SCENE-007 ワンサイドゲーム


「パーティの構成的に物理火力偏重の私たちだと削るのに時間がかかるってだけだから、今回は焦らずいきましょ」


 使役士テイマーの〝応援〟やこの手の〝声かけ〟には〔鼓舞〕の効果が乗って、私の眷属扱いになっている二人には、私との関係値に応じたバフが付与される。


 〔騎乗〕スキルを持っている私がそうそう振り落とされたりしないとわかっているジンは、私からのバフに背中を押されるよう走る速度を上げて。下草に覆われた地面を耕す勢いで飛び出してくるトレントの根をひらりと避けてみせた。


『姫も無理はしないようにね。攻撃を避けるのは俺に任せてくれていいから』


 セカンドジョブに従騎士エスクワイアが出て、ジンよりも耐久力のあるロウは最前線で回避盾。

 セカンドジョブが戦士のジンは私の護衛をしつつ遊撃。


 使役士テイマー付与術師エンチャンターと、見事に支援系のジョブしか生えなかった私は二人の支援と指示出し。必要があればジョブとは関係なく生えたスキルで魔法攻撃担当と、私たちのパーティはそんな具合の役割分担で機能している。


「熱いのと滑るの、どっちがいい?」

『燃やすか凍らせるかってこと?』

『燃やせ』


 最前線のロウがそれでいいなら構わないかと。私は容赦なく、木のモンスタートレントに対して最大の効果が見込める〔火魔法〕を唱えた。


「火炎よ――」


 腰のベルトから引き抜いた短杖を、今はロウに向かって柳のような枝を振り回しているトレントへと向けて。科学的には存在の証明されていない〝ダンジョン由来のエネルギーまりょく〟を意識する。


 体の奥底から湧き上がって、血液のように循環しているエネルギー。

 それが手の平から杖に伝って、触媒として埋め込まれている宝珠に溜まっていく様を。




 魔力は燃料。

 スキルは火種だ。


 ライターでカチッと火をつけるようなイメージで、杖先に火を灯す。


 最初はこれだけでいちいち感動したものだけど。今はもう、魔法の力だけでモンスターを倒すことだってできる。


 さすがに、フロアボスを一発撃破とはいかないけど。




 どんどん魔力を注ぎ込んで膨らませた火種が火球になって。

 魔力を燃やして赤々と揺らめく炎を、これ以上はもう保っていられない……というところまで、私は熱心に育て上げた。




 限界まで膨れ上がった火球は杖の先から離れると、私が思い描いたとおり、火の玉ファイアボールというよりアローのような勢いでトレントめがけて飛んでいく。


 ロウのことを追い回している枝の一つにぶつかった火球は、まるで火炎瓶が砕けて中の燃料を撒き散らすかのよう盛大に弾けて。

 私が込めた魔力とともに飛び散った炎は、私の意識が行き届いている限り魔力が尽きるまで消えることなく、導火線を燃え進むような勢いで、トレントの枝を燃やしながら幹へと迫っていく。




 魔法の遠隔操作は、魔法をただ維持する以上に集中力を要する作業で。攻撃されたことに気付いたトレントからの反撃――地面から飛び出してくる根や、ナイフのように飛んでくる鋭い葉――を避けるのは完全にジン任せになってしまうけど。普段の戦いっぷりや、完全〔獣化〕した今日の動きを見ているだけに。敵が一体で、私というお荷物を乗せているとはいえ、ジンが回避に専念している現状、被弾への恐れは感じなかった。




 ロウジンも、私のことが一等大事だ。


 いざというとき、自分のダメージは度外視して私のことを庇うくらいのことはするかもしれないから。そんな二人のことが心配なのと同じだけ、私には、自分が倒れるのは一番最後だという確信と安心感がある。


 だからボスの前で、容赦のない攻撃に晒されながらでも、落ち着いて魔法を唱えていられる。


「火炎よ――」


 魔力を練って、飛ばし、絡みつかせて。

 トレントが力尽きるまで、ひたすら同じことを繰り返す。




 最初の火球が数本の枝を燃やし尽くした時点で、目の前のフロアボスがどんなに巨大で、通常の階層にいるトレントよりも耐久力の面で優れていようと、私の魔法で燃やし尽くせるたおせることはわかっていたから。私にはなんの焦りもなかった。


 落ち着いて、自分にできることをこなしていれば、結果は自ずとついてくる。




 この木なんの木? と、思わず口ずさみたくなる威容のトレントを私の魔法が焼き尽くすのに、それほど時間はかからなかった。



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【短編】天職、使役士 葉月+(まいかぜ) @dohid

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