね。みんなごめんね……ごめんなざいぃぃぃい」


 ソーシャさんの泣き声につられて、周囲の魔族たちからも泣き声が上がって来る。


 泣きじゃくるソーシャさんを、一番背の低い紫髪のエレノーラさんが優しく抱き締めてあやす。


 話ができなくなったソーシャさんの代わりに、もう一人のラミア、赤髪赤眼のノルフィンが、その後の経緯について説明してくれた。


 森に逃げ込んだ魔族たちは、逃げ遅れた仲間たちがショゴタンに取り込まれていく様子をなすすべもなく見守ることしかできなかった。


 だがこのまま傍観しているだけでは、次に危うくなるのは自分たちだということもわかっていた。


 だが逃亡の旅で疲れ切っていた魔族たちには、ショゴタンと戦うことはもちろん、ショゴタンに捕まった仲間を救出する力も残ってはいない。


 そのとき、地鳴りが聞こえて来た。


 ドシンドシン、ドシンドシン、ドシンドシン!


 大きな音がどんどん自分たちのいる場所に近づいてくる。


 ドシンドシン、ドシンドシン、ドシンドシン!


 それは巨大なグレイベアだった。


 こんなときにやっかいな魔物が現れたと思った魔族たちは、その心が完全に折れてしまった。

 

 自分たちはもうここで死ぬのだと。


 誰もが覚悟した。


 だがグレイベアは、ソーシャたちが潜んでいる場所で止まることなく、そのままショゴタンの方へと走り抜けた。


「その直後、まばゆい光と共にショゴタンが二体とも消失してしまいました。あれはドラゴン様のお力なのでしょうか?」


 ノルフィンさんの赤い瞳が、ルカに向けられる。


「いや、わらわではない。そこにおるシンイチがやったことじゃ」


「あなたが……」


 ノルフィンさんが俺の方を見る。燃えるような赤い瞳が、俺の顔をじっと見つめている。


「あなたは人間……だよね? どうやったらあんな恐ろしい魔物を倒すなんてことができるの?」


 ノルフィンさんの質問に、俺が答えようとすると、ルカが割り込んできた。


「なにシンイチにとっては簡単じゃ! ショゴタンだろうと、グレイベアだろうと、ドラゴンだろうと、シンイチの前では幼な子同然よ! なにせ……」


 ここでルカが一瞬言葉を止める。


 全員の視線がルカに集中した。


「シンイチはわらわの夫、ドラゴンの婿じゃからな!」


「婿!?」とノルフィンさん(赤髪赤眼赤体。Dカップ)

「ほへ!? 夫!? 」とエレノーラさん(紫髪青眼黒体。Fカップ)

「ドラゴンの婿?」とソーシャさん(青髪緑眼濃紺体。Cカップ)


「「「「「「「ドラゴンの婿ぉぉぉおお!?」」」」」」」


 ルカの言葉を聞いたた魔族全員が驚愕した。


 なんかデジャヴを感じるなぁ。


 ソーシャさんがアワアワしながら、俺とルカの交互に指差す。


「どどどドラゴン様?」


「そうじゃ」


「どどどドラゴン様の夫さま?」


「一応、そういうことになってます。ハイ」


 このやり取りが3セット繰り返された。


(ココロ:田中様、買い物が終わりました)

(シリル:間もなく商品が到着します)


(おっ、ありがとうココロチン、シリるっち。助かったよ)


 二人に御礼を言い終えたタイミングで、目の前に黒い空間が現れた。


 黒い空間から神ネコ配送の佐藤さんが上半身を乗り出して、俺の方に大きなビニール袋を差し出す。俺は商品が詰まったビニール袋を受け取っては地面に置いて行く。


 ドサッ。ドサッ。ドサッ。


 ドサッ。ドサッ。ドサッ。


 佐藤さんの姿は俺にしか見えないので、ここで声を出すと独り言を言っている危ない人になってしまう。なので俺は黙って商品が詰められた全てのビニール袋を受け取った後、音を出さずに口の形だけで「ありがとう」と言ってみた。


 佐藤さんも心得たもので、俺と同じように「毎度ありっす」と口の形だけで返事をして、そのまま黒い空間へと消えていった。


「「「ほわっ!?」」」


 俺の両手に突然現れたビニール袋の山を見て、三人のラミアが驚きの声を上げる。


 ソーシャさんが、俺を見て何かを納得したかのように頷く。


「な、なるほど、ドラゴンの婿さまは偉大な魔法使いだったのですね」


 ノルフィンさんが、赤い瞳を輝かせながら俺を見る。


「そ、そりゃ魔法使いなら、大きな魔物でも簡単にやっつけられるわね」


 一番背が低いが一番乳が大きなエレノーラさんも、


「さすがはドラゴン様の婿さまです。エレノーラはその強さに敬意を捧げるのです」


 どうやら俺がドラゴンの婿であることを納得してくれたようだった。


「とりあえず、みんな疲れているようだし、お腹も空いているだろうから……」

 

 そう言って俺は、ゴブリンとハーピーの子供たちに目を向けて手招きする。


 子供たちは戸惑いながらも、おずおずと俺の方へと近づいてきた。


 俺はビニール袋の中から、スポーツドリンクを取り出し、キャップを外してから子供たちに手渡した。一緒にカロリンメイドも中身を取り出して、子供たちに手渡した。


 子供たちが恐る恐るスポーツドリンクを舐める。


「「「!!」」」


 子供たちの目が大きく開かれ、次の瞬間にはゴクゴクと喉を鳴らしてスポーツドリンクを飲み始める。カロリンメイドの方は、味見もすることなくかぶりついた。


 美味しそうの顔をしている子供たちの頭を、俺はひとり一人撫でていった。


 ゴクリ。


 大人の魔物たちから喉が鳴る音が聞こえた。


 大人には少し待ったを掛け、まずスポーツドリンクとカロリンメイドの開封方法を説明する。


 彼らがどれくらい食事を取っていないのか分からないけれど、多少なりとも飢えているの確かだ。俺の説明なんて無視して殺到してきてもおかしくない。


 だが彼らは、俺が説明を終えるまで辛抱強く待った。人間より倫理観が高いのではないかと思うほどだ。


 後でルカにその話をしたら、それはドラゴンを恐れているだけのことだと言われたが、とにかく最初の食糧配布は滞りなく終わった。


 みんながカロリンメイドにかぶりついている間に、ルカとグレイちゃんにも手伝ってもらって、おにぎりやサンドイッチを次々と開封していく。


 ビニール袋の中に綺麗なタオルが入っていたので、富士の天然水2リットルのペットボトルと一緒にラミアの三人に渡す。


「「「ありがとうございます!」」」


 三人のラミアは礼を言った後、魔族の女性たちを集めて、森の木陰に消えていった。


「はぁ……ふかふか!」

「子供の羽みたい」

「気持ちいいぃ!」

「この水、凄くおいしい!」

「身体を拭くのに使うのもったいなくない!?」


 森から、女性たちのはしゃぐ声が聞こえる。


 しばらくすると、女性陣がサッパリした表情で戻って来た。


 やはり!


 俺は自分の推理が的中したことを嬉しく思った。


 やはり、このラミア三人娘は……


 エロい!


 ……じゃなかった! 美人!


 そう! 美人!

 

 とてつもない美人三姉妹だった!

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