タケヒナチャンネル
棚霧書生
タケヒナチャンネル
鶏が先か卵が先か論争ってのがある。だいたいにおいて結論は出ない。生物に詳しくないし、ググるこまめさもない。なにも真面目な話をしたいわけじゃない。今夜の配信で雑談をするのにちょうどいいお題があればそれでいいのだ。
最近流行りの作業ゲーム。養鶏農家になって、鶏の世話をし卵を生産して、販売しまくる。農家のキャラクターをカーソルで動かすだけの超単純な操作がウケている。雑談メインの配信者が画面の賑やしに、雑談片手間にプレイするのが散見された。片手間にやれるなら別にこの養鶏ゲームでなくてもいいのだが、誰かがやってるのを見て誰かが真似する。そして段々と養鶏ゲームの露出が増え、とりあえずで同じゲームを選ぶようになる。
「クック道が面白いから、配信に選ばれるのか。配信に選ばれたから、面白く感じるのか……どちらが先だったんでしょうね、今となっては誰にもわからないのではないでしょうか……」
わざとらしくニュースキャスターっぽい言い方をしてみた。コメント欄でツッコミが入る。今日はコメントを活発に打ちこむリスナーが多い、良い日だ。コメント欄の動きが悪ければ、いくら喋りが上手くても配信を面白くするのは至難の業。まあ、たまにコメントゼロでも延々と喋り続ける変態みたいなのもいるがそういうやつは早々に人気になっていく。
配信は誰でもできるが人気になるのは一握りのやつだけ。俺は、その一握りになってやろう……と考えたことがないわけでない、が、配信のペースは一週間に一回やるかどうかだし、キラーコンテンツとなるような面白い動画もない。アーカイブには編集していない配信そのままの動画だけを雑に載っけている。魅力的な配信者の多いこの現代にわざわざ俺を見ようというやつは全然いない。まず配信を見つけてもらうまでがものすごく運の要素が絡む。
「“筋トレってまだやってんの? 筋肉作るには、卵食ってタンパク質を摂っとけよ、コケコッコ”。あ~……このコメもしかして最後のとこ韻踏んでる?」
無駄にボケてくるのはだいたい配信中にコメントを送ることに慣れてる人だ。ユーザーネームを確認するとやっぱり常連の名前で、また俺の配信に来てくれたんだなと思う。こういうリスナーを大事にしなければ。
“タケヒナくんはさ〜、ガッツがないのよね~、筋肉モリモリになって出直してもろて”
感謝しようと思った途端に微妙なコメントしないでくれよ。反応に困る。
「ゆるゆるなのが俺のウリなので、ガッツのある俺とかキショいでしょ?」
“タケヒナくんは〜ガッツあってもなくてもキショさ標準装備です、ガハハッ”
「俺、キショくないもんッ! 普通だもんッ!」
テンション高めにして返答することでコメントを受け流す。表には絶対に出さないけど疲れてるときって、こういうどうでもいい言葉に引っかかるときがある。配信者やめようかなとかちゃんと思うわけじゃなくて、なんとなく気分が乗らない日が増えて、次までの配信の期間が長くなっていく。
いつの間にかゲーム内で卵を売りさばいた数字がものすごい勢いで増加している。
「俺のチャンネル登録者数もこんくらいメキメキ伸びないかなぁ」
でも数が増えたらどうでもいいコメントをするやつも増えて、うっすいブルーなお気持ちになることが頻繁になるのだろうか。それはなんか嫌だな。
キャラクターがせっせか動く。卵を生産して販売して、売り上げの数値はうなぎ登り。だけど、本当にそれだけ、キャラクターをずっと行ったり来たりさせるだけだ。一時間もするとこのゲームってなにが面白いんだろうかと虚無感に包まれる。
「これだけ卵があればバケツプリンどころか、プールプリンも作れますね~、みなさんのプリンで溺れる夢が叶いますよ」
「鶏って人類が卵を持ってっちゃうから、産卵のペースが早くなったらしいですよ。子孫残さないとですもんね、絶滅しないための進化ってすごいですよね、ま、そのおかげでさらに俺たちが卵を食えるわけですけど」
「質問きてた! タケヒナくんは親子丼は食べられますか? わかってると思いますが補足するとエッティな意味でです。あ~、エッティな意味ってなんだろ〜、ぜーんぜんわっかんないぜ!」
今日も今日とて、中身のないトークを繰り返していく。虚無りそう。次の配信は再来週か、もしかしたら来月になるかも。
「じゃあ今日はこのへんで終わりまーす。おつヒナ〜」
終わった。はよ風呂入って、寝よ。
配信終了画面を見て、あっと思う。チャンネル登録者がひとり増えていた。
とりあえず、今週はもう一回だけ配信をやってみてもいいかもしれない。
終わり
タケヒナチャンネル 棚霧書生 @katagiri_8
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