SCENE-006 フロアボスLv20
周回し慣れた第十七層から十九層にかけてを一通り回った後でも、まだ時間に余裕があって。
運良く、第二十層のボスが湧いていて。湧き待ちの人もいなかったから。
「姫の
「ジンはこう言ってるけど、ロウは?」
「お前に任せる」
「じゃあ……そういうことで」
そんなノリでフロアボスへの挑戦を決めた私たちに、規則で立ち会うことになっている見届け役――国内のダンジョンを管理している〝協会〟の職員――も苦笑いだ。
「レベル的には余裕があるから、挑戦するのは構わないけど……初めてのフロアボスって、普通はこんな行き当たりばったりに挑戦するものじゃないからね?」
「でも姫、ここの湧きとドロップ品の傾向は把握してるよね?」
「そりゃあ……出てくるモンスターは十一層からの森林フィールドと共通だし。前情報なしでダンジョンとか怖すぎるでしょ」
「それなら行き当たりばったりではなくない?」
「予約も入れないでボス戦なんて普通に行き当たりばったりでしょ……」
ぐだぐだと話しながら、ベルトに挟んで簡単に取り出せるようにしてあるポーションのストックや、細々とした装備の点検を済ませて。
どこのダンジョンでもだいたい同じような作りをしている、ボス部屋へと続く扉に手をかけると。私のすぐ隣にいた
「いくわよ」
「『いつでも』」
準備万端。
パーティリーダーとして、私が押し開けた扉の隙間をオオカミ姿の
「ご武運を」
フロアボスへの挑戦の見届け役として一緒にボス部屋へと入ったダンジョン協会の職員は、私たちの邪魔にならないよう、ボス部屋に入ってすぐ、閉じた扉の前で立ち止まると、自分の周囲にだけ小さな結界を張って気配を消した。
国際ダンジョン機構に加盟している日本ダンジョン協会――日本国内に存在しているダンジョンの管理と、探索者へのサポート業務を一手に担っている組織――は、世界的に探索者の損耗率が低いことで有名らしい。
その理由の一つが、これ。
ボス戦には必ず立ち会うことになっている協会の〝見届け役〟は、私たちがボスに対して力不足だと判断するか、明確に助けを求められた場合、緊急避難として全員まとめて安全地帯へ転移させる手段を持っている。
だから。不意に致命の一撃でももらわない限り、ボス戦だからといって普段の探索と比べて極端に危ない、ということはない。
むしろ、協会がつけた〝命綱〟を無条件に信用するなら、いざという時の保険がある分、気持ち的には余裕があるくらいだ。
逢坂ダンジョンは既に攻略済みのダンジョンで。この手のダンジョンの場合、フロアボスとして現れるのは、これまで踏破してきたフロア――今回は第十一層から十九層にかけて――に出現するモンスターのボス格と相場が決まっている。
ボス部屋で初見のモンスターと相対する可能性があるのは未攻略のダンジョンくらいのもので。それも最初の一回きり。
先行した
ボス
『トレントだ』
入り口からある程度離れたところから、ボス部屋の床はこれまでの階層と同じ、下草で覆われた自然感のある地面に変わっていた。
「動きが鈍いから振り切るのは簡単だし、美味しいドロップもないからいつもスルーしてたけど、倒さないといけないとなると厄介よ。物理でちんたら削って耐久するのも択ではあるけど……」
「レベルはこっちが上だから、姫の魔法も通るよね?」
「魔法抵抗力に全振りの特殊個体とかじゃない限りはね」
そういうことならと、
トレントの動きが遅いのは移動に限った話で。鞭のよう振り回される枝や地面の下からの根による攻撃は、ジョブやスキルによる強化がフィジカルにまで及んでいない、私のような支援職が片手間に避け続けられるようなものでもない。
こういうのは適材適所。
やむを得ないと納得できる理由があれば。私だって、
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