第154話 まっとうに生きる
頭の中で妄想しただけで、断罪されてしまった俺は、とても反省した。
これからはまっとうな人生を歩くんだ!
そう決意して、目の前にいる魔族たちを見渡した。
ふむ。ゴブリン族は男が一人、女性が二人、子供が二人。
ふむふむ。オーク族は野郎が一人、あとの二人は女性か。
鼻が豚っぽいのがあれだけど、二人ともそこそこ美人だな。
ふむふむふむ。ハーピー族は4人全員が女性か。ラミアみたいな種族的な特性で女性しかいなかったりするのだろうか。
やはり飛翔のためにはなるべく体重を落す必要があるのだろう。バストは徹底した軽量化が施されているようだ。
だが服越しでもわかるぞ、その形のよい胸。
結構なお手前で!
ふむふむふむふむ。ケンタウロスは男性一人と女性一人か。二人は姉弟なのだろうか。二人とも金髪碧眼、馬部分の毛の色も全く同じだった。
そして女性は超美人だ。姫騎士というのがぴったりな感じの、気が強くで誇り高いオーラがビンビンと出ている。
それと、ミノタウロスは野郎か。そうか。
じゃ、次。
そして最後にラミア三姉妹。
姉妹と勝手に呼んでいるが、髪と目だけでなく、身体の色も違うから、たぶん姉妹ではないだろう。
だが、
高身長で、他のラミアと比べると小ぶりの、ソーシャさん。
背は低いけど、胸に世界最大の夢が詰まっている、エレノーラさん。
二人の中道を行くノルフィンさん。
いずれも腰がキュッと締まっていて、一番ちっぱいのソーシャさんでさえ胸の膨らみがヤバイ。
こんな美人の三人と仲良くなれたら、もう毎日がハーレムと言って……
(ココロ:ライラさんに……ボソッ)
(シリル:報告……ボソッ)
……毎日がハーレムとか言ってるる場合じゃなくって!
こんな困っている魔族たちを、このまま放っておくなんて俺にはできない!
そう!
目の前で!
今、困っている魔族立ちを!
「このまま放っておくことはできない!」
辺りが静まり返っている中、突然絶叫を上げた俺に全員の視線が集中する。
「ド、ドラゴンの婿さま?」
俺を見て驚きつつも、ソーシャさんが声をかけてくれた。
他のラミア姉妹は「こいつ頭大丈夫か?」という目線を俺に向けている。
「なんじゃ、シンイチ。また頭の中で揉め事か?」
「ちがうんだ! ルカちゃん!」
俺はルカの言葉を遮って、必死になって訴えた。
「ここにいる皆を放っておけない! 皆にはグレイベア村に住んでもらおうよ!」
「「「「「!?」」」」」
魔族たちの間にどよめきが起こった。
「ドラゴン様の村に……」
「もう当てもなく逃げる必要はなくなるのね……」
「ようやく安住の地が得られるのか」
「わーん! ジンイヂィィありがどぉぉぉ!」
「ジンイディィィ」
ゴブリンとハーピーの子供が、俺の足にガッシリとしがみついてワンワンと泣き始める。
子供の涙でも、これは悪くない方の涙だった。
だが、とりあえず俺のズボンで涙と鼻水を拭うのやめてもらっていいかな。
俺は右足にしがみ付いているゴブリンの子供を抱え上げる。
右足が空いたところへ、今度はグレイちゃんがしがみついてきた。
「うーっ! シンイチえらい! うーっ! わたしもそうして欲しかった! うーうーっ!」
よかったグレイちゃんも喜んでくれたみたいだ。
けど俺の太ももに噛り付いて、涎まみれにしようとするのやめてもらっていいですか?
子供に襲われている俺を見て呆れつつ、ルカが
「ちょうどそのことについて、ソーシャたちと話をしていたところじゃ。シンイチがそういうなら何も問題ないということじゃの」
「ドラゴンの婿さまは、人間でいらっしゃるのに、私たち魔族に対してもお優しいのですね」
そういってソーシャさんが、瞳のうるおい成分をマシマシにして俺を見つめてくる。
「い、いや、いやぁぁ! そ、そんなの同じ世界の住人として当然のことっすよ! あははぁ!」
ライラ以外の美人に生まれて初めて(のような気がする)褒められて、俺はつい有頂天になってしまった。
「わらわには、何かやましいことを誤魔化すときのシンイチの態度が透けて見える気がするんじゃが……気のせいかの?」
ビクッ!
「そそそそ、そんなわけないじゃん!」
(ココロ:ビンゴですよ! ルカさんって凄いですね!)
(シリル:普段から田中様をよく観察されておられるのでしょう)
俺はルカと支援精霊たちの言葉を無視して、ソーシャさんに話を振った。
「そ、それじゃ、ソーシャさん。今晩はここで野営して、明日グレイベア村に出発しましょう」
「ジィィィィ」※ルカのジト目。
(ココロ:ジィィィィ)
(シリル:ジィィィ)
ダラダラ~。※右足に食らいついたグレイちゃんの涎が流れ落ちる音。
うるうる。※ソーシャさんの何かを期待するような眼差し。
「ジィィィィ」※エレノーラさんとノルフィンさん
「「「ジーッ」」」※魔族の皆さん
何故だろう?
皆の視線が痛い。
いやいや何故だ! 俺は今まっとうな人生を歩もうとしているというのに!
「ルカちゃん!」
「なんじゃ、シンイチ」
「俺、今日はここで皆と野営するから、ルカちゃんとグレイちゃんはグレイベア村に帰って、状況を説明してきてもらえるかな。ライラたちも心配するだろうから」
「ふむ。それはそうじゃの」
そう言ってルカは顎に手を当てて何やら考え込む。
「ではグレイちゃん、ソーシャを乗せてグレイベア村に戻り、ライラたちにこの状況を伝えてくれ」
「うーっ! わかった! ソーシャを乗せて先に帰る!」
「うむ。頼んだぞ」
ルカによってグレイベア本来の姿に戻ったグレイちゃんは、ソーシャを頭に巻き付かせると、グレイベア村に向ってドシンドシンと走って行った。
「ルカちゃんは帰らなくてよかったの? もし妖異が出たとしても、俺一人で何とかできると思うけど」
「妖異のことは心配しとらんわ」
「じゃぁ、何が心配なのさ」
「ここに残される魔族共じゃ。考えてみろ、妖異を一瞬で屠るような者がここにおる」
「今の話の流れで言えば俺のことだよね?」
「そうじゃ。そんな恐ろしい力を持った者というのが、突然わけの分からんことを喋ったり、喚いたりする狂人だとしたらどうじゃ。怖いじゃろうが」
「狂人呼ばわり!?」
「だがここにドラゴンたる、わらわが居るのであれば、彼らも安心して夜を過ごせるというわけじゃ」
「……まぁ……分かります」
まっとうに生きようとしただけで、この仕打ち。
ルカに返事をする俺の口は、ふてくされてひょっとこみたいに口が付き出していた。
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