第153話 盗撮は犯罪です

 お腹が膨れ、軽く身体の汚れを拭ったことで、とりあえず魔族たちは落ち着いたようだった。


 先ほどからラミアの美人三姉妹が、ルカと何やら話し込んでいる。


 俺はゴブリンとハーハピー族の子供に、ネルネルスライムいちご味の作り方を実演して説明しながら、ラミアたちの様子を何となく伺っていた。


 うん。嘘である。


 ラミアたちのボロボロになった服からチラチラと見え隠れする生乳を、チラッチラッと見ていた。


(索敵マップ!詳細情報!)

(青髪緑眼、濃紺蛇体のソーシャさん……Cカップ!)

(赤髪赤眼、赤い蛇体のノルフィンさん……Dカップ!)

(紫髪青眼、黒い蛇体のエレノーラさん……Fカップ!)


(ココロ:ちょっと! 勝手に適当な脳内情報を追加するの止めて貰っていいですか?)

(シリル:フェイク情報ダメ絶対!)


(えっ!? 俺の目測間違ってる? そう思うなら確認してみてよ)


(ココロ:わかりましたよ! まったくもう……って)


(シリル:全部合ってる……)


(おっしゃぁ! やっぱりCDF三姉妹だったぜ!)


(ココロ:ぐぬぬ……ほんと、しょうもないスキルばかり身に着けて……)


(シリル:ココロ、あれはスキルではありません。ただの変態の妄想です)


(ココロ:わかってるわ。でもほんとしょーもない!)


(くくく、ココロチンとシリるっちのも、俺には何となくわかるぞ)

(ココロ:!?)

(シリル:!?)


 一瞬、脳内にザップ音が響いたような気がした。


(ココロ:とうとう……とうとう……とうとう支援精霊にまでセクハラですよ。この変態DT!)


(シリル:まさか私たちにまでその変態性欲を向けてくるなんて! さすが変態DTです!)


(ちょっと、ちょっと、ちょっとぉ! 確かに俺は変態だけど、DTじゃないからね!)


(ココロ:開き直りやがった!)


(シリル:ココロ、ちょっと支援精霊としてはマズイ言葉遣いになってますよ)


(まぁまぁ、ずっとお世話になってる二人は、俺にとって大切な仲間だよ。そんな二人に対して、俺がエッチな目を向けるわけないでしょ。そもそも二人とも見えないんだしさ)


(ココロ:そ、それは……そうかもしれませんが……)


(シリル:神ネコ配送の佐藤様から聞いた話ですが、以前、ココロの隠し撮り写真を佐藤様にご依頼なさったとか?)


(あっ!)


(ココロ:あっ? えっ!? えぇぇぇぇ!?)


(ちっ! 佐藤さん、話しちゃったか)


(ココロ:わ、わわわわわわ、私の写真、私の写真で何を何するつもりだったんですかぁぁぁ!)


(ほわっ! いや、いやいや! 変な意味じゃないよ! そのどんな見た目なのかなぁって気になったから! ちょっと見て見たかっただけだから!)

 

(シリル:そうですね。盗撮は犯罪です)


(た、確かにそれはそうなんだけど! ほんとちょっと気になっただけなんだ! だって佐藤さんがココロチンがジャージ姿で買い物に来てたっていうから、なんか思ってたイメージと凄いギャップがあってそれで、それで気になって……)


(ココロ:ジャージ!? ぐぬぬぬぬぬ、佐藤……個人情報漏洩許すマジ!)


(シリル:取り敢えず田中様は有罪ということでよろしかったでしょうか?)

(未遂! 未遂までも言ってない未遂の未遂だから! セーフ! ギリセーフ!)


(ココロ:わかりました。話は処刑台で聞きましょう)

(法廷にも立たせてくれないの!?)


(シリル:処刑台は冗談ですよ。ただライラさんにすべて報告させていただきます。あることないこと盛りに盛って報告します。冤罪の恐ろしさを身をもって体験していただきますね)


(ひっ!? い、いやでも、ライラに二人の姿は見えないし声も聞こえないんだから、伝える方法なんてないよね!?)


(ココロ:くっ! やはりそこに気付くか!)


(シリル:確かにそうですね。ですから、伝え方もえげつないものになると思います。例えば、ネットスーパーの注文商品の中に匿名の手紙が入ってるとか。または次に現れる勇者さまにお願いして、その方からライラさんに直接お話していただくとか)


 ドサァァァァァ!


「大変、申し訳ございませんでしたぁぁぁぁ!」


 突然、額を地面に押し付けて土下座したまま、数メートル土下座ダッシュを決めた俺を見て、ルカや魔族たちの視線が一斉に俺に集まった。


「「「な、何事ですか!?」」」※ラミア三姉妹

「「「!?」」」※その他の魔族

「「「わぁー! シンイチ凄い! もう一回やってぇ!」」」※子供たち

「「ジィィィィィ」」※ルカとグレイちゃん


「ドラゴンの婿さま、大丈夫ですか!?」


 土下座したまま動かない俺のもとに、ソフィーさんがススッと寄ってきて、助け起こしてくれた。


「あ、あぁ、大丈夫、大丈夫ですから」


「おおお、お顔が血で真っ赤になってますよぉぉ!?」


 額のすり傷は大きかったようで、結構な血が額から流れていた。


「「ジィィィィィ」」


 だが俺は額の痛みよりも、ルカとグレイちゃん、そして脳内の見えない支援精霊から飛んで来る、刺すような視線の方が痛かった。


「ソフィーよ。額のタオルはシンイチに自分で押さえさせておけ」


「で、ですが……」


「すり傷じゃ。見た目ほど大したことはない。それよりも……」


 ギロリとルカの目が俺を睨みつけて来た。


「シンイチが頭の中の精霊に対して、どのような無体を働いたのか、後でじっくり聞かせて貰うことにするかの」


(ココロ:ルカさん……見えない私たちのことを、気にかけてくださるなんて


(シリル:人間がよくできたドラゴンですね)


(ココロ:分かりました。田中様の処刑については、ルカさんの判断にお任せすることにしましょう)


(シリル:田中様には、私たちとの信頼関係がこれ以上崩れることのないよう、誠意ある対応をお願いします)


(ハッ! 仰せのままに!)


 俺が再び土下座しようとしたので、ソフィーさんが慌てて制止に入ってきた。


 その後、直接地面に正座させられたまま、俺は事の経緯をルカに説明した。


 ルカは


「まったく……しょーもない。これで手打ちにせい」


 と言って、一回転ドラゴン尻尾ケツバットを俺のヒップに決めた。


「うひぃ!」


 俺の情けない悲鳴を聞いたココロチンとシリルっちも、それで納得してくれた。


 ハァァァ……二人が納得してくれてよかったよ。


 でもさ……


 でもね……


 確かに盗撮はいくない。いくないよ?


 でも結局、ココロチンの写真が欲しいなって佐藤さんに言って断られただけだし。


 三姉妹と支援精霊の乳カップ判定なんて、俺の脳内だけの話なんだよ。


 ただの妄想だよ。


 誰でもするよね妄想!


 内心の自由とか、そんなのさえ俺にはないのか!?


 チクショー!

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